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「親が認知症かも?」病院を受診するための声かけ方法や対策を専門家が解説「認知症初期集中支援チームを活用する手も」

「高齢の親の認知症が気になるものの、本人が受診を拒んだり、言い出しにくいケースは意外と多いものです」と、社会福祉士の渋澤和世さんは語る。精神保健福祉士の資格も持ち、これまで認知症を抱える人のサポートも多く行ってきた渋澤さんに、「70代後半の母親が認知症かもしれないが、どうやって病院に行ってもらえばいいのか」と悩む50代女性のケースをもとに、受診のための誘導方法や注意すべきポイントを教えてもらった。

この記事を執筆した専門家

渋澤和世さん

在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)がある。

※記事中では実例をもとに一部設定を変更しています。

高齢の親が認知症かも?サインを見逃してしまうことも

 横浜市在住の山下花子さん(仮名)の実家は、隣接する藤沢市。現在は70代の両親の2人暮らしです。実家には頻繁に顔を出していますが、ある日、父親がこんな話をしてきました。

「最近、お母さんが『財布をどこに置いたかしら?』とか、もの忘れがでてきてね。料理を焦がすことも増えたし、もう年だなと」

 花子さんも、「まぁ、そういうこともあるよ。一時的なもので大丈夫だよ」と重大なこととは受け止めていませんでした。

 ある日、大阪に住む兄夫婦が来るというので、その日に合わせて花子さんも実家に顔を出しました。

 キッチンでお茶の準備をしていたとき、義姉から「お義母さん、同じことを何度も言うし、洋服も汚れていて、ちょっと気になる」と声をかけられたそうです。

 突然何を言うのだろうと驚いていたところ、続けて「失礼かもしれないけど、認知症のようにも感じるの。検査とか受けたことある?」と…。

 義姉は看護師で高齢者の病気についての知識は豊富です。父親も花子さんも、認知症についてよく知らないため初期症状のサインを見逃していたようです。

認知症を家族が早めに気がつくためにすべきこと

 認知症は完治が難しい病気ですが、早期発見し適切な治療を行うことで、進行を遅らせる、症状を改善させることもできるとされています。

 ただ年月をかけて少しずつ進行するため、見逃しているケースも多いようです。また、どんな初期症状がでるのかを家族が理解していないと気づきにくいものです。

「同じことを何度も言う、聞く」「置き忘れが増えいつも探し物をしている」「料理ができなくなってきた」「身だしなみを気にしなくなった」など、おかしいな?と感じることがあったら、認知症かどうか病院の受診を検討したいものです。

親が認知症かも?受診してもらうための対策

 認知症の診断は、精神科、脳神経内科、脳神経外科、老年科、もの忘れ外来など多くの科で行われていますが、家族に認知症の疑いがある場合、どのように病院に連れて行けば良いのでしょうか。

 認知症初期の段階では、本人はまだ人物や場所の判断ができるため、無理やり連れて行くと本人が受診を嫌がったり怒り出したりすることもあります。何よりも大切なのは「プライドを傷つけないこと」です。

 そこで、病院受診の誘導方法を性格ごとに見ていきましょう。

【1】他者の意見を受け入れることができる素直な性格の場合

・正直に、「このところ少し様子が変わったように思うから、一度病院に行ってみない?心配だから」と家族が気にかけていること、「いつまでも元気でいてほしいから」という言葉とともに、念のため専門家に診らもらうと安心することを伝えましょう。

・他の持病がある、頭痛やけだるさを訴えているようなら、それをきっかけに「安心だから頭の検査もしておこうか」と伝えて受診を促すのも良いでしょう。

費用の目安:MRI検査と問診で7000円~12000円前後が費用の目安(3割負担の場合)となります。

【2】プライドが高く頑固なタイプの場合

・健康チェックと称して、脳ドックを予約してしまうのも手段のひとつ。脳の萎縮を診ることである程度の診断ができます。あくまでも「予防のため」と伝えましょう。

・かかりつけ医がいる場合、協力をお願いし専門医の紹介状を書いてもらう。もしくは、かかりつけ医自身がMRIやCTなどの脳の画像検査が可能な場合は、ついでに脳のチェックもしておきましょうかと検査に加えてもらうのも良いかもしれません。

費用の目安:脳ドックの費用はおよそ2〜5万円となります。

【3】どうしても病院に行くことを拒否する場合

・認知症初期集中支援チーム※を活用する方法もあります。この制度は2015年から厚生労働省がはじめた取り組みです。

 認知症の知識をもつ専門職が、認知症が疑われる人を訪問して専門医療機関の受診、認知症の状態に応じた助言などもしてくれます。

 全国すべての市区町村にはまだ普及はしていないので、希望がある場合は、親の住む市区町村の役所か地域包括支援センターに電話で問い合わせをしてみましょう。

 もし集中支援チームがなかったとしても、相談先を紹介してくれます。家族の忠告は聞かないけど、医療系の専門家の話はきくことはよくあります。

費用の目安:認知症初期集中支援チーム活動にかかる相談や支援費用は無料です。

参考/厚生労働省「認知症初期集中支援チーム」
https://www.mhlw.go.jp/content/001061147.pdf

受診の際の注意点とポイント

 最後に、病院を受診する際の注意点をご紹介します。

日常の様子を記載したメモを持参する

・いつ頃からどんな症状が出たか

・現在の症状で困っていること

・これまでにかかった病気

・現在治療を受けている病気

・現在処方されている薬

 認知症の診断は、検査結果に加え、本人の日常の様子などの情報も必要となります。普段の状態をメモにまとめ医師に伝えてください。

 覚えているから大丈夫と思っていても、忘れたりうまく伝えられなかったりすることは珍しくありません。わかりやすい言葉でまとめておきましょう。

受診の際は家族も同行すること

 認知症と診断されると、本人はショックで医師の言葉が頭に入らないことがあります。絶望感から、生きる意欲をなくす恐れもあります。

 逆に家族は認知症と診断された場合も慌てないように、心の準備をしておくことが重要です。

 しっかりと医師と相談し適切な措置を講じていけば、進行を遅らせることも可能です。結果の確認と今後の対応のためにも同行をお願いします。

 認知症は完治が難しい病気ですが、早めに医療機関を受診することで進行を遅らせることができます。また、軽度認知障害(MCI)の状態であれば改善が見込めます。

 ぜひ本記事を参考に”認知症の初期症状のサインに気づいたら受診する”ことを気に留めておいてください。

●「階段での転倒がきっかけで施設介護に…」エレベーターがない2階以上の暮らに潜む危険と高齢者が備えるべき対策

●MCI(軽度認知障害)って?認知症予備軍の早期発見チェックリスト

●認知症を引き起こす<アカン習慣13選>「日常生活の改善で発症リスクは約4割も下げられる」【医師解説】

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