医師が教える<睡眠習慣>の新常識「夢と眠りの質は関係がある」「夫婦が同じ寝室で寝るデメリット」
人生のおよそ3分の1を占めているといわれる睡眠。睡眠の質が低下すると、さまざまな病気のリスクが高まるため要注意だ。特に更年期を迎えた女性は、ホルモンバランスの乱れから不眠を感じる人も増えるという。加齢に伴う睡眠やメンタルのトラブルを回避する最新の健康常識を日本睡眠学会総合専門医の中村真樹さんに教えてもらった。
教えてくれた人
中村真樹さん/日本睡眠学会総合専門医。2017年、睡眠障害全般と不安・抑うつ状態などの治療を専門とする「青山・表参道睡眠ストレスクリニック」を、東京・表参道に開院。著書に『仕事が冴える「眠活法」:疲れを「リセット」する 脳を「活性化」する』(三笠書房)がある。https://omotesando-sleep.com/
女性は50代から不眠の悩みが増加する
「50代以降の女性は眠りの質が低下する傾向があります。
また、更年期以降は、睡眠時無呼吸症候群の発症が増えるといわれています。ホルモンバランスが関係していると考えられますが、顎が小さい人にもそのリスクが。仰向けのときに舌が落ち込んで、喉に通じる空気の通り道をふさいでしまうのです。
そのほか、加齢による『むずむず脚症候群』があります。主に夕方以降、眠くなるとふくらはぎあたりに虫が這うような不快感が出て寝つけず、動かすと楽になるのです。これによる不眠に悩むかたも多く、クリニックでは投薬で症状を抑える治療を行っています」(中村さん・以下同)
60才になったらやめるべき&続けるべき睡眠習慣とメンタルの新常識6選
【睡眠習慣の新常識1】寝言にも、ふつうの寝言と“怖い”寝言がある?
「寝言は、レム睡眠(浅い眠り)のときに見ている夢の中の出来事が口に出てしまうことが多いんです。
私たちの体は、レム睡眠が始まるのと同時に、脳のつけ根(脳幹部という部分)から全身の筋肉にブレーキ信号が出るようになっていますが、老化現象でその機能が落ちると、寝言とともに体も動いてしまうというのが『レム睡眠行動障害』。
声や動きが大きくて目立つため、患者数は男性が多いのですが、実際の性差はないとの見方も。嘘のような話ですが、ある男性が映画『海猿』を見た夜に自分が海難救助をする夢を見て、ベッドからダイブして大けがをしてしまったという事例も聞いています」
【睡眠習慣の新常識2】寝る前の“一杯”で深く眠れる?
「一見深い眠りに見えますが、麻酔で無理やり眠らされているような状態。さらに、アルコールが分解され始めてアセトアルデヒドという成分が出ると、眠りは浅く、不安定になってしまいます。『眠るために飲む』はNGです!」
【睡眠習慣の新常識3】楽しい夢を見ているときは眠りの質もいい?
「夢には『記憶の整理』機能があり、日中の経験や思考がデフォルメされて夢に出やすいといわれています。動物も夢を見るように、生命を脅かす記憶を留め、覚醒時にリスクを回避するために見ているという説も。
一般的にはネガティブな夢が多いようですが、楽しい夢を見る人は、楽天的な性格で、ストレスマネジメントがうまいので、結果的に眠りが安定しているのかもしれませんが、結論はなんともいえません」
【睡眠習慣の新常識4】成長ホルモンは22:00~翌3:00頃がピークって本当?
「誤りです。成長ホルモンは“安定した睡眠が取れる”状況なら何時であろうと入眠60~90分後から分泌が始まり、入眠2時間後あたりでピークを示したとの結果が報告されています(※1)。ただし、加齢によって成長ホルモンの総分泌量は低下していきます」
(※1)出典:「睡眠とホルモン分泌の関係に関する論文Van Cauter et al. SLEEP 21,553- 566, 1998」
【睡眠習慣の新常識5】夫婦が同じ寝室で寝るメリット、デメリットはある?
「以前、ひとりだと不安で眠りが浅くなり、物音がすると心配で目が覚めてしまうのが、単身赴任中の夫が帰ってくると安定して眠れる、という患者さんがいたように、安心感は睡眠に関係があります。ただ、ご主人のいびきや深夜の帰宅で眠りが分断されるようであれば、寝室を分けた方が、お互いの健康や感情を悪化させないためにはいいかもしれませんね」
【メンタルの新常識】「サザエさん症候群」になったら
「日曜の夕方頃になると『明日から仕事か』と気分が滅入るのは、少なからず誰にでもある感情です。健康な人なら翌日には気持ちが切り替わりますが、憂うつな気分が続き、動悸がして電車に乗れないなどの深刻な状況が長引くと、それは『適応障害』となり、うつに進行することも。思い切って休暇を取ってもいいと思います」
取材・文/佐藤有栄 イラスト/鈴木みゆき、しまだなな 写真/PIXTA
※女性セブン2024年6月6日号
https://josei7.com/
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