健康

プロが教える在宅介護のヒント 今どきの在宅介護事情|在宅医・鈴木央さん<第2回>

 在宅療養が始まるきっかけは、次の2つのケースのいずれかであることが多いです。

1:何らかの病気やケガで入・退院した後も療養が必要になり、通院は困難というケース。

 この場合は、病院の「退院支援」というしくみで、退院した後を引き継ぐ在宅医や訪問看護が手配されます。患者さんやご家族は療養する場所を決め、提案される「診療計画」や「在宅医療計画」を基にどのような療養生活を送るか相談できます。在宅療養をする過程で容体が悪化し、再入院が必要な場合も、在宅医と病院は連携します。

2:とくに大きな病気やケガもなく生活していても、徐々に外出が難しくなり、かかりつけ医を受診することができなくなって、在宅医療を受けたいというケース。

 患者さん自身が連絡するのが難しければ、ご家族など周囲の人がかかりつけ医に連絡をとり、訪問診療をしてくれるか聞いてみましょう。

 かかりつけ医が在宅対応をしていなくても、今後どうすると良いか相談にのってくれます。

 また以下のところで在宅医を紹介してくれます。

・各地域の医師会の「在宅医療連携調整窓口」
・地域包括支援センター
・訪問看護ステーション
・ケアマネージャー(介護保険を利用している場合)

 在宅療養が始まると、在宅医は患者さんの病状が安定している時期には2週間〜1か月に1度訪問診療にうかがいます。何か、問題がある時期や看取り期には、必要に応じて毎日訪問することもあります。日曜や祝日、深夜も関係ありません。

 ほとんどの在宅医が、患者さんのご家族や看護・介護で関わるスタッフに「こういう変化があったら知らせてください」と具体的に伝えていると思います。

 ご家族には「心配なことがあったら、何でも在宅医か看護・介護で関わっているスタッフに連絡してください」と連絡先をお伝えします。看護・介護で関わるスタッフに相談した場合も、医療的な判断が必要な内容は在宅医に伝わりますから、安心してください。

 それでもご家族の中には「ちょっと熱が上がったぐらいで連絡していいのだろうか」「翌朝まで待ったほうがいいか」などと悩む場合もあるようですが、その気遣いは無用です。何かあったらすぐ、話しやすい相手に伝えましょう。

 先日20時半頃、患者さんの介護をする娘さんからお電話がありました。「夕方に微熱が出て、少しだが上がったのが心配だ」という内容でした。

 パーキンソン病(※注1)で療養中の80代の患者さんで、以前、誤嚥性肺炎(※注2)を起こしたことがある人でしたので、僕も様子を見に行く必要を感じましたが、その電話は出先で受けていて、地元に戻るには約2時間かかります。そこでまず、普段から連携している訪問看護師に連絡し、様子を見に行ってもらいました。

 患者さんの家に駆けつけた看護師は、専門的な視点で観察し、僕にコールバックしてくれます。その時点で、緊急性が高ければ救急車を手配することも可能です。しかし、そのときはその必要がなかったので、22時半に病院に戻った僕が必要な注射や薬を持って患者宅へうかがい、診察・治療して、大事には至りませんでした。

 娘さんが電話をくれたおかげで、早めの対応ができたケースです。電話で状況を聞けば、すぐに対応が必要か、翌朝の診察で大丈夫かなど判断ができます。たいていの場合は、その電話によってご家族も状態を理解し、安心できることが多いので、連絡してください。

 どんな状態が「緊急性が高い」かは、患者さんにどのような持病や既往歴があるか、服薬している薬は何かなどで異なり、一概に言えません。

 また緊急性が高い場合も、どのような医療・介護を受けたいと考えている人か、個々の家庭の事情などによって、対応を変える必要があります。在宅医療に関わるチームは患者さんの情報を共有し、協力して個別に対応します。

 次回は、在宅療養でよくある家族の疑問や不安を取り上げます。

※注1脳からの運動に関する神経伝達が障害され、スムーズに動けなくなる病気。50~60歳代で発症することが多く、ゆっくりと進行し、数年〜10年以上経つと生活機能が低下して介助が必要になり、15年以上で全介助が必要になることが多い。厚生労働省の「特定疾患」に指定されていて、重症になると治療費の補助がある。

※注2嚥下機能(飲み込む機能)が低下することにより、唾液や飲食したものが気管に入り(誤嚥)、唾液に含まれる細菌などによって肺炎が起こる。経管栄養(胃ろうなど)の場合、胃から食道への逆流で起こることもある。高齢者の肺炎による死亡のほとんどがこの誤嚥性肺炎によるとされ、注意喚起されている。

鈴木央先生P1

鈴木 央さん:鈴木内科医院(東京、大田区大森)院長、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長。都南総合病院の内科部長時代には在宅診療部を立ち上げ、在宅医療推進の必要性を実感。1999年、日本のがん緩和ケアの第一人者であった父の鈴木荘一前院長と共に「患者の生活を支える町医者になる」と決め、副院長に就任。同院はその数年前から内科、消化器内科、老年内科の外来診療の傍ら、認知症などがん以外の病気も含めて在宅療養を支える診療所として365日、24時間対応している。「長生きをするための情報はたくさんあるが、どのように最期を迎えるかは情報が少ないですね。皆で、穏やかに逝くためにはどうしたらいいか、考える時代に入ったと思います」。

取材・文/下平貴子

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プロが教える在宅介護のヒント 在宅医・鈴木央さん<第1回>

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