失明のリスクが高い緑内障 その原因と注意点、対処法を解説
目の病気の中でも緑内障は、日本人の失明原因のトップ。厚生労働省『患者調査』によると、2005年には54万4000人だった緑内障の患者数は、2014年には106万人と10年足らずで倍増している。緑内障患者の割合は70代では13%以上にも上るが、中年世代にも発症の危険がある。キャスターの森本毅郎さんは50代で緑内障になり、今でも視力の低下と視野の欠けに悩まされているという。
視力が低下すると認知症の危険性が倍以上になるという、深刻な調査結果もある。
完治できず進行しやすい緑内障を、回避したり悪化させたりしないためには何が大切なのだろうか。
緑内障の注意点と対処法について、テレビや新聞などで目の病気の解説を幅広くされている松本眼科(奈良県大和郡山市)院長、松本拓也氏に聞いた。
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見えていないのに、見えていると錯覚
緑内障は視神経が傷むことで「物を見る」ことができなくなってくる病気です。治療しないと失明に至ります。視神経は目に映った情報を脳へと送る神経で、損傷すると治療することはまず不可能です。
主な原因は、眼球を丸く保つために内部から外へ向かってかかっている、眼圧といわれる圧力の上昇です。
眼圧が高まると視神経に負担がかかり、徐々に壊されて正常な機能が失われていくからです。
緑内障がやっかいなのは、自覚しにくいという点。進行すると、視神経からの情報が十分に送られないため、視野に「見えていない部分」ができます。ところが、人間の脳は視野の一部が欠けていても、記憶している風景によって勝手に補正してしまいます。そのため、見えない部分ができていても気づかないのです。
見えていると錯覚し、段差でつまずき転倒の原因にも
本当は見えていないのに「見えている」と錯覚すると、段差や物につまずきやすくなります。高齢者の転倒について調べた研究では、転んだ理由として「段差に気づかなかった」というのが少なくありませんでした。
また、転倒した人の4人に1人は重いケガを負うことや、転倒した人の14%が寝たきりの要介護状態になってしまうという調査結果もあります。高齢者は骨も弱くなっている方が多いので、若い人の転倒より危険がとても大きいのです。
緑内障で、まず大事なのは眼圧を上げないことです。
日本人の目は眼圧に対して特に弱く、岐阜県多治見市で行われた大規模調査で、眼圧が1mmHg上がると緑内障になる危険が1.12倍になることがわかっています。日本人に正常眼圧緑内障(眼圧が正常値であるのに起こる緑内障)が多いのは、眼圧が少し変動しただけでも視神経がダメージを受けるからといわれています。
高齢になると視神経ももろくなってきますから、わずかな眼圧の上昇が緑内障の引き金となるのです。そのため眼科では、眼圧を下げる成分が入った目薬を処方します。
眼圧を上げる要因とは
眼圧を上げる要因は、「強い近視」、「血流が悪い」、「高齢である」など様々です。年齢を若返らせることはできませんが、眼圧を上げるリスクを減らす生活をすれば、緑内障を遠ざけることは可能です。
その中の一つとして「冬場の温度変化に注意する」ことがあげられます。眼圧は寒い時期に上昇しやすくなるからです。
「眼圧の季節による変動」について、山梨県と岩手県、アメリカ、イタリア、イスラエルで調査が行われています。すべての調査で「眼圧は冬に上がりやすい」ことがわかりました。その理由は自律神経(意思とは無関係に身体機能の調節を行う神経)と関係していることが考えられます。
気温が下がってくると、自律神経の一つである交感神経(身体機能を活動的にする神経)は、冷えから体を守ろうとして、アドレナリンの分泌を促します。アドレナリンは体を危険から守るときに放出されるホルモンの一種ですが、眼圧を上昇させる働きもあるのです。寒い場所に長時間いれば、それだけ視神経への負荷がかかり続けることになります。
冬場に眼圧を上げないようにするには、とにかく体を冷やさないことです。がまんをして暖房を点けないとか、無理して薄着をするなどしないこと。
外出するときは「防寒性のある帽子をかぶる」「寝るときは電気毛布を活用する」なども、おすすめの対処法です。