兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第235回 在宅介護の醍醐味】
若年性認知症の兄の特別養護老人ホーム入所は未遂に終わり、これまでの日常が戻ってきたツガエ家です。兄をサポートする妹のツガエマナミコさんは、もうしばらく在宅介護をする覚悟を決めたものの、排泄のトラブルは変わらぬまま。加えて新たなな悩みも発生の兆し。かつて食事することを忘れてしまい食欲がなくなった兄に、別の変化が起きているようです。
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食欲不振から一転、よく食べるようになったものの…
先日テレビで「“風邪予防にはビタミンC”はもう古い。実際はビタミンCを摂っても風邪の予防効果はそれほどない」と流れているのを聞き、まさに風邪予防のためにと箱で買い込んだミカンを眺めてガッカリしたツガエでございます。
ほかにも、我々世代が学校で学んだことが、今や変化していることを知り、60年も生きてくると、間違っていることをいっぱい頭に詰め込んでいるのだな、としみじみ感じ入りました。でも次の世代ではまた逆転して“やっぱり風邪予防にはビタミンC”となるかもしれないですもの。実際、20年以上風邪で寝込んだことのないわたくし。それはビタミンCのおかげだと思い続けていきます。
さて、兄は相変わらず穏やかで、毎日テレビの前に座ってコックリコックリしております。
最近気になるのは、認知症にありがちな”際限ない食欲”の序章でございます。昨年の春夏の食欲不振から一転、よく食べてくれるようになったのはいいことなのですが、近頃やたらとキッチンにやって来て、わたくしの様子を見ているのでございます。まるで食事を催促するかのように…。
「狭いし、危ないから入ってこないでよ」と言っても何度もやって来ては、隣に並ぶ勢いで近づいてまいります。たぶん、キッチンのどこかにパンやお菓子があると思っているのでございましょう。
わたくしが部屋で仕事をしていると、キッチンでガサゴソと物色している音が聞こえます。置きっぱなしの即席ラーメンの袋の中身を出して散らかしていたり、流しの隅に置いたミカンの皮やリンゴの皮を食べている場面も目撃いたしました。
もちろん、3食提供しております。おやつも毎日お出ししておりますし、物足りなさそうなときは、わたくしの分も差し出しております。ああ、それなのに、きっとすぐに食べたことを忘れてしまうのでしょうね。おかげさまで、表に出していたものは見えないところに片付けるようになり、みるみるキッチンがすっきりしてまいりました。
朝の尿漏れは、毎日のルーチンになり「これが我が家の朝だな」と腹をくくるようになりました。入所させることばかり考えておりましたが、読者の方に、「預けっぱなしにするよりも、たまにショートステイなどに預けることでありがたみを味わえる…」と、在宅介護の醍醐味を教えていただきました。その通りでございます。人のありがたさを忘れないためにも、もう少し在宅でいきたいと思います。
ただ、部屋でのお尿さま攻撃もなくなりませんし、排泄問題には泣かされ続けております。デイケアの連絡ノートに「尿漏れ困ってます」と書いたところ、大きさの違う尿取りパッドのサンプルを2種類いただき、それでもダメなら…と紙おむつ(パンツタイプではなくテープ止めるタイプ)のサンプルもいただきました。
紙おむつは、寝たきりの母の介護でさんざん取り換えてきましたから、やり方はわかりますが、兄にそれをすると考えるだけで心が萎えます。自分でテープを剥がしてしまうかもしれませんし、まだ自立歩行できるので、さすがに紙おむつには早すぎます。
結局、尿漏れには目をつぶり、毎日シーツからシャツまでがっつりお洗濯するのを「これが我が家の朝」と自分に言い聞かせるほかございません。
ただ、元旦に起こった被災地をテレビで観るにつけ、大震災がここで起きたら、いったい兄をどうしたらいいのか、と不安な気持ちになります。マンションで雨露がしのげるならいいですが、避難所での集団生活はとても無理。被災地の認知症とその家族の方々はどうなさっているのでございましょう。高齢者施設の職員の方々も全員被災者という中で、事態が飲み込めない認知症患者の介護をすることの精神的な厳しさはいかばかりか…。
大地震はここにもきっと来るでしょうけれど、それまでは、やはり、ツガエ兄の介護程度で音を上げてはいけないと決意を新たにいたしました。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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