「着替えが困難な人にも多様な選択肢を」介護用の衣服を手がける広島の企業が新ブランドを設立
既存の服はどうしても「標準体型」や「健常者」を基準としていることがほとんど。「着やすさ」を優先すると服の選択肢が限られてしまって、満足におしゃれが楽しめない…と落胆することになる人も少なくないだろう。そこで注目なのが、誰もが着られるインクルーシブウェアをカスタムオーダーできるファッションブランド『キルキセキ』だ。
着る人のニーズに応えるインクルーシブファッション、新ブランドを設立
「着やすさを重視しつつ、おしゃれだって諦めたくない!」そんなニーズに応えるべく、介護用衣類を製造販売するこうのふくは、すべての人が快適でおしゃれを楽しめるインクルーシブファッションブランド『キルキセキ』を立ち上げた。
「インクルーシブファッション」とは、多様な人々が利用しやすく、楽しめるようにデザインされたファッションのこと。『キルキセキ』も、年齢・性別・体型や障害の有無にかかわらず、誰もが着られるデザインを追求している。
さらに、着る人の認知・運動機能や生活の変化に対応して、袖の開閉や留め具を選択できる柔軟性と、受注後7~14日で出荷可能なカスタムオーダーを実現。今春より自社ECサイトなどで販売をスタートする。
上質な生地とカスタマイズ性で誰もがファッションを楽しく
『キルキセキ』は自社開発の上質なガーゼ生地(兵庫県播州織)を採用し、「すべての人がファッションを楽しんで自己肯定感を高めてほしい」という理念のもと、着ることで気分が上がるようなファッション性と快適な着心地を重視している。
一見すると普通のシャツのような見た目だが、ボタン留めが難しい人や点滴中でも着替えられる機能性が必要な場合、オプションでボタンをマグネットに変更したり、前たての第2ボタン下から袖口までを開いたりなどのカスタムができる。あらかじめ袖や身頃の留め具を選択できるよう縫製した製品を用意しておき、出荷前にオーダーに合わせた留め具を縫製して完成させる供給システムの構築により、短納期のカスタムオーダーを可能にした。
自社開発の上質なダブルガーゼ生地を使用
こうのふくは、創業当初から着心地にこだわり、兵庫県播州織の産地で自社オリジナルのダブルガーゼ生地を採用してきた。介護が必要な人は肌トラブルも多いため、滑らかで毛羽立ちの少ない上質な自社生地は利用者からも高評価を得てきた。
『キルキセキ』ではその生地の風合いは変えず、新たに色糸と白糸を組み合わせたシャンブレー生地を織り上げて使用。また、ダブルガーゼでは前例のない光沢加工処理を試み、さらにファッション性を向上した。
代表が語る『キルキセキ』に込めた願いとは
こうのふくは、代表である中藤友栄さん自身の次男と父の介護経験から、着替えが困難な人にもファッション性のある衣類の必要性を感じ、2018年に創業された。個々のニーズに合わせたカスタマイズに対応し、一人ひとりに寄り添ったサービスを展開してきた。
しかしその中で、「介護靴の売り場はあるのに、介護服の売り場がない」という大きな課題に直面。靴は用途やデザインに応じて選べるのに、服はパジャマ以外の選択肢がほとんどなく、日常の外出着として選べる服が少ないという声が多く寄せられた。
「介護が必要でもおしゃれがしたい」という声に応えたい想いはあっても、要介護者の症状は人によって異なるためニーズは多岐に渡り、既存のアパレル方式ではすべてに対応することは難しい。そこでインクルーシブファッションに着目。着替えが困難な人もそうでない人も、一般の洋服売り場で購入できる仕組みを目指し、デザインの改良や提供システムの構築に取り組んできた。
『キルキセキ』は袖の開閉や身頃の留め具を選択できることで、介護が不要な元気な時から介護度の高い状態まで、ひとつの服を作り変えながら対応できる設計になっている。そのため介護度や生活環境が変わった場合でも、新たに服を買い替える必要がないのが特徴だ。また、いわゆるパジャマや部屋着ではなくそのまま出かけることもできるデザインのため、介護度の高い人でもできる限り社会との繋がりを保てることを目指している。
『キルキセキ』という名前の由来について、中藤さんは「服はただ着るものではなく、生きるチカラになるのです。『着る』という行為で、あなたの日常に小さな『奇跡』を運ぶ。その想いを込めて『キルキセキ』と名付けました」と語る。
今後は『キルキセキ』公式オンラインショップの立ち上げと販売開始、広島市内にて展示販売会を開催、新たなカラーバリエーションやアイテムの追加、インクルーシブファッションの普及を目指したクラウドファンディングなど、多彩な展開を予定しているとのこと。この奇跡がより多くの人に届くことを心待ちにしたい。
【データ】
こうのふく
https://www.kounofuku.net
『キルキセキ』ECサイト
https://www.kirukiseki.com/
※こうのふくの発表したプレスリリース(2025年2月4日)を元に記事を作成。
図表/こうのふく提供 構成・文/秋山莉菜