ハリー杉山さん、父親の介護と看取りを経て気づいた「死は生の延長」“戦友”である母親と今オープンに語る「終活」
長年、母親と二人三脚でパーキンソン病を抱えていた父親の介護を続けてきたハリー杉山さん(41才)。終わりの見えない介護生活の中で、時にともに涙を流し、絶望の渦に飲み込まれそうになったことも一度や二度ではない。父が旅立ってから4年、ともに激動の日々を駆け抜けてきた母親にある変化を感じているという。【全3回の第2回】
父親の介護をともに歩んだ「母は戦友」
「父の介護――あの濃密な時をともに過ごしてきた母は、いってみれば戦友のような感じかな」
ハリー杉山さんは、今年78才になる母親の変化を感じているという。著名なイギリス人ジャーナリストである父、ヘンリー・スコット・ストークスさん(享年83)がパーキンソン病と認知症を発症し、介護生活は10年に及んだ。
在宅介護を続ける中で、ハリーさんは仕事も抱えていたため、母ひとりで介護を担わなければならないことも多かった。
「母がいなければ我が家は空中分解していたと思います。母がいてくれたから、ぼくは仕事に行くことができたわけですから。振り返ってみると、当時の母はかなり疲弊していました。自分を犠牲にして介護をするのが当たり前、そんな感覚だったと思います。今のようにプロの手を借りて、介護をラクにしましょうという考え方ができなかったんですよね」
たとえば、父親が食事をあまり食べなかった日はそれだけで落ち込んでいたという。
「うまく嚥下ができなかったとか、お手洗いに間に合わなかったとか、ネガティブな出来事があったとして、今なら『そういうこともあるよね』と落ち着いていられると思いますが、当時は何をやっても自分の力が足りないという絶望感で押しつぶされそうになっていた。
どんなにポジティブなことがあったとしても、ちょっとしたネガティブな要素が気持ちの中で勝ってしまっていた。ぼく自身も落ち込んだりイライラしたりすることがありましたが、母の心労はかなりのものだったと思います」
母親のポジティブな変化を感じて
父を見送って4年が過ぎた今、母親との関係や母親自身の生活も少しずつ変わってきたという。
「母は18才で渡仏してパリで暮らし、パリの美大へ通っていたときに父と出会ったんです。当時の思い出話をしてみたり、父とハネムーンで行ったクレタ島の写真をLINEで送ってきたり、ぼくの知らない父の話をすることが増えました。
母も4年という月日が経ち、少しずつ本来の自分を取り戻しているのかもしれません。ヨガをしたり、洋服を買いに行ったり、これまであまり受けてこなかった健康診断にも行ってくれるようになりました。
母はパリ仕込みの美的感覚というか、街でスラっとしたモデル体形の女性を見かけると、『私はあんな風じゃない…』って、自分と比べて一喜一憂している。若い感性を持ち続けているというか。そんな母の姿を、ぼくもこの年になってお茶目だなって笑えるようになりました」
最近は母と買い物へ出かけることも増えた。
「母はオシャレが大好きなので、ぼくの友人のデザイナーの展示会に一緒に行くこともあります。洋服とか靴とか、一緒に選んで、母の体のサイズに合うように調整してもらうんですけど、もちろん、支払いはぼく。大蔵大臣って呼ばれています(笑い)。
まあまあいいお値段の、欲しいものがあるときには『わたしの大蔵大臣へ』って、手書きで手紙をしたためて、それをわざわざ写メしてLINEで送ってくるんですよ。
11才でイギリスに渡ったとき、英語もラテン語もまるでわからなかったぼくのサポートを母は全人生かけてサポートしてくれた。誰も知り合いがいない異国の地で、子育てをしてきた母の奮闘を思うと、今度はぼくが恩返しをしなければって。母の人生の輝きや喜びを、大蔵大臣として、できる範囲ですけど、サポートできているとしたらそれは嬉しいことです」
母親と朝ごはんを食べながら話すこと
「母はぼくの自宅から歩いて数分のところに住んでいます。仕事から帰ると家の中がキレイに掃除されていることがあって、親に見られたくないものもあるじゃないですか(笑い)。ちょっと~って思うんですけど、まあ、ありがたいんですけどね。
週に2度ほど一緒に朝ごはんを食べる時間を作っています。ごはんを食べながら他愛のない話をするだけなのですが、そういう時間がすごく大事だと思っているんで。
母自身の今後のこと、介護であったり、終活であったり、人生の終末期についての話もよくしますね。
母もぼくも父の介護や看取りの経験から、死は生の延長上にあり、特別なことではないと思えるようになったんだと思います。母はぼくに迷惑をかけたくないという思いもあるのかもしれません。『私は墓はいらない』とか、最期に向けて人生をいかに豊にしていくか、そんな話もよくするようになりました。
以前、テレビ番組でアグネス・チャンさんが、私はこんな施設で暮らしたい」『こんな介護を受けたい』って、家族と自然に話しているのを見たときに、こういう家族の在り方はいいなって。
元気なうちから話しておけば、介護も終活も重い話にならないと思うんですよ。ビールでも飲みながら、柿ピーでもつまみながら、『自分はどんな介護を受けたい?』『どんな人生の最後がいい?』って、そんな会話が普通にできる社会になったらいいですよね」
◆ハリー杉山
1985年生まれ。情報番組『ノンストップ!』、F1トーク番組『F1サイドbyサイド』(ともにフジテレビ系)、『WEEKLYワールドサッカー』(BS11)、『POP OF THE WORLD』(J-WAVE)ほか、テレビ・ラジオなど数多くのメディアで活躍。イギリス人の父親を介護した経験から、近年は介護に関する取材や講演活動も精力的にこなしている。
撮影/小倉雄一郎 ヘアメイク/大嶋祥枝 取材・文/熊谷あづさ
