認知症最初の兆候を測る 権威ある国際会議が発表した「要注意行動」チェックリスト
認知症の超初期段階に見られる言動チェックリスト
下記のチェックリストは、アルツハイマー病協会会議で発表された新指標をもとに、「意欲」、「不安感」、「自制心」、「常識」、「思考の偏り」の5つのカテゴリーから具体的な“症状”を示したものである。
●意欲や関心の衰え
□好きだった趣味や長年続けていた習慣を突然やめる
□同じ服装で過ごすことが多くなる
□「面倒くさい」「別にいい」と言うことが増えた
□お風呂に入らなくなる
●不安の兆候
□涙もろくなった
□食欲が急に落ちる
□衝動買いや同じ物を購入することが増えた
□1人での行動に恐怖を感じ始める
●自制心の不安定化
□タバコや酒、ギャンブルへの依存が強くなる
□車や自転車の運転が荒っぽくなったり、下手になる
□性的興奮を抑えられない
□食べられないモノを口に入れる(※)
●常識力の低下
□買い物時に会計をせずに店外に出たことがある
□会話中に脈絡なく下ネタを言うなど周囲の空気を読まない
□「私は悪くない」と言い訳や責任転嫁の発言が多くなる
□知らない人に親し気に話しかける
●間違った思い込み
□イライラしたり反抗的な態度が多くなる
□カネを盗まれたと錯覚する(※)
□亡くなった親戚や友達の近況を訊ねる(※)
□実在していないのに、部屋の中に何者かがいるように見えてしまう(※)
・該当項目が1つ以下なら問題なし。2つあれば要注意。3つ以上なら専門機関での検査を推奨(ただし※の項目が1つでも該当するなら医療機関の受診を推奨)
・「Alzheimer’s Association International Conference 2016 (AAIC 2016)」で提言された軽度行動障害(MBI)の指標をもとに作成(菅原道仁氏監修)
このリストの監修者で、菅原脳神経外科クリニック院長の菅原道仁氏が話す。「認知症へと至る“入り口”は認知機能の低下以外にも多岐にわたります。記憶を形成するのは脳内の海馬と呼ばれる部分ですが、感情や言語、運動能力を司る前頭葉の機能低下で認知症になるケースも多い。MBIを活用することで、これまで1つの入り口しかなかった認知症リスクの発見がより広範囲に及ぶため、更なる早期発見が期待されています」
ただし、MBIで示される言動や情緒面の変化は本人が自覚していないケースも多い。そのため家族など周囲の人を交えたチェックが望ましい。
突然、性欲が強くなった場合は、認知症初期段階の可能性が
都内の認知症専門医が話す。「70代のご夫婦のケースでした。当院を訪れる2年ほど前から、ご主人が町内会や親戚一同が集まる場などで脈絡もなく突然、“この前、久しぶりに朝勃ちしたよ”とか、それほど親しくない人に“最近、奥さんとアッチのほうはどう?”なんて話しかけて周囲が凍り付くという場面が度々あったそうです。“主人が急に性欲が強くなった”と奥さんは心配していましたが、診断の結果、軽度の認知症を発症していました」
このケースのように突然性欲が強くなった場合、認知症の初期段階である情緒面の変化が疑われる。
初期兆候として特に多いのは、これまで温厚だった家族が「急に怒りっぽくなった」り、「乱暴な言葉を吐く」など、以前では考えられない言動を見せる時だ。
昨年、認知症と診断された関西地方在住の中村忠氏(仮名・68)がこう振り返る。
「数年前から“最近、運転が乱暴よ”や“寝巻のまま外に出ないで”と女房から注意されることが増えました。運転中、周囲の状況が気にならなくなったり、身だしなみに頓着しなくなっていたのは事実です。けど女房からそんな風に言われると、こちらもカッとなる。“年を取れば多少の遠慮がなくなるのは当たり前だろ”と言い返すようになり、夫婦仲がギクシャクしていました。おかしな話ですが、認知症と診断され自分の変化が腑に落ち、心が晴れました」
前出・菅原氏はリストの活用法をこう語る。
「MBIはその兆候が、認知症リスクを孕んだものかどうかを判断する目安と考えてください。これまで加齢による老化現象と考えていたものが実は認知症かもしれない、と認識する機会を得ることは重要です。専門機関などへの受診のきっかけが増えることで、早期発見や予防に繋がります」
充実した老後を過ごすためには認知症の“機先”を制することが大切なのだ。
※週刊ポスト4月21日号
朝田隆(あさだ・たかし)
「家族みんなで 無くそう逆走」監修。1955年生まれ。メモリークリニックお茶の水院長、筑波大学名誉教授、東京医科歯科大学医学部特任教授、医学博士。数々の認知症実態調査に関わり、軽度認知障害(MCI)のうちに予防を始めることを強く推奨、デイケアプログラムの実施など第一線で活躍中。『効く!「脳トレ」ブック』(三笠書房)など編著書多数。