プロが教える在宅介護のヒント 今どきの在宅介護事情|在宅医・鈴木央さん<第2回>
病院へ行けなくなった場合に、自宅や入所している施設など、希望する場所で診てもらえる「在宅医療」は、介護をする家族にとっても心強いしくみ。
だが、病院で受ける医療と何か違うのだろうか?
在宅医療を受けたいと思ったとき、どうやって在宅医を見つけたらいいのか、在宅医はいつ診察に来るのかなど、在宅医療のしくみを前回に引き続き、在宅療養の第一人者、鈴木内科医院の鈴木央(ひろし)院長に聞いた。
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病院とはどう違う? 今どきの「在宅医療」事情
通院できない人への訪問診療と療養支援のしくみ
在宅医療は、病院で受ける医療とまったく同じではありませんが、患者さんが希望する治療を適切に受けられるという点は変わりません。
在宅医療は、治療をしてもなかなかよくならないけれど、かといって急に悪くなることもない「慢性的な病気のコントロール」や、症状や障害によって起こる痛みや苦しみを和らげる「緩和ケア」が中心で、そうした時期を経て、病状が悪くなった場合の対応や看取りも含まれます。
いろいろな検査が必要で、手術などを受けて病気やケガを治す場合には、病院に入院して治療を受ける必要があり、在宅医療でそのような治療は困難です(必要に応じて入院の手配は行う)。
在宅医療を提供するのは、地域の診療所の医師で、「在宅医」「在宅主治医」などと呼ばれます。多くはかかりつけ医(家庭医)として開業している診療所で、外来診療と訪問診療を併行していますが、最近は、都市部では在宅への訪問診療専門の診療所も増えています。
昔からの“往診”と訪問診療が異なる点は、以下の通りです。
往診:患者の容体が悪く、診察を求められた場合に訪問して診察する
訪問診療:「在宅医療計画書」に基づき、定期的に訪問して診察する。必要により在宅医は訪問看護のほか、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、理学療法士などの訪問ケアをコーディネートし、ケアマネジャーなど介護職とも連携する
在宅は「生活の場」なので、生活しやすくするために受ける医療的ケア全体を「在宅医療」と考えると、分かりやすいかもしれません。
僕の場合で説明すると、診療所で一般の患者さんの外来診療を終えた後、状態が安定している患者さんの自宅や施設を定期的に訪問診療し、容体が悪いときは随時往診しています。
患者さんごとに、連携している薬局の薬剤師に薬の配達を依頼し、服薬や体調などを確認してもらい、訪問歯科医に入れ歯の調整と口腔ケアを頼んだり、訪問リハビリテーションを行っている事業所の理学療法士にケアの依頼や、血圧、体温に応じたリハビリテーション可否などの指示を出しています。
「在宅療養支援診療所」「在宅療養支援病院」等の届け出を出しているところは365日・24時間対応で、患者さんの療養生活を支援します。
医師が1、2人しかいない診療所も地域の訪問看護ステーションなどと連携し、地域で「チーム医療」によって365日・24時間対応します。
在宅医は直接診療を行う以外に、患者さんやご家族の療養に関する質問に答え、各家庭の事情や患者さんの心情を汲み取って、在宅における医療に関すること全てにおいて医療・介護の多職種へ司令塔の役割を果たし、療養支援を運営する役割を担います。
また、この頃は「複数のかかりつけ医と多職種」「かかりつけ医と訪問専門診療所の医師と多職種」がチームになるケースも増えています。こうした場合、在宅医療の主治医が複数いる体制となり、臨機応変に役割分担します。
僕が関わったケースでは、長年、かかりつけ医だった医師があるがんの患者さんの在宅主治医となり、定期的に訪問診療していて、痛みのケアが必要なときに副主治医の僕が往診するという役割分担をしたことがあります。
療養支援は、その人がどのような人生を送り、病気や障害と向き合ってきたのか「ものがたり」を理解し、生活と意思決定を支え、最期まで「より良く生きる」ことを支援するものなので、長年付き合いがあるかかりつけ医の持つ情報と経験が活きます。
とはいえ単身で開業していて、外来診療も行っているかかりつけ医だけで支えるのが難しいケースもあるので、副主治医をそのケースに合った別の医師が担当するのは、患者さんのためになる連携です。