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53才の夫は死に向かう妻とどう接したか、悲しみからどう立ち直っていくか シリーズ「大切な家族との日々」

「うちは、治るのは無理だけど、なるべく動ける状態を1年でも2年でも引き延ばしたいと考えていました。難しい状況であるということは、妻も言わないし、あえて僕もふれない。

 最後に入院した時に、妻が、母親が来て泣いていると気が滅入ってしまう、本当はなるべく普通にしていてほしいんだけどと言っていたことがあります。そんなふうだったから僕はあえて普通に話をしていた。今日子どもがこういうことをした、とか。聞いている妻の顔は苦しそうですけれど、こちらはあえて深刻にならない。向こうも深刻になるのは避けていた。状態がよくない時はよくないねと言う話はするけど、上向いた時は元気だった時と同じように普通の話をするんです。こんどあそこに行きたいねとか、希望を持てるような話をしていました。

 まあ、妻は辛いとか怖いとか言わなかったけれど、心の中で思っていたかもしれない。楽しい話ばっかりしてるので、僕が気を使っているんだろうなとか、感じていたかもしれない。感謝の言葉しか言われたことがないですね。ごめんね、仕事もあるのに家のことも全部やってもらっちゃってとかいう言葉はありましたけどね。それもいつもいつもは言わないですよ。普段はなるべく、お互いに平静にしているんですね。

 妻は弱音を吐かない。あくまで生きようとしていました。だから介護するほうも頑張りようがありましたね。本人が匙投げちゃったらこっちもどうしようもなかった。本人が生きようとしているんで、自分もベストを尽くせたということです。

4.悲しみから立ち直っていくには

「亡くなったあと四十九日ぐらいまではバタバタで記憶があんまりない。考える暇もない。疲れてぐっすり寝ちゃうんです。どうやって過ごしてたのか、覚えていないぐらいです。妙に非現実的に過ぎていきました。四十九日が過ぎるとわりと暇になる。そうすると考える時間ができて、妻が亡くなったことを実感したのはそこからですね。

 ただ、元気をなくしていても、目の前にくることをこなしていかないと仕方ない。年度末で仕事が忙しい中、法事や役所の手続きなどもしなくてはならない。それに子どもがいたから気が紛れていました。用事があって、へこむ暇がないから救われていたのかもしれません。ケガをしても始めは痛みを感じないのと同じで。

 私は自分でひと通り、掃除も洗濯もできるので、ものすごく困ることはなかったんですよ。妻の入院中もやっていたし。ただ、ひとりで晩酌している時なんかにいろいろと考えてしまうわけです。

 最初はいろんな後悔がありましたね。死に目に立ち会えなかったことが一番でした。あの時なんで病院に行かなかったのかと。

 自分が病院を探して決めた治療だから、後悔も出てしまう。ひとつひとつ考えれば、あれはよかったというのはあるわけですが、最終的に結果がよくない方に行ってしまったので。もっとこうしておけばよかったんじゃないかとか。どうしようもないけれど次々に考えずにはいられない。半年ぐらいは後悔ばっかりが多かったですね。

 繰り返し思い出すんですよ。朝起きると、ああ、あいついないんだと、そこで悲しくなる。夕方、家に帰ってくる。また、ああ、あいついないんだと悲しくなる。次の朝、眠りから覚める時はなにも考えずに起きるけど、次の瞬間に、あ、いないんだと思って辛くなる。時間を過ごしているうちに辛さが薄らぐんだけど、また次の朝に…それの繰り返しですね。

 山城家の墓は福岡にあります。福岡に持って行っちゃうとしょっちゅう墓参りには行けないので、亡くなったその日に妻の両親に頼みました。できればそちらのお墓に入れてくださいと。それで苗字は違うけど、横浜にある妻の実家のお墓に入れてもらって、3回忌までは毎回、月命日に行ってました。

 そんなに熱心な仏教徒でないし、妻がお墓にいるわけではないと思ってはいるのですが。誕生日とか結婚記念日とかにそっと行ったりもしています。

 自分は精神的にはわりと強くて、悲しくて悲しくてどうしようもないというふうにはならないほうだったと思います。子どもたちもいましたし。それでもひとりになると悲しくなっていました。

 亡くなるまですごく忙しかったんですが、そのあとは妻にしてあげることがなくなるんですね。病院とも縁が切れるし。することがなくなっちゃって、本人の写真を整理してみたり、お経を覚えてみたり。手帳とかを見て偲んだり。何かをしていないと気が紛れないので」

5.周囲とはどうつきあっていくか

「うちは、ずっとしゃべっている夫婦でした。つまんないことですよ、今日昼間こういう人を見たとか、子どものこととか、ママ友で嫌な人がいるとかいう日常会話です。妻が亡くなって、子どもとは話しますけれど、普通の大人の話ができないのは寂しかったですね。

 それで、家族と死別した人たちが集まる会に出てみたんです。画期的で、ここだと普通に大人の話ができるぞと思いました。

 昔からの友達と飲みに行っても大人の話はできるけれど、やっぱり向こうは腫れ物に触るように接してくるわけですよ。大丈夫かとか元気出せとか言う。それはあんまり居心地よくないんです。言ってくれるのはありがたいけれど対等じゃないというか、あいつはかわいそうという位置におかれて、ちょっと隔離された感じになる。

 配偶者をなくすと、周りがよそよそしくなったと感じます。周囲からすると、下手なことを言うと傷つけるかもしれないから、どう扱っていいかわからなくなるんだと思いますが。

 そんなふうで、自分に閉じこもっちゃう。私なんかまだいい方だったかもしれないけど、奥さんをなくして2年間3年間、ずっと誰とも接しないで閉じこもってしまっていたというような人もいます。ところが死別者の会に行くと、酒を飲んでいても、あなたも奥さんをなくしたんですね、旦那さんをなくしたんですねと、普通にイーブンに話ができる。これは画期的だなと思いました。そこで知り合った人たちと一緒に山登りをしたりしています」

6.やってあげればよかったということは

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