八丁みそなど豆みそで病気の抑制効果が|がんに克つ食事

 食べ物は、自然界の微生物によっておいしくもなり、まずくもなる。微生物は、ある時は食品を腐敗させ、ある時は食品を醗酵させて栄養価を高める。古来より人間はこれらの微生物の力を経験から学び、食べ物の保存に利用したり、おいしく食べる方法を見つけてきた。

 農学博士の大澤俊彦さんは、この伝統的な醗酵食品に注目。「豆みそ」などの醗酵過程が「アンチエイジングの特効薬になるのではないか」と日々研究を進めている。

 10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン治療等を行った本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食事、運動、睡眠など日々の生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえつつレポートします。

みその種類と大豆のチカラ

●豆みそ

 大豆と塩のみで造られる。麹菌は大豆を蒸してつぶしたみそ玉に種麹を付けて培養させる。東海地方を中心に生産されるみそ。

●麦みそ

 大豆に麦麹(大麦、もしくは裸麦を原料にした麹)と塩を原料として造られる。中国、四国、九州を中心に生産される。

●米みそ

 大豆に米麹(米を原料にした麹)と塩を加えて造られる。白みそも米みその一種。全国で生産される80%が米みそ。

●調合みそ

 米みそ、麦みそ、または豆みそを3種、もしくは2種調合したもの。米麹、麦麹、または豆麹を混合した麹を使用したみそ。

●大豆

 アミノ酸やビタミン、ミネラルが豊富で「天然のサプリメント」と呼ばれるほど栄養価が高い食品。特に含有量の多い栄養素イソフラボンは、女性のがん抑制に効果が期待され研究が進められている。

豆みそにはさまざまな病気の抑制効果が

 厚生労働省が今年発表したがん罹患率(疾病発症の頻度を表す指標)の調査結果によると、女性のがんが少ない都道府県ランキングのトップが愛知県。要因はさまざまだが、みそ煮込みうどん、どて煮、みそカツなど、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボンが豊富な「豆みそ」を料理に多用している点も無視できない。そこで今回は、日本の伝統食品「豆みそ」について農学博士の大澤さんに解説していただいた。

─―豆みそに注目したきっかけは何ですか?

大澤 以前から大豆の醗酵食品に興味がありました。大豆に含まれるダイズイソフラボノイドは、乳がんなど女性特有のがんを抑制することが期待され、研究が世界的に進められています。ですが私は、大豆そのものだけでなく、大豆の「醗酵」によって新たに生成する抗酸化成分も重要ではないかと考えました。そこで麹も原料も大豆のみで造られている東海地方の伝統的な豆みそ「八丁みそ」に着目し研究を始めたんです。

―─研究でわかったこととは?

大澤 通常の大豆より醗酵させた豆みその方が、発がんなどの原因になる活性酸素を消去する「抗酸化作用」が高いということです。みそは日本人にとってもっとも身近な醗酵食品。がん抑制食品としての研究も進められ、「みそ汁を毎日飲む人の胃がんによる死亡率が低い」との報告もあります。私の研究チームでも実際に八丁みそ製造に用いられる材料の「みそ玉」から発酵にかかわる39種類の菌を調べました。その中の一種に「アスペルギルス・サイトイ」という強力な抗酸化性のある黒麹菌があることがわかったんです。

麹菌の発酵過程で栄養価や抗酸化力が増大

─―麹菌での醗酵が、食品の栄養価をさらに高めるわけですね?

大澤 その通りです。まず、豆みその醗酵に欠かせない麹菌は、さまざまな酵素を生産し、原料の大豆にはない甘みや旨みを発生させます。この食品の「おいしさ」というのも、健康を考えた上でとても重要です。いくら健康によい食材でもまずくて食べられなければなんの意味もありません。さらに麹菌による醗酵は、もとの食材より栄養価を増大させ抗酸化力も高まります。ならばこの菌を使ってほかの食品を醗酵させれば、より体によい機能性食品が開発できるのではないかと考えました。そこで、ごま、レモン果皮などで実験し、多くの成果を挙げたんです。

豆みその麹菌が機能性食品開発の原動力に

─―豆みその麹菌を使って、ごまやレモン果皮を醗酵させる?

大澤 そうです。例えば「ごま」という機能性食品を豆みその麹菌で醗酵させます。すると、ごまの栄養成分セサミノールが醗酵によって変換し、栄養価や抗酸化力がさらに高まりました。また、「レモン果皮」を麹菌で醗酵させた場合も、強力な抗酸化成分を得ることに成功しました。もともとレモン果皮に大量に含まれている抗酸化フラボノイドは、強い抗酸化力を持っていますが、苦味が強く食品としては利用されてきませんでした。ところが豆みその麹菌で醗酵させると、皮の苦味がマイルドになって、おいしくなる。がん予防や動脈硬化予防、脳内老化抑制効果などに大いに期待でき、現在、実用化を目指しているところです。

─―豆みそは新たな機能性食品開発への大きな原動力となりますね。

大澤 最近、愛知県大府市にある国立長寿医療研究センターとの共同研究で、「豆みそを多く食べる人」「(DHAが多い)魚を多く食べる人」「豆みそと魚を両方多く食べる人」「どちらも食べない人」で比較実験を行いました。すると、「豆みそと魚を両方多く食べた人」だけに、記憶力の改善が見られました。脳機能に重要な作用を持つ魚のDHAは酸化しやすいという欠点がありましたが、これを豆みそが防いだというわけです。昔ながらの豆みその麹菌が、人類の救世主になる日が近い将来、来るかもしれません。

アンチエイジング・みそ汁

 アメリカで行われたデザイナーフーズ・プロジェクトでは、多種多様の植物性食品の中から、がん予防の可能性の高い約40品目の食品が実験対象に選ばれた。大澤さんはそのデザイナーフーズに、日本で機能性研究が進められてきた食品「きのこ類」「キク科」「海藻類」を加えた食品群を分類(通常は12種類)。ここではその中から、みそ汁の具材に合う食品をピックアップした。

→関連記事:日本型「デザイナーフーズ」→12の食品群とは|がん予防には栄養バランスが大切

 これらの食品群からそれぞれ1食品ずつ、なるべく均等に選択し、偏りなく摂取することが、がん予防や健康維持につながる。自分が「何科の食品が足りていないか」を判断し、足りないものは積極的にみそ汁の具にするよう心がけたい。

 特に香辛料の「ごま」はみそとの相性がよいので、飲む前にひとつまみ加えるなどして利用したい。

アンチエイジング 豆みそ料理

●豆みそ回鍋肉(ホイコーロー)

<材料>(3~4人分)
キャベツ……200g
バラ肉……150g
パプリカ……1/2個
にんじん……20g
しょうが……10g
にんにく……大1かけ
赤唐辛子……1本
ごま油……大さじ1
塩・こしょう……少々
<A>
豆みそ……大さじ1
酒……大さじ1
みりん……大さじ1
砂糖……大さじ1/2
すりごま……大さじ1
しょうゆ……小さじ1
オイスターソース……小さじ1
豆板醤……小さじ1

<作り方>
【1】キャベツは一口大、パプリカは細切り、にんじんは薄くいちょう切り、しょうがとにんにくはみじん切り。豚肉は塩こしょうをふる。
【2】フライパンにごま油をひき、にんにくとしょうがを炒め、香りが出てきたら豚肉を加え強火で炒める。
【3】肉の色が少し変わってきたら、【1】の残りの野菜と赤唐辛子を加えて炒める。
【4】野菜がしんなりしてきたらAを加えて混ぜ合わせ、最後に塩こしょうで味を調整する。

●みその麻婆豆腐

<材料>(3~4人分)
木綿豆腐……1丁
豚ひき肉……200g
しょうが……20g
にんにく……大1かけ
ねぎ……1/2本
ごま油……適量(作り方参照)
粉山椒……少々
<A>
豆みそ……大さじ2
豆板醤……大さじ1
みりん……大さじ2
顆粒コンソメ……小さじ1

<作り方>
【1】しょうが、にんにく、ねぎはみじん切り。Aは混ぜ合わせておく。
【2】フライパンにごま油大さじ1をひき、しょうが、にんにく、豚ひき肉を炒める。
【3】【2】にAとねぎを加え、ごま油少々を回し入れて火を止める。
【4】角切りにした木綿豆腐を茹でてから【3】に加えて崩れないように混ぜ合わせる。最後に好みで粉山椒をかければ出来上がり。

●豆みそドレッシング

<材料>
豆みそ……大さじ2
白すりごま……大さじ2
酒……大さじ2
レモン(酢でもよい)……大さじ3
にんにく(する)……10g
しょうが(する)……10g
ねぎ(みじん切り)……10g
唐辛子(みじん切り)……小1本
<作り方>
材料をすべて混ぜ合わせれば完成。サラダのドレッシングや、豚しゃぶのたれなどにするとおいしい。

教えてくれたのは

農学博士・大澤俊彦さん/1946年、兵庫県生まれ。東京大学大学院農学研究科博士課程修了。オーストラリア国立大学リサーチフェローを経て名古屋大学農学部へ。カリフォルニア大学デービス校客員教授。名古屋大学名誉教授。愛知学院大学心身科学部特任教授(人間総合科学大学特任教授兼任)。著書に『食べてガンを防ぐスプラウト健康法』など多数。

撮影/茶山浩 料理協力/新谷君子

※女性セブン2019年8月1日号

●長生きみそ汁|長生きみそ玉の作り方と健康効果UPさせる長生きみそ汁レシピ

●がんに克つ食事|抗がん作用のある天然のサプリメントスプラウト健康術

●もの忘れ、疲れ&だるさに! みそ汁は「食べるおくすり」

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