倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.47「ちょっとした夫のこだわり」
倉田真由美さんは、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎(享年56)さんが旅立ってから、夫が残した数々のものに思いを馳せ、夫と過ごした日常を振り返る日々。夫が残したものの中で「なんだか処分ができないでいる」ものがあるという。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫との家事分担について
夫のことを話しに、とあるテレビ番組に出演してきました。
夫の遺品を持ってきて欲しいとのことだったので、痩せてしまった夫がキリで穴を開けたベルトや夫が使っていたスマホなど、いくつか見繕って。
その中の一つに、魚の形をした台所スポンジがあります。
うちは割と家事分担がはっきりしていて、買い出しや料理は私、洗濯、皿洗い、ゴミ出しは夫と決まっていました。話し合いで決めたわけではありませんが、日常を過ごすうちに何となくそうなっていきました。夫は料理だけは壊滅的にダメだったので、すんなりその分担に収まった感じです。
皿洗いは私もすることがあるので、私用のスポンジも置いていました。別に夫が使うものをそのまま使ってもよかったのですが、夫は魚型スポンジにこだわりがあったので少々使いにくかったんですよね。夫の物、という認識が強かったというか。
夫の「ちょっとしたこだわり」
「なんで魚型じゃないとダメなの?四角のよりちょっと高いし、どこにでもは売ってないんだけど」
「いや、俺はこれが使いやすいんだよ」
「どうしても魚型がいいの?」
「うん」
一緒に暮らし始めた頃、こんなやりとりをした覚えがあります。以降、ずっと魚型。色は黒白だったりピンク系だったりいろいろでしたが、うちのキッチンには常に魚型スポンジがありました。
夫が使っていた最後の魚型スポンジは、夫がいなくなった後もしばらくシンクにそのままいました。
2、3か月前に妹がうちに来た時、妹から「これ捨てていい?」と聞かれて「いいよ」と言えず、後日乾かして別の場所に置いてあります。
今、我が家のキッチンのシンクには私が使っている四角いスポンジしかありません。
たいして頑固でもないし、いろいろ融通のきくタイプだった夫ですが、「これがいい」というちょっとしたこだわりはいくつかありました。
本当に、ちょっとしたこと。汚れた魚型スポンジはその一つだったので、遺品ともいえないような、他の人にはなんの価値もないものだけど、どうしても捨てられずまだとってあります。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』