連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第60回 兄への不安、わたくしの不安」

 57才で若年性認知症を発症した兄と暮らすライターのツガエマナミコさんが2人の日々の様子を綴る連載エッセイ。他界した母の認知症介護の経験もあるツガエさんは、兄の変化にはいろいろと思うことがある。そしてツガエさん自身の体力、体調も気になるこの頃だ…。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

前の話を読む 

 * * *

加速する認知症と私の寄る年波問題

 兄と二人で地方の大雨のニュースを見ながら昼食をとっていると、急に「今日はここ何時に閉めるの?」と聞かれ、「???」となってしまったツガエでございます。

「え?閉めるって?」
「だから、ここ何時まで開けるの?」
「う~んと、ここに住んでるからさ…、ずっと開いてるよね」

 本当に意味が分からなくて言葉に詰まったのですが、あとからよくよく考えると、たぶん兄は一瞬「会社にいた」のだと思います。あくまで想像ですが「大雨=早めの帰宅」から出てきた言葉なのではないかと…。ただ大雨は遠い地方のお話だったんですけれど。

「あ~、うんうん」

 話題が変わったテレビに夢中になっている振りをして話をうやむやにした兄。いつものことです。兄との会話はたいてい尻切れトンボでございます。

 名詞が通じないことも増えてきて「レースのカーテンを閉めてくれる?」とお願いしても厚手のカーテンを閉めるし、「網戸しないと虫入るから」と言うとガラス窓を閉めてしまうありさま。兄にお願いすることがどんどん面倒になって、「たのしくテレビを観ていてくれればそれでいい」と、諦めてしまう自分がいます。

 わたくしも寄る年波に老化が進み、心身共に弱ってまいりました。母を自宅で看取った実績はあるものの、あのころの自分とはもう体力も気力も違うのです。

 街でわたくしよりも明らかに年上のご婦人が颯爽と歩いているのを見ると、「自分はあの年齢であんなふうに歩けるだろうか」と考えるようになりました。

 というのも、最近膝痛が気になるのです。

「そんなときにはグルコサミンとコンドロイチン!」とかいうフレーズが頭をよぎりますが、今まではまったくの他人事でしたのに、ここへ来て将来の歩行に自信が持てなくなりました。カクンカクンと音が鳴るのは日常茶飯事ですし、ときに方向転換のときの軸足の膝でザリザリと不気味な感覚もあります。しゃがむのが痛いですし、しゃがみからの立ち上がりは床に手を突いて「よっこいしょういち」(古いダジャレです)の状態です。身が重いな~と感じて久しく、ダイエットの5文字は常に点滅しております。

 膝痛のほかにも痩せたい理由はございます。

 これもネット情報ですが、米国の大学の研究では「60代でBMIが高く、ウエストが大きい人は、脳の老化を10年以上加速させる可能性がある」とのこと。つまり認知症のリスクが高いというのです。しかも1日5時間座ったままスマホをしていると肥満リスクがめちゃくちゃアップするという研究結果も…。わたくしは5時間どころかもっと座っております…。どうりでウエストが見当たらなくなったわけです。

 家系的にも認知症のサラブレッドなので、いよいよちょいと食事量を減らし運動をしなければならないような気がしてまいりました。幸い60歳まであと2年半もございます。膝のためにも認知症予防のためにも減量は必須案件といたしましょう。

 ついでに断捨離できずにクローゼットで眠っているあのスカートもあのジーンズも復活できるボディーになれば、一石三鳥ではございませんか。さぁ、有言実行なるか?2年半後のわたくしにこうご期待でございます。

 今朝の兄は「今日は、ここ休みだよね」とのたまわれ、面倒なので「そうそう」と言っておきました。加速する兄の認知症に、わたくしの体力気力はついていけるのでしょうか…。

つづく…(次回は10月1日公開予定)

◀前の話を読む  次の話を読む 

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●「じつは…」高木ブーが今だから明かすビートルズ日本公演前座出演の裏話【連載 第26回】

●最新!平均寿命1位は香港、日本は?長寿国に学ぶ長生きの秘訣【まとめ】

●猫が母になつきません 第219話「かんけいない」

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!