高齢化加速で需要拡大「上場企業M&A動向調査レポート」を紹介
高齢化が加速する現代日本。それに伴う需要拡大で、近年、医療・介護業界におけるM&Aの動きが活発になっているという。そもそもM&Aとは何か、どのような目的で行われているのか。「上場企業M&A動向調査レポート」の結果を元に解説していく。
M&Aとは?意味やメリットを解説
M&Aの正式名称は「Mergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイアジションズ)」という。それぞれ、「Mergers=合併」「Acquisitions=買収」という意味の英単語であり、頭文字を取った言葉で「エムアンドエー」と呼ばれる。
M&Aという場合、教義的には「合併」に該当する吸収合併と新設合併、「買収」で用いられる株式譲渡・事業譲渡・株式交換・第三者割当増資などを指す。また、企業同士が協業する資本提携なども広義的な意味で含むことも多いようだ。
企業がM&Aを行う理由・目的には様々なものがある。主な目的としては、売却(譲渡)側には「後継者問題の解決」「経営基盤強化」「創業者利益の獲得」、買収(譲受)側には「事業の拡大」「優秀な人材の獲得」「新規事業参入」「シナジー効果」などが挙げられる。
医療・介護業界においても、近年の高齢化加速による需要拡大でM&Aが活発になっているようだ。M&A総合研究所は、2018年1月から2023年12月までに上場企業が適時開示した株式譲渡によるM&Aに関する発表のうち、医療・介護業界の案件を独自集計した「上場企業M&A動向調査レポート(医療・介護業界版)」を発表した。
介護業界は人材確保を目的とするM&Aが増加
医療・介護業界における2018年1月から2023年12月までのM&A成約件数は全部で104件。内訳は同業種とのM&Aが40件、異業種とのM&Aが64件であり、業種別では「介護・福祉」が61件、「医療サービス」が43件となった。
期間中で最多となったのは2023年の23件で、同業種M&Aは6件、異業種M&Aは17件が成約となった。医療・介護業界のM&Aは年々増加しており、全体としては異業種M&Aの割合が高い傾向がみられた。また、2023年は異業種M&Aの成約件数が飛躍的に伸びており、コロナ禍前の2019年と比較すると約2倍に増加している。
調査期間中のM&A成約件数の6割が異業種とのM&Aであり、特に2023年は17件と過去6年間で最多を記録した。高齢化加速による需要拡大などで、2024年も「介護・福祉」の異業種とのM&Aが活発に行われると考えられる。
また、医療・介護業界のうち、特に介護事業では人材不足解消が喫緊の課題だ。2024年の介護報酬改定はプラス1.59%となったものの、他産業との賃金格差は解消されておらず、離職や新規採用の難航は深刻さを増している。
需要が拡大するなか、M&Aによって積極的に拠点拡大する企業や介護の事業領域を切り替える企業も増えており、競争はさらに激化すると予想される。稼働率向上を図るためには、人材確保や質の高いサービス提供が必要だ。人材不足に加え、物価高騰の影響で厳しい環境下に置かれている企業も多く、今後は課題解決や生き残りのためにM&Aを活用するケースがさらに増加すると考えられるだろう。
医療・介護業界におけるM&Aの活発化によって、この高齢化社会がどのように支えられていくのか。今後の動向にも注目していきたい。
【データ】
M&A総合研究所
https://masouken.com/
M&Aとは?
https://masouken.com/M&A/
事業承継とは?
https://ma-s.jp/x/4v7t1/
【調査概要】
調査期間:2018年1月から2023年12月
調査対象:調査期間中に公表された医療・介護業界を対象にした東証の適時開示
調査方法:東証適時開示の情報を集計
※M&A総合研究所の発表したプレスリリース(2024年9月2日)を元に記事を作成。
図表/株式会社M&A総合研究所提供 構成・文/秋山莉菜