猫が母になつきません 第387話「あとでわかる」
おむつです。前話、前々話のように入院中に同室になった方たちもおむつにはかなり抵抗されていました。母はどうだったか?最初の骨折の時に手術をして、その時に本格的なおむつをしたのが初めてで、それまで尿もれパッドは使用していたものの、初めての入院、初めての手術の流れでの初めてのおむつだったので、認知症の母からしたらすべてが混乱の中にあり、私も母の初めてのおむつについて深く考える余裕はありませんでした。でも後から考えるとそれは大変なことであり、結果的に母の命を縮めることになりました。
緊急入院して初めて母が「尿路感染症」にかかっていることがわかりました。「尿路感染症」は尿道から菌が入って内臓に炎症を引き起こす病気です。担当医によれば若くて元気な人ならそのくらいの菌で病気になることはないそう。しかし高齢者が立てなくなっておむつになると尿の上に座っているような状態で長く過ごすことになり、「尿路感染症」で救急搬送される例は多いとか。母にはリハビリを頑張ってもらって介助ありでトイレに行けるようになることを目指していましたが、それは少しずつがんばろうねというところでした。母は尿意をちゃんと伝えることはできていたし、つかまり立ちもできるようになっていましたが、施設では「おむつだから」とわざわざトイレを使わせてもらうことはあまりありませんでした。
母は尿道から入った菌が血液にまで入り込んで「菌血症」になり、その結果「敗血症性ショック」を起こしました。緊急搬送の前日の夜に発熱と嘔吐があり、病院で検査結果を待っている間には幻覚を見ているのか、母はくうを指差してくるくる動かしながら口をぱくぱくさせていました。検査したら体の炎症の値が大きすぎて先生が「間違いかもしれないから検査しなおしている」と言っていたほど。それらはすべて「敗血症性ショック」の典型的な症状でした。
人工関節には菌が蓄積しやすく、そこにコロニーを作って血流に菌をどんどん送り出す、ということも知りませんでした。そんな菌工場が母の体にはふたつもあったのに、脱臼の心配はしても菌の心配をしたことはありませんでした。
怪我がなくても高齢者でおむつを使う方は多いと思います。おむつの方が楽という話はよく聞きますし、実際そうだと思いますし、いいおむつもたくさんあります。でもリスクももっとよく知っておきたかった。あとからわかっても意味ないのです。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。