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SNSで大反響!認知症の犬「しの」と介護猫「くぅ」の愛情物語

 おばあちゃん犬「しの」と彼女を支える猫「くぅ」の物語が話題を呼んでいる。飼い主を失い、路頭に迷っていた彼らを保護し、たっぷりの愛情を注いで育てた晴さんのインスタグラムへの投稿はすでに7万8000人にフォローされた。彼らの愛情物語を晴さんに聞いた。

一度は捨てられた“ふたり”が出会い、寄り添い

 それは2011年6月のこと。通勤途中の車内から見かけたのが、しのとの初めての出会いでした。

 首輪はしていたのに飼い主らしき人が見当たらず、車道をフラフラ。見ると体もボロボロで、このままでは危ないと思った私は保護することを決意しました。

保護当初、きつく絞めつけられた首輪の腐敗から、全身の皮膚病を引き起こしていましたが、週1回の薬用シャンプーと塗り薬、皮膚ケアによる療法のかいあって、数か月で回復することができました。

 一方、くぅとの出会いは2012年11月7日、休憩時間に職場を出た時でした。顔中ダニだらけ、目やにと鼻水でぐしゃぐしゃな子猫が足元にサッと現れたのです。子猫は私を見るなり「くぅ~」と大きく鳴きました。その鳴き声が「助けて!」と言っているように聞こえ、迷わず保護しました。

 その時、腸は炎症を起こし、前歯はウイルスで溶け、まさに満身創痍でした。食事、粗相・嘔吐物の処理、先住猫のフォロー…。とにかく大変な毎日が3年以上続きましたが、その努力とくぅ本人の頑張りが実り、彼は徐々に元気になっていきました。

 体調を回復し、気持ちの面でも安定し、落ち着いた毎日を過ごせるようになったふたりを見るにつけ、うれしい気持ちがこみ上げてきました。

 そして、2013年の夏、室内飼いのくぅと、当時まだ屋外の犬小屋にいたしのが出会います。その頃、私が暮らしていた実家では、暑い日は玄関に猫脱走防止の柵をして、扉を開けっ放しにしていました。そこをしのがほんの一瞬、横切ったのです。たまたま廊下にいたくぅはその姿に釘付け。黒目いっぱい、キラッキラの瞳で、歩き去ったしのをもう一度見ようと、懸命に首を伸ばして外を見続けました。

 それからというもの、しの見たさに庭が見渡せる窓へ抱っこするよう、目で訴えてくるくぅ。まさに一世一代の大恋愛です。

 すれ違っていたふたりは、私の結婚を機に、同じ屋根の下で暮らせるようになります。そして、この機会を待っていたとばかりに、くぅの積極的なアタックが始まりました。タッチを繰り返したり添い寝したり、隙あらば熱いキス! そんなくぅに、しのはとうとう根負けしたのです。

「よかったね、くぅ」

 くぅの必死なアピールが実り、新しい環境で仲よく穏やかに過ごし始めたふたり。かくれんぼをしたり、顔を見合わせて熱心に何やら話をしたり、それはそれは仲睦まじく微笑ましい日々でした。そんなある日、しのに異変が起きます。家具の隙間に挟まったまま抜けられないのです。

犬のしのが認知症に

「しの、どうしちゃったの…?」

 くぅもただただ心配そうに見つめるばかり。様子は日を追うごとにますます悪化し、同じ場所をグルグル回るようになってしまいました。

「あんなに散歩が大好きだったのに…」

 私自身、介護の仕事を経験したこともあり、しのの症状が認知症患者と似ていることに気づきました。介護や看護が必要になるのは覚悟していたので、「この時が来たか…」という気持ちでした。

 そして、しのはてんかんの発作で倒れてしまいました。全身が激しく震え、舌を垂らし、よだれもダラダラ。目をカッと見開き、周りはおしっことうんちだらけ。「しのが死んじゃう」とパニックを起こしそうな自分をなんとか抑え、しのが落ち着くまで私は声をかけ続けました。きっと、介護の経験則から直感的に、発作中はなるべく触ってはいけないと判断できたのだと思います。それからしばらく様子を見た後、病院に運び込みました。先生に日頃の行動について打ち明けると、不安が的中。しのは、老化による犬の認知症だったのです。

 そんな彼女を支えたい一心からか、くぅが変わりました。

 しののそばにいて、しのが移動しようとすると、彼女のペースに合わせて歩くようになったのです。その献身ぶりは“介護者”そのものです。放っておけば下がりがちなしのの顔を背中で支え、頭やしっぽを上手につかって誘導する。まるで人間さながらの介護の匠へと進化していったのです。

 でも、私たちの思いとは裏腹に、しのの容体は悪くなる一方。2017年の夏頃、すでに自力で起き上がることもできない状態でした。ほぼすべての行動に介助が必要になり、表情は乏しく、反応も鈍い。それでもくぅはただひたすらに介護を続けます。寝る前に欠かさないキスやフェイスケア…。

 まるでしのを安心させるかのような温かなスキンシップに私は胸が熱くなり、ふたりの間にある愛情の深さを改めて感じました。

しのが入院。そして…

「しの、よかったね。くぅ、ありがとうね」

“その時”が訪れたのは、2018年の春でした。いつものように食事をして横になったしのが、夜、突然激しく鳴き始めたのです。尋常じゃない様子に、くぅも心配そう。

 体が熱く、安定剤も効かなくなってきたので、翌日、朝一番で病院に連れて行ったところ、入院を余儀なくされました。

 数時間後、病院から電話がかかってきました。

「しのちゃんの心臓が止まりました。今すぐ来られますか?」

 あわてて家を飛び出し、病院へ向かいました。そこには管につながれ、心臓マッサージを受けているしのの姿が。死んでほしくない気持ちともう充分に頑張ったよという気持ちの葛藤で涙が止まりません。それからしのに声をかけ続けること10分。私は心臓マッサージを止めることを告げました。

「しの、よく頑張ったね」

 しのの顔は微笑んでいるようでした。その瞬間、ふと今まで一緒に過ごしてきた記憶が甦(よみがえ)ってきました。楽しかったこと、苦労したこと。本当にいろいろありました。雨の日でもカッパを着ながらお散歩したね。トイレは必ず外でするし、本当に偉かったよ。かくれんぼが特にお気に入りだったよね。ほかにもまだまだ語り尽くせない思い出がたくさんあります…。

 そうした想いを強く胸に抱きながら、しのを連れ帰り、いつものベッドに寝かせました。くぅは現状を受け入れられなかったのか、おびえた様子でしたが、そのうち理解したかのように優しくしのに寄り添い、別れの挨拶を交わしました。

 しのがいたぬくもりのある毎日が突如終わってしまった悲しみ。くぅはしのがそれまでいた場所、使っていた抱き枕に寄り添うことでジッと寂しさに耐えていました。

 しのと出会って6年半。介護はとても大変でしたが、私は彼女からたくさんのことを学びました。 介護される立場になった動物たちも、人間同様、不安や恐怖を感じています。だから、なでて、触れて、声をかけて、愛情を伝えてあげることが大切だと思いました。

 そして、できる時はそばに寄り添ってあげることが何よりだと、くぅから教えてもらいました。愛し、慈しみ、ともに暮らした日々は忘れられません。私たちにとって、かけがえのないものです。

晴(はる)さん

広島県在住。くぅとしの、ほかに6匹の猫を保護しているアラフォー女性。猫たちの日常をブログにし、そこから得た収入を保護猫たちにあてている。
ブログ「ひだまり日和」https://ameblo.jp/hinatabocco386
Instagram hinatabocco.3
Twitter hinatabocco_3

撮影/晴

※出会いから別れまで、満載の写真とともに、尽きることない愛が綴られたフォトブック『くぅとしの 認知症の犬しのと介護猫くぅ』(辰巳出版)が全国書店で発売中です。

※女性セブン2019年9月19日号

●【ペットの介護】老いた犬・猫の介助のポイント!最新情報

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