高免疫力ボディになる生き方|「まじめ」より「がさつ」、「やせ」より「ちょいポチャ」、 「ジョギング」より「早歩き」
体にいいものだけを厳選して食べ、禁酒を徹底し、毎日運動も欠かさず、「いくつになってもスリムね」がいちばんのほめ言葉。もし、健康のためにそんなストイックな暮らしを送っているなら、少し肩の力を抜いた方がいいかもしれない。
なぜなら、免疫力を上げる本当の秘訣は意外な生き方にあった!? 免疫学の専門家に教えてもらった。
厚生労働省が3都府県で行った新型コロナウイルス感染歴の有無を調べる抗体検査の結果を見ると、陽性と判定された人の割合は東京0.10%、大阪0.17%、宮城0.03%と、ほとんどの人が「これから感染する」状況だ。日本国内でも開発が進むワクチンが完成したとしても、「終息は難しい」と言う専門家も多い。ようやく都道府県をまたいだ移動が可能になったが、これで終わりではない。新型コロナウイルスとの闘いは、まだまだ長丁場になりそうだ。私たちにできることは、できるだけ感染しないよう、体の免疫力を上げることしかない。
体の中の免疫システムをおさらい:NK細胞って?
そもそも、私たちの体の中で、免疫はどのように働いているのだろうか。順天堂大学医学部免疫学特任教授・アトピー疾患研究センター長の奥村康さんはこう解説する。
「免疫システムとは、体内に侵入してきたウイルスや細菌、異常な細胞などを退治して、体を病気から守る仕組みで、主に血液中の白血球が担います。異物を食べるマクロファージ(健康な状態では免疫システムのうち約5%)、細菌などを食べて闘う顆粒球(約60%)、そして、ウイルスなどを殺しながら抗体をつくるのに役立つリンパ球(約35%)などがあります」
このうち免疫の中心であるリンパ球には、主に「ナチュラルキラー細胞(以下NK細胞)」や、「T細胞」「B細胞」など数種類ある。
奥村さんによると、新型コロナウイルスの抗体検査で調べるのは、T細胞やB細胞が新型コロナに対抗できる力を持っているかどうかで、NK細胞の対応力は調べないという。
「NK細胞は、常に体の中をパトロールして、ウイルスや細菌に感染しないよう対処し、体の治安を守る“おまわりさん”のような存在。一方のT細胞、B細胞は、NK細胞よりも強い“軍隊”のような存在で、健康な状態では“出動”しません。しかし、NK細胞が対処しきれずにウイルスなどに感染してしまうと“出動”して、これらと闘います。発熱などがある場合は、いわばウイルスとT細胞・B細胞が“戦争状態”にあるようなものです」(奥村さん・以下同)
加齢とともに免疫力は下がる
ただし、NK細胞は、ストレスなどのダメージによって働きが低下するといわれている。そもそも、免疫力そのものは加齢によって低下する。思春期にピークを迎え、40代でピークの半分になり、70代ではピークのたった10%にまで下がるという研究データもある(下グラフ参照)。
NK細胞の活性化がウイルスに打ち勝つカギ
さまざまな免疫システムがあるだけに、加齢にあらがって免疫力を上げることは容易ではない。それを踏まえたうえで、奥村さんはこんな指摘をする。
「NK細胞は、生活を見直せば活性化されるといわれ、近年特に注目されています。新型コロナウイルスに打ち克つために免疫力を上げたいなら、NK細胞の活性化が重要だと考えます」
●人から身勝手だといわれても、まあいいかと思う
では、できる限り免疫力を上げるにはどうしたらいいか。奥村さんによれば、食事や運動に気を配りすぎる“意識高い系”の暮らしは、かえって逆効果だという。
「まじめで責任感が強くがまん強い人は要注意です。フィンランドの大規模な調査で、まじめに健康管理をしてきたグループと、健康に気を使わずに過ごしてきたグループを15年間追跡した結果、“まじめグループ”の方が死者数が多かったのです」
心臓血管系、高血圧、がんなどによって亡くなる人の割合も、まじめグループの方が多かった。健康診断の数値や日々の食事、運動などを気にしすぎることが大きなストレスとなり、それが免疫力を低下させたのだ。
「マイペースで、人から“身勝手だ”といわれるような人や、いつも陽気に笑っている人は、NK細胞がよく働きます。何かトラブルがあっても“自分のせいではない” “まあ、いいか”と思えるような図太さを持った方が、免疫力にはいいのです」
●最も健康なのはちょいポチャ
長かった自粛期間中にコロナ太りしたという人も、免疫力のうえでは、嘆く必要はない。というのも、最も健康とされるのは、スリム体形でもマッチョでもなく、“ちょいポチャ”だからだ。
「厚生労働省の研究では、40才の時点でBMI(*)が25~30の人は、やせている人よりも平均して6~7年ほど長生きしていることがわかりました。また、女性は年齢を重ねるとコレステロール値が上がりますが、これも心臓疾患がない限り、300以下であれば、むやみに下げようとする必要はありません。たとえ悪玉コレステロール値が180mg/dl以上あっても、コレステロール値が低すぎる人と比べると、肺炎が原因の呼吸器疾患による死亡率が男性は3分の1以下、女性は半分になったという報告があります。さらに、コレステロール値を下げる薬をのむと、副作用でNK細胞が不活性化することもわかっています」
日本人の長寿の秘訣はいろんな種類の食べ物を食べるから!?
食事も、ストイックになりすぎないことが大切だ。
「“〇〇は免疫力を上げる” “〇〇は体に悪い” など、さまざまな情報があふれていますが、特定の食べ物を極端に避けたり、反対に同じものばかり継続して食べたりするのはおすすめしません。神経質になりすぎるとストレスになり、NK細胞の働きが悪くなります。好きなものを好きなように、できるだけいろいろな種類の食べ物を食べるのがいい。世界を見渡しても、日本人はかなりいろいろな種類の食べ物を食べています。それが長寿の秘訣だという専門家もいるくらいです」
体重もコレステロール値も、気にしすぎると免疫力を下げる。少しくらい数値が高くても、「まあいいや」と笑い飛ばせる余裕が必要だ。
一方、注意すべきは血糖値が高い場合。内科医で池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんが言う。
「血糖値が高いと、白血球の機能が阻害され、免疫力を低下させます」
国立国際医療研究センター糖尿病情報センターも、糖尿病患者は呼吸器や尿路、皮膚などの感染症にかかる確率が上がると発信している。
(*)身長に対する体重の割合。体重÷身長÷身長で計算できる。
免疫力を高める具体的な生活
では、具体的にはどうしたらいいのか。大谷さんは、
「食事、運動、睡眠を整え、うまくストレスを解消することが最も重要」と、
●朝食は抜かない
生活の基礎を固めることの重要性を説く。食事は、さまざまなものを食べるだけでなく、抜かないことも重要だ。
「朝食を抜くと、死亡率が1.3倍も上がるというデータがあります。炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維の6大栄養素のうち、特にたんぱく質は不足しがち。また、3食とも肉や魚、大豆などを意識して食べるようにして。ヨーグルトと果物だけでもいいので、きちんと朝食を食べるようにしてください」(大谷さん)
●乳酸菌の摂取
奥村さんも、乳酸菌の積極的な摂取をすすめる。
「腸内には免疫細胞の70%が存在しているため、乳酸菌を摂って腸内環境を整えることは、免疫力の向上につながります。ヨーグルト、乳酸菌飲料のほか、納豆やキムチにも多く含まれるので、いつもの食事にプラスしてほしい。きのこ類やもち麦などに含まれる水溶性食物繊維のβ-グルカンは、NK細胞の働きをよくします」(奥村さん・以下同)
●酒やたばこも無理にがまんする必要はない
では、酒やたばこといった嗜好品はどうか。
「お酒が好きなら、無理にがまんすることはありません。がまんするとそれがストレスになる。二日酔いするほど飲むとNK細胞の働きが下がるので、飲みすぎには注意して、ほどよく楽しんでください。同じ理由で、50才を過ぎてもたばこを吸っているのであれば、人によっては禁煙のストレスによる害が非常に大きくなる場合も。喫煙者だからといって、新型コロナウイルスに感染しやすくなるというわけではありません。ただし、感染してしまった場合の重症化リスクは非常に高いことは知っておいてほしい」
●運動は、昼間、ほどほどに
「ほどほど」がいいのは運動も同じ。
「運動は確かにNK細胞を活性化させますが、息切れするほどジョギングなどをすると、運動後は、それ以前よりもNK細胞の働きが落ちる。おすすめは“ちょっと早歩き”くらい。軽い運動をすることで体温が少し上がり、NK細胞が活性化します。しかも、運動後もその状態をキープできるのです。NK細胞の働きは朝から昼にかけて上がり、夜は下がるため、運動をするなら日中の方が理想的だといえます」
●楽器の演奏、歌う
そして、こまめにストレスを発散することが大切だ。大谷さんはこんなデータを示す。
「10人前後で集まって1時間ほど打楽器を演奏することで、リンパ球やT細胞、NK細胞の数など、免疫系が向上したことを示す論文があります」(大谷さん)
楽器の演奏だけでなく、歌うことも免疫力を上げるのに役立つ。
「飛沫の飛散には充分注意が必要ですが、カラオケはよいストレス発散になり、免疫力を向上させるでしょう。た、悪口を言うのもいい。なかなか人前では言えませんが、それを吐き出せる関係の家族や友人と会話するだけでも、ストレスを解消できる」(奥村さん)
奥村さんは、
「生活習慣に影響を受けるNK細胞は、すべての免疫機能のほんの一部で、それ以外の部分は簡単に働きをよくすることはできない」
と念を押す。それは裏を返せば、「NK細胞以外の免疫システムは、簡単に働きが落ちることもない」ということ。
免疫力を上げるために私たちにできるのは、「明るく楽しく、図太く生きること」だけ。食事も運動も、“いい加減”を貫こう。
これが「高免疫力ボディー」!
・いつでも笑顔。できれば大笑いを。
・カラオケや好きな音楽でストレス発散。
・ちょいポチャ。コレステロールも気にしない。
・細かいことは気にせず、悩まない! ・二日酔いしない程度にお酒を楽しむ。
・がまんせず、おおらかに生きることが大切。
高免疫力になる! “ゆるゆる”10か条
1、 常に笑顔でいるべし
2、多少身勝手に生きるべし
3、〝ちょいポチャ〟が吉
4、「早歩き」も立派な運動と心得よ
5、好きなものを偏りなくいろいろ食べるべし
6、朝からガッツリ食べるべし
7、お酒もほどよく飲んでよし
8、ストレス解消のためなら悪口もやむなし
9、健康診断の数値は気にするべからず
10、ただし、血糖値だけは上げるべからず
“ゆるゆる”な生き方が免疫力を上げてくれる。
教えてくれた人
奥村康さん/順天堂大学医学部免疫学特任教授・アトピー疾患研究センター長。
大谷義夫さん/内科医で池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さん
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2020年7月9日号
https://josei7.com/