連載

認知症の人が同じ物をいくつも買ってしまった場合の対処法

 盛岡に住む認知症の母を東京から遠距離で介護を続け、その記録をブログで公開している工藤広伸さん。最近では、母とは別に暮らす父の介護も始まった。工藤さんが、息子の視点で”気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」を紹介するシリーズの今回のテーマは、「同じ物をいくつも買ってしまった場合の対処法」だ。

 困った…と頭を抱える前に、発想の転換も必要だと説く工藤さん。さて、その対処法とは?

 * * * 

 認知症の人が同じ物をいくつも買ってしまって、介護しているご家族が困ったという話をよく聞きます。わが家の経験を踏まえながら、購入金額・購入ルート別に対処法をご紹介します。

食品や日用品など、購入金額が小さい場合

 最も多いと思われるのが、認知症の人が近所のスーパーなどで同じ食料品や日用品をいくつも購入するケースです。認知症の母(74歳・要介護1)が、よく買い過ぎてしまうものが「食品」です。独居にも関わらず、食パンが6斤、コーヒーなどに入れるミルクパウダーが9瓶になったこともあります。とてもひとりで食べられる量ではありません。

 この場合、一般的には、以下のような対処法が考えられます。

●お店の人に認知症であることを説明して「明日の方が安い」などと声をかけてもらう
●いったんレジで預かり、あとでお店の人に棚に戻してもらう
●地域包括支援センターに連絡する
●ご近所の見守りの目に期待する

 人口の少ない小さな町であれば、お店に来る客数も少ないですし、店員も同じ人の場合が多いため、こういった対処法は有効かもしれません。しかし、都市部の場合は、認知症の人の情報がすべての店員に周知徹底されるとは限りません。ご近所の方も、常に監視の目を光らせておくほど、余裕はないと思います。

 母が住む岩手県盛岡市は人口約30万人が住む中核都市ですが、この対処法では厳しいと感じています。

 そこで、わたしはこのように考えることにしました。

 まず、「買い物」という行為自体が、認知症のリハビリになると考えました。「買い物療法」という言葉があるくらい、認知症の人にとっては良いものといわれています。

●鮮度をチェックする
●冷蔵庫に何があるのかを思い出す
●賞味期限や値段をチェックする
●献立を考える

 など、同時に考えなければならないことがたくさんあります。

 残念ながら母は、賞味期限や冷蔵庫の中のことが理解できないので、必要な食品を選ぶことができません。一緒に買い物に行った場合は、カゴに入れた必要のない食品をわたしが棚に戻すこともよくあります。それでも、食品を選ぶプロセス自体が、脳にはいいことだと考え、とりあえずはカゴに入れてもらいます。

 母はデイサービスに行った際、職員の付き添いで買い物をすることもあります。その場合は反射的に買ってしまうことも多く、同じ食品が複数になることがあります。ムダにはなりますが、コストのあまりかからないリハビリ費用と考え、わたしは寛容に受け入れています。

 また、余った食材をフードバンク(※1)に寄付すると、思わぬ形で社会貢献もできます。

 介護者の発想の転換も時には必要だと思います。

電化製品など、購入金額が大きい場合

 高額の商品を扱うお店の場合、食品を扱うスーパーほど客数は多くありません。店員も来たお客さんを覚えていたり、履歴として残っていたりすることも多いので、認知症の人が頻繁にお店へ出入りしている場合は、上記の対処法も有効だと思います。

 認知症の人が高額商品を購入してしまった場合、成年後見制度の「取消権」を使って購入を取り消すことが可能です。日常生活に関する行為(例えば食品・衣料を買う、交通費の支払いなど)は取り消しができませんが、高額な電化製品の購入、訪問販売、電話での勧誘販売などはこの権利を行使できます。

 しかし、この成年後見人になるまでの手続きが大変です。

 ちなみに、わたしは成年後見人の経験者ですが、親族後見人のお金の使い込みが増えたため、専門職後見人(弁護士、司法書士など)が任命されることが増えています。そうすると、弁護士などへの月々の支払いが、新たな費用として発生することもあります。

通信販売で購入してしまった場合

 認知症の人が、ダイレクトメール、テレビや新聞の広告を見て、電話などで同じ物をいくつも買うケースもあります。

 母はオリーブオイルを通販で購入したのですが、支払用の振込用紙を間違えて廃棄しました。購入先へ電話で確認したら、支払いが済んでいなかったので振込用紙を再発行してもらったことがあります。

 この件があってから、注文してしまいそうな業者すべてに電話をして、ダイレクトメールの送付を止めてもらいました。母の場合は、いろんな業者に電話する人ではなかったので、ダイレクトメールが届かなくなったら、購入はなくなりました。

 誤ってたくさん購入してしまった場合、通販業者毎に返品ルールがあるので、まずは業者に確認することから始めてください。ルールの記載がない場合は、商品が届いて8日以内であれば、消費者の送料負担で返品が可能です。

参照サイト:国民生活センター(http://www.kokusen.go.jp/soudan_now/data/coolingoff.html

 亡くなった認知症の祖母の晩年は、買い物する意欲すら無くなり、寂しい気持ちになりました。母は同じものは買ってしまいますが、買い物意欲があるだけありがたいとわたしは思っています。

 今日もしれっと、しれっと。

※1:品質に問題がないにも関わらず、市場で流通できなくなった食品を、企業や一般の人から寄付を受け、生活に困窮する家庭などに配給する活動やその活動を行う団体のこと。

【お知らせ】工藤広伸さんがラジオに出演されました!
2017年8月13日(日)放送分 ニッポン放送「ウィークエンド・ケアタイム『ひだまりハウス』~うつ病・認知症について語ろう」を無料で聴くことができます。
https://soundcloud.com/shovel_jolf/170813hidamari
 

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、ものがたり診療所もりおか地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/

 

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