歯科治療最前線|血液を使って骨と歯肉を再生。美しい口元に
歯周病が進行すると歯の土台である骨が減少し、歯がぐらついたり、抜けたりする。現在は抜けた歯の治療としてインプラント治療が普及しつつあるが、骨が少ないために治療が受けられないケースも多い。
そこで患者自身の血液を使って骨を再生する新治療が開発された。この治療により、骨を増やすだけではなく、歯肉の厚みも再生することで、バランスのよい口元が蘇る。
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口腔全体の治療に重点が移ってきた
30歳代以上の日本人の約7割が歯周病だといわれている。治療を受けている患者は330万人以上(平成26年度厚生労働省調査)で、前回の調査より、約65万人も増加した。
歯周病は歯周病菌の感染によって歯肉や骨が壊れる病気で、進行すると歯肉の腫れや出血、歯肉退縮により歯根が見え、歯の土台の骨が減少するなどの症状が起こる。歯周病は最終的に歯が抜ける原因となる怖い病気だ。
従来の歯科治療は歯牙を削ったり、補綴(ほてつ)が主だった。現在は歯牙を支える歯肉や骨をいかに再生し、歯を含めた口腔内全体の治療を行なうかに重点が移っている。
慈皓会波多野歯科医院(さいたま市浦和区)の波多野尚樹院長に話を聞いた。
歯肉や骨の再生治療の現状
「歯科治療の最終的な目標は細菌と戦い、歯を含む口腔内を守ることです。虫歯や歯周病も口腔内細菌で、その感染が原因となり、歯を失います。細菌を除去するため、徹底的に歯磨きをすることが治療の第一歩ですが、不幸にも歯肉や骨が壊れ、歯が抜けることもあるので、それらを再生する治療法も開発されました。骨が少なくインプラント治療を受けられない方も、治療が可能となっています」
骨の再生はインプラント治療とともに研究が進んだ。ボーングラフトは下顎や腸骨などから骨を一部取り、移植する方法だ。メンブレンという歯科用の生体膜を使う方法も、1988年頃から始まっている。
これは骨を増やしたい場所の歯肉を切開し、そこに下顎などから取った自分の骨を小さく砕き、骨補填材を混ぜてメンブレンで覆うと約半年で骨が再生される。ただ、いずれも骨を採取するため、患者には負担がかかっていた。
「負担の少ない再生法はないかと思っていたところ、海外の論文を発見しました。上顎洞(頬のあたりにある、骨で囲まれた空洞)を覆う膜を一度開けたら、血液が充満したので、そのまま閉じてしまったが、半年後に骨ができた、というものでした。私も上顎の骨が少ないほうに、同じ方法を実施すると骨ができました。血液中の幹細胞により、骨再生が起こったと思われます。現在は上顎以外にも、骨が少ない場所の歯肉を切開し、そこに自分の血液を充填して歯肉をしっかりと縫い、密閉しておく方法で骨再生が可能になりました」(波多野院長)
人間の歯肉の厚みは平均2.7〜2.8ミリで、これ以上歯肉が薄くなると骨を吸収して厚みを保とうとする生体反応が起こる。つまり、骨の再生によって多少は歯肉の厚みも増す。それでも足りない場合は内頬の粘膜や上顎の口蓋から結合組織を採取し、歯肉が退縮した場所に移植すると歯肉が盛り上がってくる。
これらの処置で、歯と歯の間にパピーラ(歯間乳頭)と呼ばれる部分ができ、歯と歯肉のバランスの取れた美しい口元が完成する。
※週刊ポスト2019年4月26日号
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