瀬戸内寂聴さん 95才の生活支える「孫世代の美人秘書」
90歳を過ぎて、胆のうがんなどいくつもの手術を受け生還した瀬戸内寂聴さん。自ら「最後の長篇」という最新作『いのち』(講談社)が話題だ。作家が命の火を燃やして書くのが小説で、小説を書くことが自分の命であると、読者に宣言するようである。
作家の善悪は世間の常識と違う
書く瀬戸内さんは、書かれる存在でもある。瀬戸内さん自身と、作家で恋人だった井上光晴さん、井上さんの妻をモデルにした小説(「あちらにいる鬼」)を、現在、夫妻の長女で作家の井上荒野さんが文芸誌で連載中だ。
「面白いでしょ、あの小説。二人は亡くなったし、私も半分死んでるようなもので(笑い)、こんないい材料はないから、書け書けってけしかけてるの。荒野さんは当時子どもだったから知らないことも多くて、私がなんでも話してあげるって言ってるのよ」
いいことも悪いことも全部伝えるんですか、と聞くと、「いいことと悪いことって誰が決めるんですか」と聞き返された。
「作家のいいことと悪いことって、世間の常識と違うんじゃない? 周りがあんなことをして、と顰蹙(ひんしゅく)しても、作家自身は悪いと思ってなかったりするわね」
最後の面倒を見てもらうのは「他人」
書く書かれるの関係は、『いのち』に秘書の「モナ」として登場する、瀬尾まなほさんとの間にもある。病から生還した瀬戸内さんの、寂庵での暮らしを支えるのは、瀬尾さんら、孫より若い世代にあたる女性である。
「病気をして、彼女たちには本当に世話になりました。血のつながりのある娘や孫、ひ孫とも今では行き来もありますが、私には娘を置いて家を出た責任がありますし、最後の面倒を見てもらうのは、血のつながりのない、他人なんじゃないかなと思います」
瀬尾さんは、瀬戸内さんに伝えたいことがあるとき、よく、手紙を書くそうだ。
「その手紙がね、とっても良かったの。それでこの人には文才があるな、と思って小説(『死に支度』)にほぼそのまんま使ったんですよ。読んだ編集者も『いい手紙ですね』と言うから、私の贔屓目だけじゃないんだな、と思ってね。みんな褒めてるよ、と言うと彼女は『原稿料頂戴』って言うんだけど、あげたことない。ハハハハハ」
瀬戸内さんのすすめで瀬尾さんが書いた、『おちゃめに100歳! 寂聴さん』という本も出た。
「すごく売れてるのよ。早くも3版」と瀬戸内さんが喜ぶ。
撮影/黒石あみ、取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年1月18・25日号
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