がんサバイバーの毎日ごはん|レトルト・コンビニも利用「食べて体力をつけるのが一番大切」
「2人に1人ががんになる」といわれる現代。医療の進化が進む今、がんサバイバー(完治、治療中、経過観察を含めたがんを経験した人々)は年々増加している。
そんながんサバイバーや、介護する家族に向けて書かれたレシピ集『がんサバイバーの毎日ごはん』が、高齢者を中心に“健康な人”にも人気だという。
著者の国立がん研究センターの現役管理栄養士・千歳はるかさんがたどり着いた結論―食材や手間のかかる“調理”へのこだわりを捨て、手抜き上等!の「とにかく食べる」レシピが満載だからだ。
大事なのは「毎日食事を作って食べる」こと
『がんサバイバーの毎日ごはん』は、国立がん研究センター東病院の栄養管理室長、千歳はるかさんが、がんサバイバー(完治、治療中、経過観察中などがんを経験した人すべてを指す)とその家族に向け、「簡単なものでもいいから、毎日食事を作って食べる」ことの大切さを説いたレシピ本だ。
「がん治療の第一歩は、治療を続ける体力・筋力をつけること。体力がなければ、つらい治療に立ち向かえない。そして体力をつける手段は、食べることしかない。私たちの主な仕事は、がんサバイバーのかたがたが、効果的に治療を受けられる体力をつけてもらうべく、食のサポートをすることなんです」と千歳さん。
高齢者やひとり暮らしの人にも活用できる
しかしながら、この本のレシピを眺めていると、食事が偏りがちなひとり暮らしや、料理下手にとってもバイブルになる内容で「無理しなくていいんだ」とホッとする。
「そうなんです。この本を手に取っていただきたいのは、がんサバイバーのご家族も然り、病気で体力が落ちているかた、介護に忙しく、食事がおろそかになりがちなかたなども対象です。さらに拡大すれば、料理が苦手な人、高齢になって料理を作ることが億劫になってきたかたたちすべてに活用してもらえます」(千歳さん)
千歳さんのレシピは火を使わなくてもできるワンプレートご飯。誰でもすぐに作れる。
「包丁や火も極力使わず、電子レンジでサッと作って食べられる。洗いものが最小限なのも長続きするコツです」(千歳さん)
ちなみにこの本を出版後、意外なところから反響があったという。
千歳さんが勤める病院でのこと。普段料理をしない、朝食も食べない若い女性スタッフに対して先輩が、「この本はあなたのような人にぴったり。これを見て毎日食事を作りなさい」とアドバイスしたのだ。
毎日食事を作るという行為は、きちんと日常を過ごせているという証しでもある。
栄養よりも“空腹を満たす”ことが食事の目的になりがちな働き盛り世代こそ、この本が必要かもしれない。千歳さんが主宰するがんサバイバーの家族向けの料理教室でも、「結局長続きする」とワンプレートメニューのリクエストが多いそうだ。さらに本書では、各レシピに「体力低下」「吐き気」「便秘」などがんサバイバーが悩む主な症状が記載されているので、自分の気になる症状に合わせてレシピを選ぶこともできる。
「家族のためには料理をしても、ひとりだと面倒で、パンやお菓子でなんとなく済ませてしまうというかたも多いかと思います。そんな時のアシスト本として使っていただければ‥‥」(千歳さん)
たんぱく質はマスト。炭水化物に頼らない
・基本のルールは「主食+2食材」
「毎日ごはん」の基本ルールは「主食+2食材」と、徹底してシンプル。食材に筋力アップに最も必要なたんぱく質(卵、魚、肉、豆腐、納豆など)を必ず加えることが決まりだ。
「食欲がない時って、ご飯に佃煮だけ、お茶漬けだけ、そうめんだけ…と、炭水化物と塩分だけで済ませてしまいがちです。腹持ちはするので一見ちゃんと食べているように思えますが、それでは栄養不足なんです」と千歳さん。
ただ、野菜不足が気になる。
「確かに、ビタミンや食物繊維の摂取に野菜は大切です。しかし、野菜で筋肉はつくれません。この食事は“元気な体をつくる”を主目的に最低限の食材に絞っていますので、野菜よりたんぱく質を優先しました。そこで、今回は本著のレシピにプラスする野菜のアイディアを提案しています。元気があれば、好きな野菜やサラダをプラスするなど、自由にアレンジしてください」(千歳さん)
千歳さんは今回、あえてコンビニで手に入る缶詰やレトルト食品、冷凍食品、調理済み食品を駆使したレシピを考案したという。その理由は、たとえば運転免許証を返納した独居の高齢者にとって、日々の買い物は大変な“仕事”だ。しかし、どの地域にも1つぐらいあるコンビニなら行きやすい。
「まずは『食べる』こと。次に『おいしくしっかり食べる工夫をする』こと。その先に、手をかけた“料理”があるのだと思います」(千歳さん)
これさえあれば!常備しておきたい食品と調味料
買い物はコンビニでもOK。缶詰や冷凍、レトルト食品もどんどん活用して“頑張らずにおいしい”が簡単に実現できるアイテムをストックしておこう。
・時にはレンチンで済ませたい
温めるだけで食べられる冷凍食品は、疲労感が強かったり、食欲がない時にも便利。冷凍のまま使える薬味用のねぎなども、さまざまな料理に使える。
・主食も時短で
毎食、少量のご飯をおいしく炊くのは大変。多めに炊いて冷凍するのも手だが、温め直すとボソボソとおいしくないことも…。それなら、保存のきくパックご飯を活用。ゆで時間の短いそうめんや冷凍うどんなども便利だ。
・味に変化をつけたい時は…
香ばしさを強調したい時はごま油やラー油で。また、焼肉のたれや香味調味料を使うと、簡単に味が決まる。
・ベーシックな調味料
塩、しょうゆ、みそのほか、トマトケチャップやマヨネーズなど。和えるだけで酢飯や酢漬けができるすし酢も重宝する。
・買い物が無理なら…
そのまま食べてもおいしく、調理のバリエも広い缶詰やレトルト食品は、補助食としてストックしておきたい。お湯を注ぐだけの汁ものも食事のお供に◎。
・万能調味料
めんつゆは、麺類だけでなく料理の調味料としても大活躍する。また、サラダドレッシングも肉や魚のソースとして使い勝手◎。
野菜のちょい足しアイディア付きワンプレートごはんのススメ
買い物、下ごしらえ、調理時間を大幅にカット!ご飯に2つの食材をのせるだけで完成する超簡単レシピを紹介。初心者でもすぐおいしい「どんぶりご飯」は時短の基本だ。
※材料はすべて1人分です。※電子レンジは500W、オーブントースターは900Wのものを使用しています。
※調理時間は食材の大きさや量によっても変わってきますので、様子を見ながら加減してください。
●超手軽にどんぶりご飯
●くずし豆腐丼
スプーンでかき込んで手軽に栄養補給!
エネルギー:約300kcal 塩分:約3.5g
こんな時に:食欲不振、吐き気、におい、口腔粘膜炎
【1】絹ごし豆腐150gはキッチンペーパーで包み、食器などの重しをのせて軽く水気を切る。
【2】【1】を軽く手でほぐす。
【3】どんぶりに茶碗1杯分のご飯(約150g)を盛り、【2】と瓶詰のなめたけ小さじ1をのせ、市販のめんつゆ小さじ2(パッケージ表示の「つけ汁」の濃度に薄めたもの)をかける。
●ちょい足し!:めかぶを加えてつるつる食感を強化。
●いわしのすし丼
食欲がない時はすし酢ご飯で食べやすく
エネルギー:約300kcal 塩分:約2.0g
こんな時に:食欲不振、体力低下、吐き気、味覚変化
【1】茶碗1杯分のご飯(約150g)にすし酢小さじ2を混ぜる。
【2】【1】をどんぶりに盛り、レタス2枚を食べやすい大きさにちぎってのせる。
【3】【2】に缶詰のいわし50gをのせ、冷凍食品の小ねぎ小口切り少々、のり少々を散らす。
・ちょい足し!:きゅうりの塩もみで、歯ごたえと爽やかさをプラス。
●メンチカツ丼
市販のおかずにひと工夫。がっつり食べて!
エネルギー:約500kcal 塩分:約1.5g
こんな時に:体力低下
【1】耐熱容器に薄切りの玉ねぎ30gと市販のメンチカツ1個を入れたら、めんつゆ50ml(パッケージ表示の「かけ汁」の濃度に薄めたもの)をかけ、ふんわりとラップをして電子レンジで2分加熱する。
【2】どんぶりに茶碗1杯分のご飯(約150g)を盛り、その上に【1】をのせ、あれば三つ葉少々を散らす。
・ちょい足し!:一口大に切ったなすに、ごま油かオリーブオイルをまぶしてレンチン。しょうがじょうゆやぽん酢をかければ、さっぱりとした副菜に。
●つるっと麺
うどんやそばは基本的に“のっけ盛り”でOK。食材や調味料の組み合わせで、アレンジは自由自在。トッピング次第で新たなおいしさ発見も!
●温玉うどん
冷房で冷えた体もあったかめんで芯からほっこり
エネルギー:約350kcal、塩分:約4.0g
こんな時に:食欲不振、口腔粘膜炎、術後、脱水
【1】鍋に市販のめんつゆ180ml(パッケージ表示の「かけ汁」の濃度に薄めたもの)と冷凍食品のうどん1玉を入れて沸騰させる。
【2】【1】に4cmに切った水菜40gを入れてしんなりするまで加熱する。
【3】【2】を器に盛り、市販の温泉卵、のり少々をのせる。
・ちょい足し!:水菜の代わりに刻んだオクラを入れ、ねばねば風にアレンジしても◎。
●納豆じゃこそば
栄養豊富な納豆はめん料理との相性抜群!
エネルギー:約350kcal 塩分:約4.0g
こんな時に:食欲不振、吐き気、口腔粘膜炎
【1】市販のゆでそば1玉は湯に通して冷やす(または流水めんを水でほぐす)。
【2】【1】を器に盛り、納豆1パック、ちりめんじゃこ5gをのせ、市販のめんつゆ150ml(パッケージ表示の「かけ汁」の濃度に薄めたもの)をかける。
・ちょい足し!:スライサーで薄切りしたパプリカを加えカロテン摂取。彩りも◎。
●かに風味かまぼこうどん
見た目の彩りもおいしく食べる秘訣!
エネルギー:約350kcal 塩分:約4.5g
こんな時に:食欲不振、吐き気、におい、便秘
【1】冷凍うどん1玉はゆでて、流水で冷やす(または流水めんを水でほぐす)。
【2】かに風味かまぼこ4本は手でさいておく。
【3】乾燥わかめ2gを水で戻しておく。
【4】【1】を器に盛り、【2】とわかめをのせ、市販のめんつゆ120ml(パッケージ表示の「かけ汁」の濃度に薄めたもの)とごま油小さじ2をかける。あれば冷凍食品の小ねぎ小口切り少々を散らす。
・ちょい足し!: かにかまをサラダチキンやツナに変えてもおいしい。
●ほんのひと手間プラスでラクチンおかず
買ってきたものをオーブントースターで焼くだけでも立派な“自炊”。ほんのひと手間で“総菜”がオリジナルレシピに進化!
●サラダチキンのチーズ焼き
肉も野菜もひと皿で簡単バランスおかず
エネルギー:約150kcal 塩分:約2.0g こんな時に:体力低下、味覚変化、便秘
【1】冷凍のミックス野菜50gは自然解凍しておく(あるいは電子レンジで3分加熱)。
【2】アルミホイルの上に、食べやすい大きさに切ったサラダチキン約1/3個、そのまわりにミックス野菜をおき、アルミホイルで器を作るように囲む。
【3】【2】にピザ用ソース(トマトケチャップでも可)大さじ1とピザ用チーズ20gをかけてオーブントースターで8分焼く。
【4】アルミホイルのまま皿に盛る。
・ちょい足し!:焼いたミニトマトは甘酸っぱさが加わり、おいしさUP。ミックスきのこなど、きのこ類とも好相性。
●刺身焼き
前夜に余った刺身を立派なメインディッシュに!
エネルギー:約150kcal 塩分:約0.5g
こんな時に:食欲不振、体力低下
【1】フライパンにサラダ油を入れ、中火で斜め切りした長ねぎ1/2本を炒める。
【2】長ねぎがしんなりしたら刺身6~7切れを入れ、焼肉のたれ小さじ2を加え、刺身に火が通るまで炒める。
【3】【2】を皿に盛り、ごま少量をふる。
・ちょい足し!:長ねぎのほか、ししとう、ピーマン、にら、むき枝豆、まいたけ、生しいたけ、もやしのいずれかをプラスするとさらに味わいが豊かに。
教えてくれたのは:千歳はるかさん
国立がん研究センター東病院・栄養管理室長/管理栄養士。2015年より、がん専門病院である同病院勤務。がん治療に伴う諸症状に悩む患者やその家族に寄り添って「がんと食」というテーマと向き合う。料理教室なども主宰する。
千歳さんの著書『がんサバイバーの毎日ごはん』
「ちゃんと料理しなきゃ…」ではなく「とにかくちゃんと食べて必要な栄養を摂る」に視点をおいたレシピ集。術後の食欲不振や便秘など、症状別のおすすめ表記とカロリー&塩分表示を参考に「今日のご飯」を決められるのも便利だ。
小学館/本体価格1300円
撮影/依田佳子
※女性セブン2019年9月26日・10月3日号
●闘病中の食事悩みをサポート レシピサイト「カマエイド」に込められた想い