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アドラー心理学の第一人者・岸見一郎氏が説く“自分が自分であることの価値” 「学歴、会社名、職責…社会的な肩書きは病気になったときには意味がないことに気づかされる」

 人生において自分自身を「特別な存在だ」と思うか、あるいは「思っていたより普通かもしれない」と思うか。「特別でなければならない」という考えを持っている人は、常に他者と比較している。自分が誰かを会社名や職責、学歴といった属性で語るのもその表れだろう。ただ、自分が自分として生きていることにこそ価値がある。アドラー心理学の第一人者で哲学者の岸見一郎氏が「特別になろうとしないが、同じでもない」生き方を探った新著『「普通」につけるくすり』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。

教えてくれた人

岸見一郎さん

1956年生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを歴任。専門のギリシア哲学研究と並行してアドラー心理学を研究。著書に、ベストセラー『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)のほか、『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)、『幸福の哲学』(講談社)、『つながらない覚悟』(PHP研究所)、『妬まずに生きる』(祥伝社)などがある。

 * * * 

属性は個性ではなく、他の人と共通している特性でしかない

 自分が誰であるかということを属性によってしか説明できない人がいます。自分が所属している会社などの組織名を言うことでしか、自分を説明できなかったり、会社名や職責、学歴を人に告げることで、自分が優れていることを誇示しようとする人もいます。

 私は精神科の医院などでカウンセリングをしていましたが、初回のカウンセリングは自己紹介から始まります。その際、肩書きなどの属性によってしか自己紹介ができない人は少なくありませんでした。

 属性というのは、先にも見たように、たとえば、「あの人は美しい」というときの「美しさ」のように、「人に属するもの」であって、その人自身ではありません。容色が衰えても、また病気のために身体を自由に動かせなくなったとしても、それは属性の変化であって、自分が自分でなくなるわけではありません。子どもの頃と今の自分は外見が違っても、同じ自分であることを疑う人はいないでしょう。その人自身とは「人格」とも言い換えることができます。

 学歴も属性です。属性を列挙して自己紹介する人は、履歴書を読み上げているかのようです。しかし、いくら属性を知っても、その人がどんな人なのかはわかりません。属性はその人の個性ではなく、他の人と共通している特性でしかないからです。

 心筋梗塞で入院していたとき、私は属性でいえば「患者」でしかありませんでした。病院という場では、外の世界での肩書きを語ったところで何の意味もありません。病気になると、それまで漠然と何年も生きるだろうと思っていたのに、人生には限りがあることに気づき、それまでの自分の生き方を見直す人は多いものです。そればかりでなく、自分の社会的な肩書きは病気になったときには意味がないことにも気づかされます。

 患者になったからといって、自分が自分でなくなり、個性を失うわけではありません。ただ、社会的な肩書きが意味を持たない状況に置かれたとき、その事実を受け入れることが難しい人もいます。しかし、この事実を受け入れることができたとき、人生は変わります。

 それまでは自分の属性でしか自分を言い表せなかった人が、死の淵を垣間見るような経験をすると、属性を語ることで自分が重要な人であるかのように示す必要がないことに気づき、やがて属性を語らなくても自分は自分であると思えるようになります。

自分が自分であるということだけで価値があるとは思えない状態

 しかし、そのように思えない人もいます。自分が一人の患者でしかないことを受け入れることができず、社会的な肩書きを持ち出して、自分がいかにエライかを誇示し、特別な扱いを求めたりします。

 自分は一人の人間であるという以上の何か特別な存在であることを、学歴や所属先、職責といった属性によってしか他者に示せないと思うのは、自分が自分であるということだけで価値があるとは思えない状態です。

 銀行の頭取まで務めたある男性が、脳梗塞で身体の自由が利かなくなったときに、こんな身体ではもはや生きていても価値はないと、「殺せ」と叫び続け家族を困らせたという話を聞いたことがあります。どうすれば、このような状況でも生きる価値があると思えるか考えなければなりません。

「生きていても価値がない」のではなく、「生きていること」にこそ価値があるのです。生まれたばかりの子どもは親の助けがなければ生きていけませんし、自力では何もできません。しかし、それを見た周りの人がこの子には生きる価値はないとは思わないでしょう。それどころか、子どもを見たら幸福になれます。大人も子どもと同じように、身体を動かせなくても、生きていることで周りの人に貢献していると考えていいのです。

 入院したときに、社会的な属性から自由になる経験をし、そのことが心地いいことを知ると、もはや元に戻れない、元に戻る必要はないと思えるようになるでしょう。

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