猫が母になつきません 第439話「ながめる」
東京や神奈川などの首都圏に住んでいると、不動産物件のアピールポイントに「海見え」とよく書いてありますが、私が住んでいる地方都市ではそんなことは書いてありません。内見に来たときには草がボーボーだったので海見えに気が付かなかったくらいで、不動産屋さんも海には触れず。「ところ変われば」です。
引っ越した当初、さびが前の家に帰りたがって毎日大泣きしていたので、抱っこして海を眺めながらなだめていました。それがそのまま習慣になって、今はさびが朝ごはんを食べたあとに同じように抱っこして外を眺めるようになりました。さびも外を見るのが好きになりました。眺めている時に顔を私のほっぺたに寄せてくるのがかわいい。
いつも見るのは海から頭だけ出ているのが猫耳みたいに見える岩や、たくさんの種類の鳥たち、最近はキビタキのオスがやってきます。こっちを見ている看板のちょっと古臭いキャラクターには「おはよう」と挨拶したり。同じものを見ているようでも、毎日ちがう。絶景というわけではありませんが、その景色を見るのは私にとって贅沢な時間です。
しかし、贅沢にはなれてしまうもの。だんだん景色の真ん中にある大きな建物が邪魔に思えてきました。大きな建物はそれだけなのです。なければいいのに…とか、もうちょっと左に寄ってくれたら…などと自分勝手に建物を取ったり寄せたりして理想の風景を妄想します。人間は欲張りです。
今、妄想ではなく本当に建物を壊し、国境も変えようとする戦争が行われています。なんだかじわじわと不穏な足音がこちらにも近づいてきているようでこわいです。世界が平和になりますように。明日からは欲張らず、毎日海に願おうと思います。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。
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