「ウオーキングしながらのおしゃべり」は脳を活性化させ認知機能低下を抑制する!WHOも認めた「認知症を緩和・予防する行動」とは?【専門家監修】
2023年7月にアルツハイマー型認知症治療薬「レカネマブ」がアメリカで承認された。2023年9月には日本の厚生労働省も国内での製造を承認し、早ければ年内に患者に処方される可能性があると大きな話題になっている。2025年には65才以上の5人に1人が認知症になると見込まれる中、治療薬に頼らない緩和・予防法を専門家に聞いた。
教えてくれた人
新井平伊さん/順天堂大学名誉教授・アルツクリニック東京院長、内野勝行さん/金町駅前脳神経内科院長、室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、富田泰輔さん/東京大学薬学部教授
家族が認知症になったら病院だけでなく自治体にも問い合わせてみて!
順天堂大学名誉教授でアルツクリニック東京院長の新井平伊さんは「安易に薬を出す医師と検査ばかりする医師は考えもの」とアドバイスする。
「血液検査すらせずに薬を出したりする医師や、反対に受診の際に頻繁に心理検査や画像検査をしようとする医師は、患者本人としっかり向き合っていないかもしれない。また、認知症を専門にしている医師であるかどうかもしっかり確認することが重要。脳関係の診療科といっても、専門が『児童・思春期』『脳血管障害』『脳腫瘍』など認知症以外の先生も多いのです」(新井さん)
医師に心当たりがなければ、ケアマネジャーや地域包括支援センターに問い合わせるのもひとつの手。
「日本は国をあげて認知症と共生する社会に取り組んでおり、自治体単位で患者の社会参加、介護する人の孤立を防ぐことなども重要視されています。そのため、地域と連携をとって活動している医師にかかった方が安心できる。加えて、自治体で勉強会を開いているような医師ならば治療に熱心でさらにおすすめです」(金町駅前脳神経内科院長の内野勝行さん)
生活習慣の改善で認知症が改善することも
適切な医療にアクセスする道を探しつつ、個人レベルで行える生活習慣の改善に努めることで症状は緩和できる。
「WHO(世界保健機関)の認知症ガイドラインによれば、適度な運動、禁煙や禁酒、バランスのいい食事をとることなどが推奨されています。高血圧・肥満・糖尿病に気をつけるなど生活習慣病の予防もリスク低下につながります。耳が聞こえにくいことも認知機能を低下させる原因になるため、難聴の人は耳鼻科を受診して、補聴器を使うなど対策をとるといいでしょう」(新井さん)
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医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも「運動は効果的」と首を縦に振る。
「医療現場においても、体を動かして脳を刺激する運動療法や、目で見たりにおいをかいだりするなどして五感を刺激して認知機能の改善を図る認知刺激療法が導入されています」(室井さん)
有酸素運動は認知機能低下の予防にも効果的であることは、最新の研究によっても明らかになりつつある。
「特に効果的なのは脳トレとの“合わせ技”。ウオーキングやランニングなど軽い汗をかく程度の有酸素運動をしながら、考えごとをするなど脳の別の部位を使うと、認知機能の低下を抑制することがわかっています。私たちが行った研究では1回につき30分~1時間、週3回くらい、簡単なクイズに答えながら運動を続けたところ、認知機能の低下度に有意差がみられました。ウオーキングをしながら友達とおしゃべりやしりとりをするのもいいですし、夕飯の献立や仕事の段取りを考えるのも効果的です。脳が司令を出して体を動かしている状態で、運動に関係のないことで頭を動かすことによって、脳が活性化されるのです」(東京大学薬学部教授で認知症治療の研究に携わる富田泰輔さん)
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やりたいことを探そうとする姿勢も症状緩和に一役買うと内野さんは話す。
「やりたいことや好きなことをすればドーパミンが出て脳の活性化につながり、認知症の予防になります。認知機能が落ちてきた親に、無理に脳トレやドリルをやらせる人がいるけれど、やめた方がいい。娘に言われたとおり漢字ドリルをやり続けて症状が緩和しなかった患者が、庭で大好きな土いじりをする時間を増やしたところ、よくなったケースがあります」
メイクをすることで改善された事例もある。
「身だしなみを整えるには、手先や脳を使うし、お化粧によって自己肯定感が上がるので、引きこもりがちだったかたが外出するようになります。ご自分でお化粧ができないかたには、ご家族がやってあげるといいでしょう。また、何より重要なのは家族が認知症になったときに、いずれ自分もなりうる病気だと受け入れることです。それが病状の緩和にもつながると思っています。多くの患者は昔の記憶や自我もある。否定的なことを言わずに、寄り添うことを意識してほしい」(内野さん)
予防や対処に走りつつ、それと同時に、最新治療薬の動向も注視したい。
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