倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.48「泣けて泣けて、漫画にペン入れられない」
漫画家の倉田真由美さんが、すい臓がんを抱えた夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病について綴ったこの連載エッセイを開始したのは今年1月のこと。2月16日に旅立った以降も「まだまだ夫のことを伝えたい」と執筆を続け、現在も読者から大きな反響が届いている。夫のことを”漫画”に描くときの現在の心境を綴ってくれた。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫のことを書き残したい
夫がいなくなって半年以上経ちますが、まだまだいくらでも書くことがあります。書き残したい、伝えたいことがあります。
血が繋がった親族とは違い、夫とは血縁関係がありません。配偶者にならなければ、赤の他人だった人です。でも、だからこそ私にとって特別なんですよね。
夫のことは、私の夫じゃなくても好きだったと思います。私が夫を好きなのは、私を愛してくれたとか、大切にしてくれたとか、そういう理由ではないんです。そこに関しては、彼なりにはあったと思いますが、特に強く感じていたわけではありません。「してもらったこと」を思い返して惜しんでいるわけでもありません。
ここは、一昨年亡くなった父や、数年前亡くなった子供の頃世界で一番好きだった祖母とは異なるところです。父や祖母を想う時、「私を愛してくれた」「大切にしてくれた」という、彼らの私に対する愛情がまず一番にあります。でも夫は違います。
夫の漫画が書けない理由
彼の、考え方が好きでした。好きなもの、嫌いなもの、大切にしていることしていないこと、感受性、それらの表現の仕方が好きでした。私にしっくり合っていたんですよね。人によっては欠点に見えるところも私には面白さであったり、特に気にならないところであったり、相性のよさってそういうことだと思います。
私が死んだら、私が知っている夫の面白いところ、変なところ、いっぱいあったダメなところ、でもそれ以上にあった素晴らしいところ、すべて私と一緒に消えてしまう。私が抱えたまま、二度と人が知ることができなくなってしまう。
だからどうしても、生きているうちに夫のことをたくさん残しておきたいんです。漫画でも。だけど漫画はまだなかなか描けません、泣けてしまって。漫画で描く夫は私にとってあまりにも夫そのもので、夫のキャラクターを動かすのがつらいんですよね。
まだ、ここで一コマ描くのが精一杯です。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』