「伊勢うどん」は世界に誇るバリアフリーフード 縁起のいい「年明けうどん」に注目

「今、確実に伊勢うどんの時代がきています」。そう熱弁を振るうのは、当サイトでも人気のコラムニストであり、伊勢うどん大使としても活動する石原壮一郎さん。かつて、「ゆですぎの失敗作を客に出すな」とまで言われた切ない過去をもつ伊勢うどんは「究極のバリアフリー・フード」として脚光を浴び、世界にはばたきつつあるらしい。

ミシュランガイドにも伊勢うどんが登場

 2019年11月、人気のテレビ番組2本で伊勢うどんが紹介された。最初は11月1日放送の「チコちゃんに叱られる!」(NHK)。「うどんのコシって何?」というテーマの中で、日本一やわらかいうどんとして。番組内で発表された「全国ご当地うどん コシの強さランキング」で、伊勢うどんは序の口、つまり最下位にランクインした。

「この地位は伊勢うどんにとってはむしろ名誉なこと。ついに伊勢うどんがここまできたか、と感慨深かったですね」(石原さん、以下「」内は同)

 11月5日には「マツコの知らない世界」(TBSテレビ)の「やわうどんの世界」と題したコーナーで、フリーライター・うどん研究家の井上こんさんが伊勢うどんを取り上げた。番組内でマツコ・デラックスが試食したのは山口屋の伊勢うどん。山口屋は伊勢うどん専門店としては世界で初めて「ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019特別版」にミシュランプレート店として掲載された。

「伊勢うどんはふっくらとやわらかいのが最大の特徴ですが、山口屋さんの伊勢うどんはとりわけ太く、よりふんわりしています。それに、大量の出汁を何時間も煮込んで作る秘伝のタレをかけていただくんです」

伊勢うどんは日本最古のバリアフリーフード

 2013(平成25)年に完了した第62回の式年遷宮をきっかけに伊勢うどんも広く知られるようになった。しかし、古くから伝わる郷土食であるにもかかわらず、それ以前の知名度はそれほど高くなかった。そのため、「ゆですぎてぶよぶよだし、ツユもない。こんなものを客に出すな!」と客に怒られた経験がある伊勢うどん店は少なくない。

「それでも伊勢の人にとって、うどんと言えば伊勢うどんなんです。この地域では、赤ちゃんの離乳食にタレなしの伊勢うどんを食べさせるのが当たり前。咀嚼力やのみ込む力が落ちた高齢者でも、伊勢うどんなら食べられます。私の父も、晩年は『普通のうどんはよう食べやんで(=食べられないので)、伊勢うどんにしてくれ』と言っていました」

 伊勢の人にとってのソウルフード・伊勢うどん。実は赤ちゃんからお年寄りまで食べられる日本古来のバリアフリーフードだった。

伊勢うどんにはコシがない? いや、ある!

 伊勢うどんは400年以上前から、伊勢周辺の農家で食べられてきた郷土食だった。その後、江戸時代になると「一生に一度はお伊勢参り」が大ブームとなり、年間500万人が伊勢に押しかける事態に。ガスも電気もない時代、それだけの観光客にどんな食事を用意すればよいか……ということで、白羽の矢が立ったのが伊勢うどんだった。

「伊勢うどんは、生麺を1時間ほど下ゆでし、食べる前に再び3分ほどゆでてから提供します。当時は『釜揚げ』だったかもしれません。いわば元祖ファストフードであり、お腹を空かせた旅人には喜ばれたことでしょう。しかも、ふんわりやわらかくて消化がいいから、疲れた体と胃に優しい。1杯の伊勢うどんには、旅人へのおもてなしの気持ちがつまっているんです」

 ところで、コシがないと若干否定気味に言われることもある伊勢うどんだが、一部の関係者は「コシはある!」と主張しているらしい。

「『コシがない』というとグズグズに溶けたうどんを想像するかもしれません。でも、伊勢うどんは箸でちゃんと持ち上げられるし、口に入れるまではちゃんと形がありますよね。ですから、ある製麺会社の社長さんは、『伊勢うどんには芯はないけど、“やわらかいコシ”があるんです!』と強く主張しています」

 伊勢うどんにバリアはない

 伊勢うどんは「どんな食材でも受け入れる」という意味でもバリアフリーな食べ物だ。もともと、伊勢うどんの具といえば刻んだ青ねぎだけ。ベーシックな具材としてはほかに、かまぼこ、かつお節、揚げ玉などがある。

 しかし、伊勢うどんが全国に知られるようになるにつれ、「地味なままではいられない」とばかりに、さまざまな具とのコラボが始まった。例えば、卵、カレー、肉、かきフライに卵焼き、伊勢ではおなじみのあられ……。

「伊勢うどんと聞くと、『伊勢海老がのっているの?』と誤解されることがよくありました。でも、1杯400〜500円のうどんに伊勢海老がのるはずがありません。と思っていたら、ついに伊勢海老の半身の天ぷらがのった伊勢うどんが登場しました。現実が誤解に追いついたというか、ある意味、悲願を達成したんです!」

 伊勢うどんの進化はそれだけにとどまらない。最近、伊勢うどんそのものがほかの食品とのコラボに乗り出したのだ。伊勢うどん入りのパンに始まり、コロッケに太巻き。伊勢うどんフレーバーのソフトクリームやベビースターラーメン、かりんとうまで登場している。伊勢うどんの世界はどこまでもやわらかく、奥深い。

年明けの伊勢うどんで幸せな1年を

 年末年始の定番のひとつが年越しそば。それに対して、さぬきうどんで有名な香川県は10年ほど前から「年明けうどん」を提唱している。太くて長いうどんに、えび天やにんじん、梅干しなどの紅いものを添えて食べることで長寿や幸せを願うという新スタイルの縁起担ぎフードだ。

「太さとやわらかさでいったらナンバーワンの伊勢うどんを年明けに食べれば、その1年をやわらかく、より幸せに過ごせることは間違いありません! 伊勢うどんを食べて元気になって、ぜひ三重県に足を運び、当地で伊勢うどんを楽しんでください」

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。2013年夏より伊勢うどん大使として、その魅力を世界に広めるべく活動中。著書には『大人養成講座』『大人力検定』などに加え、『食べるパワースポット「伊勢うどん」全国制覇への道』(扶桑社)がある。 

撮影/政川慎治 取材・文/市原淳子 

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