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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第10回 で、どうすりゃいいの?】

 認知症の母が亡なり、若年性認知症の兄との2人暮らしが始まった。予想をはるかに上回るトラブルが続出する日々…。ライターのツガエマナミコさんが家族の日々を綴る連載エッセイ。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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 * * *

申請しなけりゃもらえない!?

 2人暮らしになったのですし、兄はそう遠からず会社を辞めざるを得ないでしょうから、家は売って住宅ローンを返済し、残ったお金で買える小ぶりなマンションに住み替えようと考えました。なにしろ住宅ローンは、残り19年間。契約書では兄が77歳まで払い続けることになっていて、「こりゃ無理だろ」と心の声が洩れました。

 わたくしにはそんな定収入はありませんし、母の年金もなくなったので、兄が認知症でなくても、なんとかしなければならない問題でした。

 わたくしは何をすればいいのか? 
 どこに何を訊けば教えてくれるのか? 
 そもそもわたくしは何を知りたいのか? 

 母を亡くした当初は、そんなことをぐるぐる考えていたように思います。

 じつを言うと今もそうです。兄が認知症とわかって3年以上経ちましたが、これといった正解ルートはなく、これでいいのか?と常にもやもやした中で暮らしています。

 頼ったのはインターネットでした。例えば「若年性認知症」「どうしよう」で検索すると15万件以上のタイトルが出てきます。検索ワードを変えながら、上位に出てくるものは片っ端から読みました。

 でも、ぴったり自分と同じケースは出てこないですし、行政機関の文章は眠くなるばかりで、何時間パソコンとにらめっこをしても「これをすればいいんだ」と理解できる情報はごくわずかしかありませんでした。我ながら「アッタマ悪いわ」とがっかりしたもんです。

 掴んだわずかな情報は「自立支援医療・精神障害者福祉手帳」を申請すると医療費が1割負担になるということ。

 申請には、「初診日から半年以上経っていること」とのことで、医師の診断書が必要ですから、いずれ「どうしますか?」と訊いてくれるのではないかと期待していたのですが、半年が経過しても担当医は手帳の「て」の字も言いません。

「あの~」とその旨を伝えると「あ、手帳ですね。わかりました。文書課で請求届を出してください」とあっさり。わたくしが手帳の存在を知らなかったらと思うと恐ろしい。

 のちに若年性認知症の相談室に電話をかけたときこう言われました。

「年金もそうですけど、国民が納めて当然もらえるお金でも申請しないと国からは絶対出てきません。大変ですけど申請してくださいね」 

 おっしゃる通り。自ら調べない国民は怠慢で、怠慢な国民は恩恵にあずかれない。当たり前ですが、身に染みたことです。

 自立支援医療を申請すると、「自立支援医療受給者証」がもらえます。と言っても申請後、役所から「何月何日何時に取りにきてください」と書かれた郵便物が来るので、その日、その時間に取りに行くというシステムです。その「受給者証」を受診の際に毎度提出することで、その病気に関してのみ診療や薬代が1割負担になります。兄の場合は認知症に関してのみで、ほかの病いの場合は3割負担です。

「障害者福祉手帳」も同時申請するのが一般的のようです。精神障害者の等級は3~1級。兄はずっと3級でしたが、最近2級に昇格?しました。

 手帳の恩恵に3級と2級の差はほとんどありません。「福祉特別乗車券」(わたくしが暮らす地域では年間1200円。自治体によって違います)で、市営の交通機関(バス・電車)が乗り放題というのが、今のところ利用しているメリット。引きこもりがちになる障害者への配慮らしいです。

 所得税の障害者控除や市・県民税の非課税などは所得との関係が複雑ですし、特別マル優やNHK受信料の非課税などの細か~い減税も「手続きありき」ですから、面倒くさがりのわたくしは手付かずのまま。ほかの方々は、みなさまマメにやってらっしゃるのでしょうか? 

 これまでの人生で、世の中のこと、特に役所に関わる事柄からどれだけ縁遠かったかを思い知りました。それを一気に取り戻すかのような荒波の展開がこの5年です。

 交通事故だった父、要介護だった母、葬式、相続、認知症になった兄、それぞれにどれだけたくさんの手続きをしてきたか。まぁそのお陰で、いろんなことを学んでいる弱冠56歳でございます。

つづく…(次回は10月17日公開予定)

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性56才。両親と独身の兄妹が、5年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現60才)。現在、兄は仕事をしながら通院中だが、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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