親の認知症が心配 「認知症かどうか気づく」チェックポイントと病院に連れていくコツ
もしも親が認知症になったら――考えただけでも胸が締めつけられる事態は、決して他人事ではない。今、大きな社会問題になりつつある介護離職。40~50代になれば、親の認知症に直面する人が出始めてくる。
認知症はある日突然なるものではないし、実際に認知症になっていても「いつもおかしい」わけではないため、周囲がなかなか気づけないことも多い。親が離れて暮らしている場合はなおさらだ。「認知症かどうか」に気づくためのポイントは何なのだろう。
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電話で同じ話を繰り返す、何度もかけてくる、細かいことにこだわる
川崎幸クリニック院長で、「認知症の人と家族の会」副代表の杉山孝博さんが言う。
「例えば、電話で話している時に同じ話を何度も繰り返す。切ったと思ったら、またすぐに電話をかけてくる。それも同じ内容で、話がくどい。あまりたいしたことではないのに、非常に細かいことにこだわるということもあります。“隣の人が変なことを言ってきた”とか、普通なら気にしないことをやたらと気にするとか。しかし、その時は『あれ?』と思っても、話し方はしっかりしているので、そのまま見過ごしてしまうことが多いのも事実です」
両親2人で暮らしている場合、例えば母親が「お父さん、今までとちょっと違うのよ」と言ってくることもある。または、あなたが帰省した時に「あれ?」っと感じるケースも。
「いつも小ぎれいにしていたのに、久しぶりに帰ったら服装が乱れていた、ちぐはぐなものを着ている、料理の雰囲気がそれまでと違うというように、“何か違う”程度のことから始まることが多い。でも、その時点ではまだ動かない人は多いですね。40~50代は忙しいのでつい見過ごしてしまいますが、その“勘”みたいなものが当たっている可能性はかなりあるんです」
●認知症に気づくポイント
・電話で同じ話を繰り返す
・切ったと思ったら、またすぐかけてくる
・非常に細かいことにこだわる
・いつも小ぎれいなのに服装が乱れる
無理やり受診はNG。風邪などで病院に行くときがチャンス
NPO法人「パオッコ~離れて暮らす親のケアを考える会~」代表理事で介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんはそう警鐘を鳴らす。
そうして異変に気づき、「認知症かも?」と思っても、無理やり病院に連れて行くのは絶対にNGだ。本人にはプライドもあり、「認知症」という言葉にアレルギー反応を起こす場合も多いからだ。
「子供が“急いで受診させないと”と焦ると、焦った様子が親にはすぐにわかります。認知症のかたは驚くほど鋭敏ですから。それよりも、例えば風邪をひいて頭が痛いとか、めまいがするといった時に、チャンスと思って病院に行く。
その際は医師にあらかじめ『風邪できましたが、実は認知症の疑いがあって、1回検査を受けさせたいのでこの機会にお願いします』と伝えておく。医師がうまく乗ってくれれば『頭が痛い場合、時には脳の病気もあるかもしれないから、今からちょっと検査しましょうね』と誘導してくれます。これなら、嫌がらずに検査を受けてくれるはずです」(杉山さん)
ただし、医師のすべてがこうした対応に慣れているわけではない。あらかじめ、あなたから医療相談窓口のソーシャルワーカーに相談しておき、医師に事情を説明しておいてもらうと、よりスムーズだろう。
●受診させるコツ
・「認知症」というワードに注意
・風邪などの機会で病院に連れていく
・あらかじめ医師に認知症の疑いがあることを伝えておく
・医療相談窓口のソーシャルワーカーに相談し、医師に事情を説明しておいてもらう
精神科ではなく、「もの忘れ外来」「メモリークリニック」が受診しやすい
本人に「もの忘れがひどい」などの自覚がある場合も、「精神科」に行くのはハードルが高いが、「もの忘れ外来」や「メモリークリニック」などの看板を掲げているところなら受診しやすいだろう。
準備段階だけではない、実際に受診する時にも、家族のサポートは重要だ。
「認知症の診断や治療のうえでいちばん大事なのは症状の把握です。いつ頃からどんな症状がどれくらい出ているのか。今、どの程度の生活上の混乱があるのか。それらはドクターと患者さんの間だけでは話が進まず、家族が伝える必要があります。というのも、患者さんはドクターの前ではしっかりした対応をするので、認知症らしき症状が見当たらないこともあるんです」(杉山さん)
その結果、「認知症ではない」と診断されれば、それだけ治療の開始が遅くなることになってしまう。
そうならないためには、家族が「半年ほど前から同じことを何十回も繰り返し言う」「通帳がいつもどこかになくなっている」といった具体的な症状やおかしな行動を、あらかじめメモに書いて渡しておくことがおすすめだ。
診察の時に本人の前で言うと「そんなことはない」と反発したり、「告げ口するな」と言ってけんかになりかねないから注意してほしい。
「患者さんもプライドを傷つけられますからね。家族ができるだけこれまでの経過や病歴を書いて事前に窓口に渡しておく。するとドクターは本人の前で細かく聞く必要がなくなりますから」(杉山さん)
医師が万が一、本人の前でそのメモを見ると、本人が気分を悪くするので、「本人には見せないでください」と書いておけばより安心だ。
●医師に伝えるポイント
・いつ頃どんな症状があるのか具体的なエピソードをメモしておく
・これまでの経過、病歴を病院窓口に渡し、医師が患者に質問しないで済むようにする
・本人には見せないでくださいと書いておく
診断は脳のCTで。認知症とわかれば本人、家族の前で告知も
杉山さんのクリニックでは、脳のCTで認知症かどうかを診断する。認知症とわかれば、その場で本人、家族の前で告知をすることも。
「告知の目的は、継続的に診療を続けられるかどうか。本当の事実を言えばいいかというと、それだけではないんです。その点、手術を受けるかどうかを迫られるがんの場合とは違います。
だから、『もの忘れが普通の人より強くなってきたので、もっと進まないようにお薬をのんだほうがいいんじゃないでしょうか』などとぼくは言います。皆さん、もの忘れがあるという自覚はありますので、納得されますね」
もし親が認知症となれば、私の生活はどうなるんだろう――不安ばかりが膨らむかもしれない。しかし、決して思いつめてはいけない。
教えてくれた人
杉山孝博さん/川崎幸クリニック院長。「認知症の人と家族の会」副代表。著書に『マンガでわかる 認知症の9大法則と1原則』(法研)などがある。
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、ファイナンシャルプランナー(AFP)。1960年、京都市生まれ。20年にわたる取材活動より得た豊富な事例を基に、「遠距離介護」「ワークライフバランス」「介護とお金」等の新たな視点で新聞・雑誌・テレビなどで情報発信。行政、組合、企業での講演実績も多数。著書に、『70歳すぎた親をささえる72の方法』、『老親介護とお金』、『故郷の親が老いたとき』、『遠距離介護』などがある。NPO法人パオッコ(http://paokko.org/about/)代表。
※初出:女性セブン
●いつか認知症になる心構え|最後まで自分らしくいるために準備すること