介護が必要な人の服選びをサポートする「介護衣料コンシェルジュ」がいる地域密着型の洋品店に潜入レポート
90代の母を通いで介護しているR60の記者の最近の悩みは、「母のための服選び」。施設介護も視野にあるが、着心地が良く本人も気に入る服や肌着はどんなものか、どこで調達すればいいのか…。そんな悩みに寄り添うショップを見つけたので早速行ってみることに。介護中の母のための衣料品選びをレポートする。
教えてくれた人
介護衣料コンシェルジュ・理学療法士 池田智子さん
理学療法士として病院や訪問看護ステーションに勤務する中で、利用者の衣料や着替えの重要性に気づき、服飾学校の夜間部で衣服について学ぶ。現在は、東京・世田谷の衣料品店「三恵」で介護衣料のアドバイザーとして勤務。高齢者への適切なアドバイスと親しみやすい人柄が人気で遠方からも客が通う。https://sankei-innerwear.com/
介護衣料コンシェルジュとは?
東京・世田谷区三軒茶屋にある衣料品専門店「三恵」には、ミドル・シニア世代向けの着心地がよさそうな洋服が並ぶ。店内には秋冬用のニットやパンツが飾られ、シニア世代の女性客が洋服を選びながら談笑している。店の奥には、介護中の人に向けた肌着やパジャマのコーナーもあり、杖やシューズも扱っている。
「当店では、施設を利用するときに必要な服や肌着など一式を選んでいただけるような品揃えになっています。店内には、理学療法士や作業療法士などの資格をもつ介護衣料コンシェルジュが在駐しているので、ご希望や利用するかたのサイズや身体状況に合わせた衣類選びのお手伝いをさせていただきます」
明るい笑顔でこう話してくれたのは、理学療法士の資格を持ち「介護衣料コンシェルジュ」として働く池田智子さんだ。
「介護衣料コンシェルジュ」とは、同社オリジナルネーミングで、高齢者や介護が必要な人や障がいがある人、それぞれのニーズに合わせた衣料品を選ぶアドバイザーのこと。店内で服選びのサポートをするサービスを無料で行っている。
池田さんはかつて高齢者施設や病院で理学療法士として働きながら、服飾学校で学んだ経験をいかし、現在は三恵の店内に立ち、お客さまの服選びをサポートしている。
「患者様にリハビリテーションを提供する中、日常生活で“着替え”の大切さに気づきました。
朝起きて着替えて、お風呂に入るとき、寝るときなど、一日のうちで何度も着替えるんです。そして着替えるという行動は、高齢者のかたや体に麻痺があるかたにとって、とても負担が大きい作業です。だからこそ、着る人の衣服を工夫したり、ふさわしい服を選んだりすることができれば、患者さんはより生活がしやすくなるのではないか、と。
そんなとき、ある患者さんから『着るのに困らない服を着ているけど、実は好みじゃないんだよね』という言葉を聞いて、ハッとしました。
年齢や障がいの有無に関わらず、誰もがおしゃれを楽しむ機会を持てたらいいなと感じ、『介護衣料コンシェルジュ』の仕事を選びました。
高齢者施設へ出向く移動販売を通じて、施設で暮らす高齢者に本当に必要とされている衣類とはどんなものなのか、実際の現場で調査し、知見を蓄えていきました。
乾燥機対応のものではないなど、入居する施設の決まりにそわない衣服をもっていくと、施設から戻されてしまうこともあり、買い直すことになって金も時間も余計にかかってしまいます。選ぶ段階でサポートできれば、そうしたミスマッチを防げるとも考えています」(以下、池田さん)
池田さんが店に立つようになった頃から、『介護施設への入所が決まって必要な衣類のリストをもらったけれど、具体的に何を買ったらいいかよくわからない』というお客さんからの相談が増えたそう。
「利用者様のお悩みや希望、お身体の状態などを伺いながら、必要とされる衣料を一緒に選ばせていただいていますが、ときには身体への負担が少ない介助の仕方、ご家族様との関わり方などの服選び以外のご相談にのることもあります。
片道2時間以上もかけて来店されるお客さまもいらっしゃいます。また、お母さまが義足なので、はきやすいズボンを探しているというお客さまも。裾がジッパーで開くタイプのズボンをご提案させていたただきました」
専門的な知識をもっているからこそ、お客さまに安心して買い物をしてもらえて、喜んでもらえるのだろう。
「店にはおしゃべりだけして帰って行くお客さまもけっこういらっしゃいます(笑い)。介護生活にも”明るくしていること”は大切だなと感じますね」
日頃の丁寧な接客の積み重ねにより、お客さまひとり一人に適切な衣類選びにつながるという。来店できない人や店内で取り扱っていない衣服は、通販サイトでも選べる。
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日常生活ではなかなか接する機会を持てない理学療法士から、衣服のアドバイスを気軽に受けられるのは、介護する人・される人どちらにとっても貴重な場。地域に根ざした洋品店が、高齢者や介護中の人にとって必要とされていることを実感した。
取材・文・撮影/本上夕貴