「自宅で看取り」がよくわかる 実話マンガで見る初めての在宅医療と看取りケア
自宅で最期を迎えたいと望む人は、50%を超えるという(平成27年度版高齢者白書より)。
小林麻央さんが最期に選んだこともあり、今、「在宅医療」「自宅で看取り」への関心が高まる中、先駆けて”最期を自宅で迎える”を題材とした終末医療ガイド本がある。医学博士で、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック院長の奥井識仁さんが綴った『あなたらしい最期を生きる本―絵で見るはじめての終末医療マニュアル』(ハート出版)だ。
自宅で看取った人たちの実話をマンガに
終末医療に関する必要事項を網羅した同書の中で、奥井さんが実際に看取った人たちの実話をマンガに描き、「心を込めた告知」「心の伝わる旅立ち」「家に帰ろう」「旅立ちまでの過ごし方」など8話を紹介している。そのマンガをYouTube動画でも公開すると共感を呼び、現在では2万~4万回近く再生され話題を呼んでいるのだ。
「動画を観た人や、本を読んだ人からは“共感できる”という手紙をかなり多くいただきました」と著者の奥井さんが語るように、本の読者からは、
「主人の最期を迎える前に読みたかった本でした。それでも、後悔が少し和らぎました。今度は、私のために役立てたい」
「長いこと、看取る立場でしたが、近い将来看とられる方になりました。素晴らしい本を一気に読了しました」
など、多数の感想が手紙で届いているという。
医療関係者の勉強会でも注目
この動画は多くの看取りの勉強会に活用されており、石川県金沢市のある病院の看護師たちによって、動画を舞台化されるなど、医療関係者からも注目されている。
”看とる人””看とられる人”の気持ちが楽になるように
出版当時(2009年)、それまで“終末医療”を題材とした本はなかった中で、大胆にも「医師による死に方のガイドブック」と銘打って本は出版された。
「当時は終末期のガイドラインに全くない、極めて珍しい書籍として扱われました。出版社を説得し、編集部の協力を得て作成しました。そのくらい出版社・編集部でも驚くほど大胆な内容であったことは事実ですが、完成後にこの本をやはり作ってよかったとみなで話したことを覚えています」と、奥井さんも回想する。
当時、まだ一般的に普及していなかった「自宅看とり」の本を書こうと思った理由については、こう語る。
「当時は体験記や闘病記は世の中に星の数ほどある中で、“死に方”や“看とり方”について書かれた本はありませんでした。でも“これから必ず必要になる”“看とる人、看とられる人の気持ちが少しでも楽になるように”という思いで書きました。
当時の日本で病の看とりというと、点滴やモルヒネの投与ばかりで、家族と会話できずに過ごし最期を迎えることが通常でした。米国での臨床留学を経験し、薬にそれほど頼らずに治療すると、最期まで会話ができるということに気づきました。今では当たり前になってきていますが、当時ではごく一部の医師しか知らないことでした。点滴や薬を中心とせず、本人の食べられる範囲で食べ、動ける範囲で動く、この様な方法を普及したいと思い、まず一般書を作ることにしました」
マンガにすることで難しいテーマを易しく伝える
奥井さんが同書をあえて活字とマンガの2本柱で構成したわけは、難しくなりがちなテーマである「終末医療」について、易しく伝えたかったからだという。
「人が死ぬということは、テレビで観るようなものとは違います。徐々に意識がなくなっていった後、下顎呼吸の反応があり、死に向かっていきます。このようなことはほとんどの人が知りません。最期の時を迎える過程を具体的にわかっていれば、心の準備もでき、悲しみは半分に減るかもしれません。そこで、イメージしやすいストーリーを用意しましたが、衝撃的すぎする内容だったので、かわいらしいイラストを入れました」
最後に、医師として知る限りのテクニックを示した終末医療の本を通して、伝えたかったこととは? と聞くと、こう返ってきた。
「ある日突然家族が倒れ、救急車で運ばれると、家族はどの選択をしていいのか困惑します。選んだ方法は、長期入院し、退院ができないような栄養剤に頼るものかも知れません。しかし、元気な頃から家族と一緒に死について話し合っていれば、さまざまな選択肢の中から自分で選ぶことができます。たとえば、早期に退院し、痛い時だけ入院するなどの方法をうまく選ぶことができるでしょう。そのための知識を普及させたかったのです」
動画/『あなたらしい最期を生きる本』(奥井識仁著・ハート出版)より
奥井識仁(おくい・ひさひと)
1965年生まれ。よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック院長。医学博士。東京大学大学院医学系修了。ハーバード大学臨床留学。国内外の患者への手術を年間800件行う女性泌尿器科の世界的外科医の1人。神奈川医師会学術功労者や世界のトップオピニオンリーダーに選出されたり、運動とホルモン関係の受賞も多い。