認知症の母が暮らす実家に鳴り響く謎の警告音「ガス漏れ?」焦った息子が取った緊急対策
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。住み慣れた自宅で暮らし続けたいという母のために、便利なアイテムを駆使してケアを続けている。あるとき実家で聞き慣れない音が響き――。「ガス漏れでは?」と焦った息子が取った対策とは?
執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(81才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。
著書『親の見守り・介護をラクにする道具・アイデア・考えること』『親が認知症!?離れて暮らす親の介護・見守り・お金のこと』(翔泳社)など。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442
実家に鳴り響く謎の警告音の正体は?
東京にいたわたしは、岩手の実家に設置してある見守りカメラで母の様子を見ていました。母は居間でテレビを見ていたのですが、「ピー、ピー、ピー」という謎の警告音が家じゅうに鳴り響いていました。
この警告音はなに? 音の発生源はどこ? 母は気にする様子もなくテレビを見ていたのですが、わたしは気になって仕方がありませんでした。母と離れた場所にいたわたしが、この警告音にどう対処したのかのお話です。
わたしは居間にある、警告音が鳴りそうなものを考えました。最初はテレビやエアコンの故障が原因かもしれないと思ったのですが、携帯用の小さな目覚まし時計があったことを思い出しました。
全く使っていなかった目覚まし時計ですが、母がアラームのスイッチをONにしたのかもしれないと思って、右手にコードレスの固定電話を持ち、左手にはスマートフォンを持って、母の動きを見守りカメラで確認できる状態にしてから、電話をしました。
母
はい、工藤です
わたし
あなたの息子のひろですよ。電話の近くに、目覚まし時計があるでしょ
母
どれ? どこ?
わたし
(見守りカメラで母の姿を見ながら指示)そっちじゃなくて、電話があるほうに移動して!
母
どっち? なにが?
目覚まし時計は母の目の前にあったのに、なぜか逆のほうを探し始めてしまい、会話が通じなかったので諦めて電話を切り、次の方法を考えました。相変わらず警告音は鳴り続けていたのですが、母は気にすることなくまたテレビを見始めました。
このままだと、ヘルパーさんが来る翌朝まで家じゅうに警告音が鳴り響いたままです。音が鳴り続けていてもいいと思ったのですが、母の命に関わるかもしれないある原因を思いつき、急に焦り始めたのです。
もしかして「ガス漏れ」か?
目覚まし時計のアラーム音は確か、「ピピピッ」だったような?
さらに警告音の原因を探るため、わたしは居間のテレビやエアコン、カーテンなど遠隔で操作できるすべてのものを一通り操作しました。IoT機器の電池切れによる警告音も確認したのですが、音は消えませんでした。
ひょっとして居間じゃなくて、台所から鳴っている? そう思って見守りカメラの映像を台所へ切り替えると、急に警告音が大きくなったので、音の発生源は居間ではなく、台所と判明したのです。
台所で警告音が鳴りそうなものは、給湯器や電子レンジ、冷蔵庫、そしてガス警報器。もしガス警報器の警告音だとしたら、実家がガス爆発するかもしれない一大事です。
母にガスの確認をお願いしようにも、目覚まし時計のやりとりのように、おそらく会話にならないでしょう。「どうしよう、どうしよう」とわたしは焦りましたが、いったん冷静になって録画されていた台所の見守りカメラ映像を、3時間前から確認することにしました。
ガス警報器の警告音を調べる
母がガスコンロを触ったのか、録画された見守りカメラの映像で確認してみたのですが、触っていませんでした。
たまたまガス警報器の写真を撮っていたので、すぐ品番を調べてYouTubeでガス漏れ時の警告音を検索してみると、違う音でした。念のため、ガス警報器の取扱説明書をダウンロードして他の警告音も調べたのですが、該当する音はありませんでした。
相変わらず警告音を気にすることなく、テレビを見て笑っている母。
こうなったら誰かに警告音の発生源を調べてもらうしかないと考え、わたしは岩手にいた妹にLINEをしました。妹も見守りカメラの映像を確認できるので、まずは台所で鳴り響いている警告音を聴いてもらいました。
「ガス漏れではないと思う」と伝えると、妹が「今年買った、ガス衣類乾燥機の故障かもしれない」と返事が来ました。
確かに乾燥機は台所の隣の部屋に設置してあるので、可能性はゼロではありません。やっぱりガスなのかとまた不安になり、急きょ妹が実家へ向かうことになったのです。
妹が車で移動している間、わたしは東京でガスの異常があったときのガス会社の緊急連絡先を調べ、もしものときに備えて、妹からの連絡を待ちました。
謎の警告音の正体が判明!
実家に到着した妹は、ガスのにおいを気にしながら、台所へ向かいました。わたしは見守りカメラでその様子を見ていたのですが、到着から1分も経たないうちにこんなLINEが来ました。
妹
冷蔵庫がちょっと開いてた
わたし
え? それだけ?
妹が冷蔵庫の扉をきちんと閉めると、警告音は鳴り止みました。録画された見守りカメラの映像を見直すと、確かに母が冷蔵庫の扉を開け閉めした形跡はありました。
しかし警告音が鳴り始めたタイミングは突然で、不思議な現象でした。
冷蔵庫の扉はオートで閉まる仕様になっていたはずですが、車でいう半ドアの状態になっていて、「冷蔵庫の扉が開いたままですよ」という警告音だったようです。こんな大騒ぎになるとは思っていなかったのですが、ガス漏れでなくて本当によかったです。
今日もしれっと、しれっと。