健康寿命を延ばす食生活|世界の長寿食研究権威が教える2週間分献立
世界随一の長寿国といわれて久しい日本。男性の平均寿命は81.09才、女性の平均寿命は87.26才と過去最高を更新し続けている。
しかし、死ぬその時まで元気に暮らせるかというと、そうではない。“健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間”、つまり、介護が必要なく、日常生活を送り続けられる期間を『健康寿命』と呼ぶが、これは寿命よりも10年以上も短いといわれている。
健康的な日常を失う原因として多いのは、三大生活習慣病のうちの2つ、心臓病と脳疾患。これが原因で、認知症や寝たきりの状態につながってしまうのだ。
「人は血管とともに老いるといわれ、血管の病気が寿命を決めます」
と話すのは京都大学名誉教授で武庫川女子大学教授の家森(やもり)幸男さん(81才)だ。
脳卒中を起こすのは人間だけ
家森さんが京都大学医学部を卒業した1960年代前半、日本人の死因の1位は脳卒中だった。脳卒中は、脳内の血管が破れ、詰まって起こる。
「当時は、年を取ったら脳卒中になって当たり前と考えられていました。しかし、脳卒中を起こすのは人間だけで、動物には起こりません。脳卒中の少ない国や民族もいる中で、何かを工夫すれば予防できるのではないか。そう考えたのが調査研究を始めたきっかけです」(家森さん・以下同)
家森さんが目を向けたのが、食事だった。毎日の食生活を変えれば、脳卒中を予防できるのではないかと考えたのだ。そこで家森さんは、世界保健機関(WHO)と共同で、1985年から約30年にわたりアメリカやヨーロッパ、アジア、アフリカなど世界25か国61地域に足を運ぶ。古来その地に根ざした生活を送る民族や都市化した人の食生活を調べ、健康寿命との関係について研究調査を行った。
現地では、血液と尿を採取した。まる一日の尿を調べれば、食べたものはもちろん、それに含まれる栄養素まで正確に把握できる。開発に2年を費やした専用の装置を使い、24時間の間に尿意を催したら装置に採るという方法で、延べ1万4000人以上の尿を採取・解析した。
「マサイ族やチベット族をはじめ、いろんな民族が調査に協力してくれました。そこでわかったのは、世界中どこに住んでいても、“健康は食べ物で決まる”という、非常にシンプルなことでした」
中国は大豆、ジョージアは肉とプルーン
最も顕著だったのは、肌のきめが細かで美しい国は、長寿国でもあるということだ。
「中国の南西部にある貴州省や、黒海に面した南コーカサスにあるジョージア(旧・グルジア)は、肌がきれいな人がとても多い。血液の末梢環境がよく、毛細血管までしっかりと血が流れていることがわかります。これはつまり、長生きにもつながります」
では、どのような食事が、美肌と長寿につながるのか。
「長寿地域としても有名な貴州省では、1997年に調査を行いました。そこで米の代わりに食べられていたのは、とうもろこしと大豆です。この地域は大豆の加工品が豊富で、干し豆腐や厚揚げに似た焼き豆腐など種類が多く、大豆を原料にした豆腐麺や糸引き納豆、さらには、沖縄料理で有名な、豆腐ようまでありました。日常的に大豆を食べる多様な工夫がされていたのです」
貴州省の人々が長寿なのは、大豆に含まれるイソフラボンが女性ホルモンに似た働きをすることで、更年期障害や動脈硬化を防ぎ、血液の流れをよくすることが大きな要因だ。一方のジョージアは、肉の食べ方が鍵といえる。
「ジョージアの人たちは肉を日本人の倍近くの量を食べますが、脳卒中や心臓死とも関連の深いコレステロール値は低いことがわかりました。その理由の1つは、肉の調理法と味つけにありました。肉はゆでて余分な脂を落とし、味つけには塩より、クミンやターメリックなど、カレーに使うスパイスを使用していました。そのほかプルーンなど果物で作った酸味の強い砂糖不使用のジャムで味つけをしていたのです」
プルーンはジョージアが原産地で“生命の実”と呼ばれているが、ぶどうとともに高血圧を予防するカリウムや食物繊維など良質な栄養素が豊富に含まれている。
家森さんにとって、最も印象的だったのは、1987年に訪れたタンザニアで調査したマサイ族の食生活だったという。
「彼らは牛乳を1日に3Lも飲みます。それも、朝の4時と早朝に搾ることが重要で、この時間帯の牛の乳には、前日に食べた草が消化されて得られたビタミンCなどが豊富に含まれた状態になっています。つまり、牛が尿などで体外に排出してしまう前のタイミングで搾って飲むのです。さらにマサイ族は牛乳に、牛の生き血を混ぜて、鉄分やビタミンを補っていました。搾った牛乳は、牛の尿で洗った一升瓶サイズのひょうたんに入れて保管しています。灌木の枝を燃やし、ひょうたんの中にすすをつけるのですが、これにより牛乳が発酵してヨーグルトになります」
日本食は、世界の誇る長寿食
各地のユニークな調査から、長寿といわれる地域には、その風土に合わせて育まれた、賢い食生活があることがわかった。そのことから家森さんは、ひとつの結論にたどり着いたという。
「私たちが食べてきた日本食、これこそが長寿の原点です。たとえば、血液の流れをよくし、肌を整えるイソフラボンが豊富な大豆をいちばん多く食べているのは日本人です。魚の摂取量も、日本人が最多です。魚には、ストレスで上がる血圧を下げるタウリンのほか、血管を広げて血圧を下げ、中性脂肪も下げるDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が多く含まれています。日本もそうですが、生活習慣の変化で魚を食べなくなった国では、高血圧や動脈硬化が増えていました。1913年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、たんぱく源として大豆と魚を多く摂る和食は、世界に誇る長寿食なのです」
その長寿食が、いつまでも若々しく病気知らずの家森さんを支えてもいる。
「献立には“まごわやさしいヨ”を取り入れるのがポイントです」
家森さんが提唱する長寿食のキーワードは、「ま」が豆類、「ご」がごまやナッツなど種実食、「わ」がわかめや海藻類、「や」が野菜、「さ」が魚、「し」がしいたけなどきのこ類、「い」がいも類、「ヨ」はヨーグルトなど乳製品だ。これらを3食に満遍なく取り入れるという。
「朝はジョージアから持ち帰った種で作る自家製のヨーグルトを食べます。これは俗にいうカスピ海ヨーグルトで、日本に紹介したのは私です。量は約200g。ここにきな粉を加えます。もちろんきな粉の原材料は大豆です。朝は一日の中で最も栄養を吸収するので、時には納豆やトマトなど、栄養価の高い食材を加えることもあります。昼は医師の妻が作ったお弁当が定番。先ほどの“まごわやさしいヨ”を中心に、作ってもらっています」
塩分過多が短命につながる
日本食は、日常的に良質な栄養を取り入れやすい半面、味つけに注意が必要だ。
「大豆や魚をたくさん食べている人は、塩分を摂りすぎているということも世界比較でわかりました。焼き魚に塩を振ったりしょうゆをかけ、豆腐や納豆も塩味を加えるなど、塩分過多の傾向があります。塩分の過剰摂取は、脳卒中や認知症、胃がんなど、さまざまな病気につながります。ロシアでは心臓疾患が死因のトップですが、それも塩辛いものを好んで食べるからです」
47都道府県で“短命県”といわれている青森県は、平均寿命が最も短い。1日あたりの平均食塩摂取量は10.5gと、厚生労働省の定める目標値の8gを上回っている。
せっかく体にいい食材を選んで食べても、塩分を取りすぎては、元も子もない。
「牛乳をたくさん飲むマサイ族は、調味料には食塩を一切使っていませんでした。高血圧がゼロだったのは、それも大きく影響しているでしょう。WHOは、1日の塩分摂取量を5gにするという目標を設定しています。これはなかなか厳しい目標値ですが、ここまで下げれば脳卒中リスクはかなり減ります」
とはいえ、塩辛さを感じない食事は味気ない。そこで家森さんは、取りすぎる塩分を相殺するような食べ方を提案する。
「1日に両手一杯分の野菜を食べるように意識してください。野菜にはカリウムが多く含まれますが、このカリウムは、塩分を体の外に排出する役割を果たします。蒸し料理にすると、味つけも濃くする必要がまったくありません。牛乳も摂取してほしい。牛乳に含まれるカルシウム、マグネシウム、カリウムは塩分の害を防ぎます。血管の細胞に塩分がたまると腫れ、血管を狭めて血液が流れにくくなって血圧が上がります。マグネシウムは、細胞の中にたまろうとする塩分をくみ出すポンプの働きを助けます」
塩分を控えた伝統的な和食は健康の源だったが、生活様式や食生活の変化で、かつてのような健康的な食事を毎食摂るのは困難といっていい。
家森さんの調査でも、かつては理想的な食事をしていた国や地域で舗装道路が完成し、外部から加工食品が運び込まれ、急な都市化で食生活が変わり、寿命が短くなった長寿村もあった。
「3食すべてを理想の食事にするのは難しい。私も夜は会食などで外食になることが多々あります。しかし、1日1食だけでも栄養に配慮した食事を心がけるだけで、確実に体は変わります」 “はじめの一食”から、健康長寿を延ばす一歩を踏み出したい。
家森さんの2週間分の献立を大公開
【朝食】
きな粉、マンゴー、ミニトマト、煮干し、カシューナッツ、アーモンド、カッテージチーズ、抹茶、とろろ昆布、干しぶどう、ごま。
毎朝、自家製のカスピ海ヨーグルトを。この日は11種の食材を加えた。カルシウムが豊富な煮干しの塩分は、ヨーグルトに含まれるカリウムにより排出。抹茶に含まれるビタミンCやカテキンはメラニン色素を抑制し老化を防ぐ。
【1日目】
さば、えび、小松菜、しめじ、キャベツ、もやし、蒸し大豆、がんもどき、昆布、こんにゃく、にんじん、白米と玄米ミックス、白ごま、じゃこの佃煮。
さばは脳の栄養となるDHAを多く含有。えびに含まれるタウリンはコレステロール値を下げ、肝機能の強化などの効果が。がんもどきや蒸し大豆からは良質なたんぱく質が摂取できる。
【2日目】
帆立、かき、とうもろこし、マッシュルーム、キャベツ、グリーンピースの蒸し煮、ごぼう、にんじん、大豆、豚肉の煮物、トマト入り卵焼き、白米と玄米のミックス、白ごま、ひじき。
【3日目】
かき、帆立、小松菜、キャベツ、しめじの蒸し料理チーズのせ、トマト、黒豆、にんじん、揚げ豆腐、長いもの煮物、白米、ひじき、白ごま。
【4日目】
えび、かき、赤色パプリカ、キャベツ、帆立、しめじ、まいたけ、小松菜の蒸し料理、豚肉、れんこんのハンバーグ、ズッキーニ、にんじん、黄色パプリカのオリーブオイル焼き、白米と玄米のごまミックス、昆布。
【5日目】
さば、大豆、キャベツ、しめじ、もやしの蒸し煮、鶏肉、にんじん、ごぼう、れんこんのきんぴら、白米と玄米のごまミックス(さば缶の汁かけ)、とろろ昆布。
【6日目】
いか、えび、ベビー帆立、しめじ、にんじん、ピーマン、キャベツ、もやし、しいたけの蒸し煮、あおさ、ごま、ちりめんじゃこの卵焼き、白米とそばの実ミックス、ひじき。
【7日目】
えび、かき、にんじん、しめじ、マッシュルーム、キャベツの蒸し煮、青ねぎ、とうもろこし、ごま入り豆腐ハンバーグ、トマト、ズッキーニ、白米、ひじき、白ごま。
【8日目】
あさり、えび、大豆、キャベツ、にんじん、ズッキーニの蒸し料理、アスパラガス、ごま入り卵焼き、五穀米のおにぎり、とろろ昆布、のり。
【9日目】
帆立、かき、鮭、キャベツ、しめじの蒸し煮、にんじん、玉ねぎ、じゃがいも、ごま入り卵焼き豆苗添え、トマト、五穀米入りご飯、昆布。
【10日目】
えび、ベビー帆立、あさり、大豆もやし、キャベツ、しめじ、ホワイトアスパラの蒸し煮、ズッキーニのオリーブオイル焼き、鴨肉の燻製、卵焼き、ブロッコリー、白米と玄米のミックス、白ごま、とろろ昆布。
【11日目】
豆3種、小えび、帆立、キャベツ、緑と黄色のズッキーニの蒸し煮、鶏肉、にんじん、玉ねぎ、ピーマン、カシューナッツ炒め、玄米、白ごま、あおさ。
【12日目】
えび、かき、帆立、しめじ、キャベツ、枝豆、白菜の蒸し煮、いわし缶、レッドトマト、グリーントマト、大豆、あおさ、白ごま入り卵焼き、白米、減塩梅干し。
【13日目】
ムール貝、帆立の貝柱、レタス、セロリの蒸し煮、にんじん、ごぼう、ごまのきんぴら、豆腐、ひじき、にんじん、ごま入り卵焼き、白米、小えび。
【14日目】
えび、鶏肉、しいたけ、にんじん、キャベツ、黒豆、アスパラガスの蒸し煮、ゆで卵、小松菜のごま和え、ぶり西京焼き、白米、小えび、とろろ昆布。
※女性セブン2019年7月25日号
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