認知症の新薬「アデュカヌマブ」とは?夢の根治薬となるのか
高齢化が進む日本社会。そして2025年には高齢者の5人に1人が認知症を患うともいわれており、今後認知症治療がより一層重要視されることは間違いない。
そんななか、最近発表されたある論文が世界中の認知症研究者に衝撃を与えた。8月31日、米国とスイスの研究チームが世界的な科学誌『Nature』に発表した治験の結果である。
アデュカヌマブを与えた患者群のアミロイドベータが減少
治験では、米国とスイスの研究チームが60代から80代の初期アルツハイマー病患者165人を2つのグループに分け、一方の患者群に「アデュカヌマブ」という新薬を月1回、1年間接種し、同様に他方の患者群にプラセボ(偽薬)を接種した。
すると、アデュカヌマブを与えた患者の脳内に、アルツハイマー病の原因である蓄積したアミロイドベータがほとんどのケースで減少し、健康な人と同じレベルになったケースもあったという。
1906年にドイツの精神科医アルツハイマー博士によって、世界的に知られるようになったアルツハイマー病。博士の研究によると、病に侵された脳には健常者では見られない「老人斑」というシミがあることがわかった。その老人斑の正体は「アミロイドベータ」というたんぱく質。アミロイドベータが徐々に蓄積してかたまりになると、神経細胞が次々に死滅していき、記憶を中心とする脳機能を低下させる。同時に脳全体が次第に萎縮し、体の機能が失われていく。
アデュカヌマブはバイオ医薬品。認知症根治へつながるか!?
アデュカヌマブは脳内のアンドロイドベータを除去する働きのある抗体であり、健康な高齢者から採取した免疫細胞の遺伝子を用いて製造されたバイオ医薬品なのだ。
そもそも、アデュカヌマブの存在が初めて明らかになったのは、2015年3月にフランス・ニースで開かれた国際アルツハイマー・パーキンソン会議だった。米国のバイオ製薬バイオジェン社がアデュカヌマブを用いた臨床試験の中間結果を発表すると、
「認知症の根治につながる開発だ」
「どの薬も達成できなかったのに、なぜこの薬だけが成果を上げたのか」
と一斉に驚きの声があがったのだ。その研究を引き継ぐ今回の治験で注目すべきは、「認知機能への効果」であると東京大学大学院医学系研究科神経病理学の岩坪威教授は解説する。
「アミロイドベータを取り除く働きはすでに数年前に証明されていました。今回、注目すべきはアミロイドベータを除去することと並行して、認知機能の低下を減速する効果があったことです。こうしたデータが客観的に出たのは初めてのことです」
今回の治験では、アデュカヌマブの投与量を増やすと、増加分に比例してアミロイド蓄積が除去された。続けて患者に記憶の試験を行うと、認知機能の低下が緩やかになる「前向きな結果」が得られたという。
認知機能が改善したという結果は、アデュカヌマブの投与により、死にかけていた脳内の神経細胞が息を吹き返したり、死んだはずの細胞が再生したりした可能性を示す。
つまり、投薬でアミロイドベータを除去して症状の進行を食い止めるだけでなく、死んだはずの脳内の神経細胞を生き返らせることで、ついに認知症を“治す”ことができるかもしれないのだ。前出・岩坪教授も興奮を隠せない。
「少し前の治験では、アミロイドベータを除去しても認知機能には効果がありませんでした。今後、治験が進むと効果はより明確になるでしょう。認知症を根治する治療薬の可能性を示す治験として注目しています」
アデュカヌマブの治験は最終段階。今後5年で薬が出回る!?
現在、アデュカヌマブの治験は、日本人の患者を含む計2500例以上を対象にして最終段階が行われている。
開発が進むのはアデュカヌマブだけではない。効果は多少劣るものの、軽症者には効果がある新薬の治験が進んでいて、一部は今年末にも結果が出る。世界中の研究者と製薬会社が鎬を削る新薬の開発競争。岩坪教授は、「夢の根治薬」に思いを馳せる。
「今、進められている治験はどれも期待できるものばかりです。今後5年間くらいで効力の強い薬、認知機能の低下を遅らせたり、うまくいけば回復させたりする薬が世に出回り始めるのではないでしょうか」
認知症を征圧するという人類の悲願までもう一歩だ。
※女性セブン2016年9月22日号
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