日本はSEX後進国!? 高齢者こそ「膣ケア」を。その重要性を第一人者が解説
年齢とともに変わっていく女性の体。「年をとれば尿もれするのは仕方がない」「子供も大きくなったし、今さらセックスなんて…」などとあきらめていないだろうか?
そんな女性たちに対して「もっと自分の体のことを知って、女性であることを楽しみましょう!」と熱く語るのが、植物療法士の森田敦子さん。
「膣まわりのケアが女性の人生や健康のために大切」と説く森田さんに、お話を伺った。
日本はセックス後進国?
全国各地で行われる森田さんの講演会には幅広い年代の女性が参加している。とくに多いのは20代と50代の母娘。母世代からは「もっと若いうちに体のことを知りたかった」、娘世代からは「母と初めて女性同士として話ができてうれしかった」という声が聞かれるそうだ。
「日本では明治の頃から、性的なことは『不浄』『下ネタ』などと言われ、恥ずかしいこと、卑しいこととして忌み嫌われています。性ときちんと向き合ったことがないのに、結婚したら子供を要求され、女性らしさを見せると『男に媚びている』と貶される。それでは、女性であることに自信をもてるはずがないですよね」(森田さん、以下「」内同じ)
森田さんがこう考えるようになったのは、フランスでの体験がきっかけだ。フランス国立パリ13大学で植物薬理学を学んだ森田さんは、同大学の婦人科で乳がんや子宮がんなどの患者の術後のケアをサポートしていた。そこで出会ったのが、フランスのセクソロジー(性医学)の権威、ベランジェール・アルナール医師。
加齢や病気、トラウマなど、さまざまな原因で性行為ができない患者たちに対して、アルナール医師はていねいにカウンセリングし、セックスをするためのさまざまな方法を具体的に指導して、性の悩みを取り除いていた。
「性欲は、食欲、睡眠欲とともに人間の三大欲の一つ。健康に生きるために欠かせないものなんです。だからフランスをはじめとする欧米各国では性欲をポジティブにとらえているし、セクソロジーという学問もあります。ところが日本人は性について学ぶ機会がほとんどなく、目を背けたまま。だから膣まわりのお手入れもしないし、アンダーヘアは生やし放題。そんな先進国、ほかにはありませんよ」
老後のためにも今すぐ膣ケアを
森田さんは、植物療法士として、20年以上にわたり多くの介護施設での仕事も経験している。
「膣まわりのケアをするかどうか」。実はこのことが、前代未聞の超高齢社会を迎えている日本で、女性が幸せな老後を迎えられるかどうかに大きく影響するという。
「アンダーヘアの処理をしていないと、オムツの中で排泄物がこびりつき、膣まわりがただれてしまうんです。それを温めたタオルで拭き取ることでデリケートな部分が乾燥し、かゆみや炎症が起きても、自分では訴えられずに辛そうにしている人がたくさんいます」
さらに「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」「性器脱」の問題もある。これは、加齢や出産などによって骨盤の底を支える筋肉や靭帯(じんたい)がゆるみ、本来は骨盤内にあるはずの子宮や膀胱、直腸などがだんだん下がってきて、膣から外に出てしまうこと。
「オムツ交換のときに子宮などが飛び出ていると、介護士さんは手袋をつけた手でググッと押し戻して何事もなかったように新しいオムツをつけます。そうするしかないんです。今のような超高齢社会の中で、オムツをつけずに一生を終えられる人はほとんどいません。それがわかっているのなら、膣まわりのケアをして、介護してもらいやすい体になっておきませんか?」
膣ケアで尿もれが改善した80代女性も
森田さんによると「50代頃は自分の膣まわりを再確認するのに最適な時期」。
更年期を迎えると女性ホルモンの分泌が減り、膣を潤す粘液が出にくくなり、乾燥や萎縮が起きる。粘液には雑菌などの侵入を防ぐ役割があるため、膣がカサカサになると免疫力が低下する。性交痛も起こりやすくなる。
「年をとれば尿もれや尿失禁が起きるのは仕方がないと思っている女性は案外多いんです。でも、それは当たり前のことではないんですよ。お風呂に入ると膣にお湯が入ってきて、立ち上がるとビャーッと出るなんて、異常事態ですから! そんな状態になるまで放置しないで、今すぐ膣のお手入れを始めましょう」
ある80代の女性は娘に勧められて、森田さんが提唱する膣のオイルマッサージを始めたところ、それまで悩んでいた尿もれがピタリと止まったという。何歳になっても膣のお手入れを始めるのに遅過ぎることはなさそうだ。
今すぐ始めたい4つの膣ケア
森田さんが提唱する膣ケアには4つの方法がある。どれを取り入れてもよいが、(1)の「膣を見る・知る」は勇気を出して今すぐトライしてほしい、とのこと。
(1)自分の膣を、見る・知る
「膣とは、尿道から肛門までの広い範囲のこと。初めて見るとギョッとするかもしれませんが、月経が始まってから今まで、女性としての人生を司ってきた大切な場所ですから、大きめの手鏡を使ってじっくり観察しましょう。お手入れをすると膣まわりに潤いが満ちて、柔らかくふっくらしてくるはず。そんな変化を楽しみにしてください」
(2)V・I・Oゾーンの脱毛
Vゾーンは鼠径部、Iゾーンは膣まわり、Oゾーンは肛門まわりのこと。これらの部分にアンダーヘアがあると排泄物が残ったり、蒸れやかゆみが起きやすくなったりする。
「V・I・Oすべてを脱毛するのがお勧ですが、まずIとOから始めてもよいでしょう。専門のクリニックでは医療用レーザーで脱毛できます。お金と時間はかかりますが、一度脱毛するとほとんど生えなくなります。レーザーは黒い毛にしか反応しないので、レーザー脱毛を選ぶなら白髪の混じらない若いうちがいいですよ」
ほかにワックス脱毛などの手段もあるので、自分に合う方法を選ぼう。
(3)毎日のスキンケア
入浴の際にデリケートゾーン専用の洗浄料を使い、たっぷりの泡を手につけて膣まわりから肛門、お尻の谷間までていねいに洗い、汗や分泌物、排泄物などを落とす。
お風呂上がりは膣まわりをタオルで拭かず、手で拭う程度にして水分を残したまま専用のローションやクリームで保湿する。このときも手にクリームなどをつけ、粘膜の部分を中心にていねいになじませる。
「シャンプーで顔を洗わないのと同じように、繊細な膣まわりには専用のコスメを使ってください。保湿に慣れたら、専用のオイルで膣内部のマッサージにもチャレンジを」
(4)セクシャルセルフケア
セックスをして快感を得ることで強力な幸せホルモンが分泌され、幸福感や深いリラックスがもたらされる。信頼できるパートナーとともに何歳になってもセックスを楽しもう。
「いいセックスをするには、自分の感じるところ、気持ちがよくなるところを知っておくべき。そのためにお勧めなのがセクシャルセルフケア、つまりマスターベーションです。マスターベーションでも膣に粘液が分泌されますし、セックスと同じような幸福感を感じられます。セックスができないときは心身の健康を保つためにも、マスターベーションで自分を癒してあげてください」
現在放送中の連続テレビ小説『スカーレット』の舞台は戦後間もない大阪。下着デザイナーの荒木さだ(羽野晶紀)は主人公の喜美子(戸田恵梨香)に、「アメリカでは夫人がブラジャーをするのは常識よ」と言った。それから70年以上がたち、日本でもブラジャーは女性の常識となっている。膣のケアもそんな風に、日本人女性の常識として定着するのかもしれない。
森田敦子(もりた・あつこ)
日本における植物療法の第一人者。株式会社サンルイ・インターナッショナル代表。客室乗務員時代にダストアレルギー気管支喘息を発病したことがきっかけで、植物療法(フィトテラピー)に出会い渡仏。フランス国立パリ13大学で植物薬理学を本格的に学び、症状が劇的に改善。帰国後は、植物療法に基づいた商品とサービスを社会に提供するため会社を設立し、自身がプロデュースする女性のためのデリケートゾーン&パーツケアブランド「アンティーム オーガニック」「インティメール」の商品開発や、フランス フィトテラピー普及医学協会の日本で唯一の認定校「ルボア フィトテラピースクール」を主宰。著書に、日常に取り入れられるフィトテラピーを紹介した『自然ぐすり』(ワニブックス)や『自然のお守り薬』(永岡書店)、デリケートゾーンケアの重要性を説いて話題となった『潤うからだ』(ワニブックス)『枯れないからだ』(河出書房)がある。私生活では長年にわたる植物を用いたケアにより、42歳で自然妊娠し43歳で出産している。https://intime-cosme.com/
取材・文/市原淳子