注目の「自筆証書遺言」とは?「公正証書遺言」との違いを弁護士が解説!遺言書を残すメリットとは?「老後のライフプランを見直すいい機会に」
記者も60代に入り知人の訃報に接する機会が少しずつ増えてきたが、自分はまだ遺言書を用意するには早いような気も…。遺言書は何才ぐらいから準備するのがいいのだろうか。また、作成しておくメリットは?
「遺言書は15才から書けますし、いつ亡くなるかは誰にもわからないので、60代は全然早くありません。生命保険に入るのと同じように、残された家族が困らないように備えたいと思ったときが遺言書の書き時です。
会社勤めの人は、定年退職がひとつのタイミングになります。また、自分の親が亡くなり相続手続きが一段落したときも、遺言書を作るタイミングです。自分が味わった煩雑さや気苦労を、子どもたちや遺される家族には味合わせたくないと思うかたが多いんです。心身共に元気で判断能力にも問題がない60代のうちに、遺言書を用意しておくことで、将来の不安を取り除き、自分の意志を家族にもしっかり伝えられると思います」
60代から遺言書を準備するメリットには、次のようなものがあるという。
1.将来の相続による揉め事を防げる
「60代は、子どもが独立して家庭を持ったり、親や兄弟姉妹が亡くなったり家族関係が変わってきます。遺言書があれば、そのような状況にあわせて遺産分けができるので、将来、相続争いが起きにくくなります」
2.家族の生活を守れる
「相続手続きには相続人全員の同意が必要なので、同意が得られなければ預金口座の解約や不動産の名義変更に時間がかかります。それでは困る家族がいる場合、遺言書(特に公正証書遺言)を作っておけばすみやかに相続手続きができます」
3.大切な人に財産を渡せる
「介護を担ってくれた子どもに財産を多く相続させたい、未入籍のパートナーや孫など、法定相続人以外の人に財産を渡したいという場合も遺言書が役立ちます。自治体や福祉団体に寄付することも可能です」
4.将来の問題点を解決できる
「遺言書の準備を進めるうちに、将来の相続の問題点に気づき解決する時間的余裕があるのも60代ならでは。たとえば多数の金融機関に預金口座がある場合は、あまり使っていない口座を解約したり、故人名義の不動産がある場合は、実情にあわせて相続登記をしておくなど、今のうちに財産を整理したり問題点を解決しておくことで将来、家族が困らずにすみます」
5.将来のライフプランを立てるのに役立つ
「たとえば配偶者に先立たれた人が遺言書を作る場合、財産を誰に相続させるかだけでなく、『もし私が将来、介護施設に入る必要になったら家は売ってその資金にあてよう』とか、『子どもたちはみんな独立して家を持っているから、孫の教育資金を助けるため預貯金の一部は、今のうちに贈与してあげたほうがいいかも』
というように、将来のライフプランを立てるのにも役立ちます。
また、遺言書には本文のほかに『付言(ふげん)事項』という形で、個人的なメッセージを書くこともできます。この部分に関しては、法的な効力はありませんが、感謝の気持ちや遺言をした理由を書くことで、家族の遺言に対する理解を得やすくなることが期待できます」
せっかく準備した遺言書に不備があり無効にならないためには、公正証書遺言がよりいいようだが、まずは自筆証書遺言を一度書いてみることで、遺言書がどういうものかを実感することができ、何をしておけばいいのかをつかみやすくなるという。
「自筆証書遺言」作成の流れ
【1】遺言書の内容を決め、下書きをする(不動産の所在地や預貯金の口座番号などは記録を見ながら正確に)。
【2】便箋などに、黒ボールペンなど消えにくい筆記具で清書する。
【3】遺言書を保管する(封筒に入れて封印してもよい)。
※2020年7月以降に法務局で保管してもらう場合は、封筒に入れずに保管手続きをする。その際には、【4】の検認は不要となる。
<本人死亡により相続発生>
【4】遺族が遺言書を家庭裁判所に持参し、検認を受ける。
【5】遺言書をもとに金融機関などで相続手続きを行う。
「自筆証書遺言を作った後、形式や内容などに不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談し、公証役場で『公正証書遺言』に作り直しておくと、より安心です。
たとえ生前、「あの財産はあなたにあげる」などと口約束しても、遺言書がなければ実現は困難です。大切な家族のためにも、早いうちに遺言書を準備しておきましょう」
取材・文/本上夕貴