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親が失禁したときの対応はどうするか…|700人以上看取った看護師がアドバイス

 加齢に加え、外出できない期間が続いたことなどのきっかけによる機能低下などで、失禁が始まってしまったら、本人も家族も悩むことになる。看護師として700人以上を看取ってきて、今は訪問介護の仕事をしている宮子あずささんに話を聞いた。本人も介護する側も少しでもラクになるように対策を講じていくためのアドバイスだ。

落ち着いて対応できるためには、寝具や寝巻きの準備を

 お年寄りが失禁してしまったときに、病院の看護師は、動揺せずに淡々と対応することができる理由はおわかりでしょうか。

●寝具や寝巻きがそろっているから、病院の看護師は動揺せずに対応できる

「そりゃあ、実の親じゃないから当たり前だ」と言われそうですが、落ち着いて対応できる理由として、病院には、替えの寝具も寝巻きも掃除する道具もそろっているから、ということが大きかったりします。

●在宅介護の場合は、失禁が始まったら準備することに

 訪問医療の場合は、そうした備えがないので病院より大変でバタバタします。失禁が始まったら看護師がご家族と相談して、いろいろ準備していくことになります。

 今回は、訪問看護にあたって、ご説明していることをお伝えしておきましょう。まずは、寝具や衣服を洗えるものにするということです。

●洗いやすいものにして、替えを備えておく

 シーツはもちろん、タオルケット、ベッドパッド、羽根布団も洗いやすいものにすることをおすすめしています。

 自宅の洗濯機が小さくて入らなければ、コインランドリーを使うといいでしょう。コインランドリーは他の人が使うからと抵抗があるかたもいると思いますが、最近は、空洗いをしてから洗濯物を入れるようになっているなど、かなり行き届いているので試してみてください。

 シーツやタオルケット、布団カバーなど、普通のお宅なら、替えはあっても1枚ぐらいかもしれません。しかし介護にあたっては、2枚・3枚替えがあると随分ラクになります。汚してしまったときに、すぐ洗わなくても大丈夫なようにしておくということです。濡れてしまった寝具を乾かせるように、浴室乾燥にしたらぐっと気がラクになったというかたもいます。

 いい綿布団などを使い続けることは、無理だと思うしかありません。敷布団だけでなく、掛け布団も結構汚してしまいます。せっかく打ち直しをしても、また同じことが起こって濡れてしまいます。残念ですが、思い切って捨ててしまったほうがいいかもしれません。

●防水シートや上下同じ寝巻きも

 ベッドパッドの腰があたるところの上に、防水シートを横長に掛けておくと、下まで染みなくてラクになります。ベッドマットレス自体も洗えるものが出ています。分解して洗濯できるようになっているので、アタッチメントの部分があり、そこが背中にあたって気になるということはあるかもしれませんが、検討してみるのはいいと思います。

 寝巻きは、同じ柄のものを上下何セットか買っておくのがおすすめです。下のズボンを汚したときに、上は洗わずに下だけ洗濯するということができるようになります。

●洗える、乾かせる、替えがある

 汚したらガーンとショックを受けるのは仕方ありません。親も介護する側も気まずくなります。それでも、洗える、洗っても乾かせる、洗っていてもその間に使える替えがあるというふうにしておくと、気持ちの余裕が持てるというのは大事なポイントです。

おしもの世話だけは、他の人に任せるという選択も

 おしもの世話は、デリケートな問題を含んでいます。

●抵抗があったり不公平のもとになる場合も

 私自身は、ナースですし、親のしもの世話をすることに抵抗はなかったのですが、抵抗感があるかたが多いのは理解できます。

 複数の家族で介護する場合、おしめの交換を娘にされるのはいいけど息子にされるのはいやだ、というような親御さんもいます。そうすると不公平感が出て、あとあとまでひきずることになってしまう恐れもあります。

 ちなみに、実の子だからいやだ、血がつながっていないからいやだ、男性にやってもらうのはいやだ、女性にやってもらうのはいやだなど、人によってさまざまです。その希望が必ずしもかなえられるわけではないことを前提に、腹を割って話せるといいと思います。

 以上のように、おしもの世話に抵抗があるとか、やる人とやらない人が出るとかいう場合には、おしもの世話だけ、他の人に任せるという選択もありだと思います。

●介護保険でヘルパーに来てもらうという方法も

 社会学者の上野千鶴子さんは、父親の介護にあたって、しもの世話だけはやらないと決めていたそうです。1日に短い時間ずつ、例えば4回とかヘルパーさんに来てもらっておむつを替えてもらう。しもの世話が苦手だったら、自分はそれはやらないと決めるのもひとつの考え方でしょう。

 最近では、介護保険で、1日に何度も短い時間に分けて介護の手助けに入ってもらうことが可能になりました。

 長期化していく可能性があるようなら、おしもの世話だけは自分たちでやらない道を探るということもありだと思います。 

<失禁への対応策のまとめ>

●タオルケット、ベッドパッド、布団などを洗いやすいものにする

●自宅の洗濯機に入らなければコインランドリーを使ってみる

●2、3枚替えを用意しておくと随分ラクになる

●綿布団を使い続けることはあきらめたほうがいい

●ベッドの腰があたる位置に防水シートを掛けておく

●寝巻きは同じ柄のものを上下何セットか買っておくと下だけ洗えて便利

●しもの世話は、抵抗がある場合や、介護側で不公平を生む場合がある

●介護保険を使って、しもの世話だけは自分たちでやらない道を探ってみることも

宮子あずさの今回のひとこと

●「気持ちをわかって寄り添ってあげる」がいいのか

 失禁のようにデリケートな問題に関しては、親に対して「大変だったわね」とエモーショナルに接してあげるのがいいとだけは言えない気がします。

 介護というと、思いやりとか感情レベルの話がクローズアップされがちです。「気持ちをわかって寄り添ってあげましょう」ということがしばしば言われます。

 しかし、実際に介護を続けていく上では、行動レベルの「快適に過ごせるようにどうしてあげられるか」のほうが必要だったりします。

 冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、弱って失禁してしまっている親の気持ちを完全にはわかってあげられません。介護する側に余裕がないときもあるから、いつも寄り添ってあげられるわけでもありません。親からしたら、自分のつらさがわかるわけはないじゃないかと感じているかもしれないのです。

 だから放っておいていいというのではなく、残念ながら介護ということには限界があるとわかった上で、どうしてあげるのがいいか考えていくべきだと思います。

 特に、近い距離で接することになる失禁という問題だからこそ、ある程度の距離、distanceを取ることを、頭においておくのもいいのではないかと思います。

→宮子あずささんの他の記事を読む

教えてくれた人

宮子あずさ

宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。

構成・文/新田由紀子

●尿失禁とそのケア~プロが教える在宅介護のヒント 「排せつ」のトラブル

●高齢者の高血圧対策に「1日1個のキウイ」がいい理由とは?

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