86才の現役料理研究家<若杉ばあちゃん>に学ぶ食養術「食べ合わせで体を軽くする毒消し食材」
寿命が延びれば延びるほど、どんどん病気は増えていくばかり。加齢とともに体は衰えるのだから仕方がないと思うかもしれないが、そんなことはない。健康ブームのいまこそ知っておきたい“本当の食養術”を提案する86才の料理研究家・若杉友子さんが医者いらずの食養メソッドを教えてくれました。「食は命、命は食にあり」という考えに基づいた「食養」にこそ健康寿命を“長寿化”させるヒントがあった。
教えてくれた人
料理研究家 若杉友子さん
1937年大分県生まれ。陰陽の考え方に基づいた野草料理と、日本の気候風土に根ざした知恵を伝え続ける。『若杉友子の毒消し料理』『若杉ばあちゃんの伝えたい食養料理』『若杉ばあちゃんのよもぎの力』など著書多数。
86才の料理研究家・若杉ばあちゃんの「養生術」
終戦から10年が経った1955年、日本人の寿命は男性が63才、女性が67才だった。厚生労働省の推計によれば2040年には、男性が83才、女性はなんと89才になるという。
いまや人生120年時代ともいわれるなか、「健康寿命を延ばす」ことは一大テーマとなり、病気にならないための食事術や生活習慣が注目されている。
そんな“ブーム”に警鐘を鳴らすのは86才の料理研究家、若杉友子さん。大きな笑顔で自らを“ばあちゃん”と呼ぶ若杉さんは86才になってなお、講演活動で全国を駆け回るばかりか、老眼鏡もかけずに新聞をすみずみまで読み、米も野菜も自ら作る自給自足の生活を送っている。
「ばあちゃんは病気で寝込んだこともないし、風邪をひいてもお医者さんにはかからずに自然の薬草や食べ物で手当てする。毎日、快眠、快食、快便で元気に暮らしていますよ」(若杉さん・以下)
【ばあちゃんメソッド1】食べすぎが病気をつくる
みなぎるパワーの源は「食」にある。結婚し家族と移り住んだ静岡で川の汚れを減らす石けん活動などに取り組んでいたとき、出会ったのが「食養」だった。
「まさに目からうろこ、人生が変わる出会いでした。当時は高度経済成長期でバブルの絶頂。金も物も目まぐるしく行き交うなかで、“もはや戦後ではない、日本も経済大国の仲間入りをした、日本人はどんどん豊かになっている”といわれていたけど、一方で、公害問題や環境破壊などがどんどん進んだ。
1980年代には大人も子供も病気になる人が一気に増えて、一億総病人時代なんていわれるほどになってしまった。穀物菜食を中心とする食養と、日本の伝統的な食事方法を学び、実践することで自分の体や心に大きな変化がありました」
40年以上にわたって食養を学び、実践してきた若杉ばあちゃんは、美食や飽食の時代といわれる現代で「食べすぎ、飲みすぎこそが病気をつくる」と指摘する。
「いまの時代は季節に関係なく、野菜や果物はフリーシーズン。盆と正月、みそもクソも一緒。イタリア料理やらフランス料理やら世界中の食事をいただくことができます。和洋折衷のたくさんのおかずを食卓に並べるのも一般的になりました。
そんな、季節もお国柄も“ごちゃまぜ”の食生活や栄養過多が体に“毒”をため込んで体を悪くしていることに気づいていない人がとても多い。そもそも欧米の食べ物は、日本人の体に合わないの。体に毒素をためるのはなんといっても肉や卵、牛乳、魚のような動物性食品。
日本人の腸は長く、肉は消化に時間がかかるので腸内で腐敗し毒になる。それによって便秘など体の不調や、ひいてはがんなどの病を引き起こすんです。癌という字は、やまいだれに品物の山と書く。食べすぎということだよ」
【ばあちゃんメソッド2】日本人は“たんぱく病”を患っている
明治時代の文明開化以降、日本人の食生活は大きく変化し、和食はいまや文化遺産として“守らなければいけない”ほど儚(はかな)い存在となった。そうした食文化の変遷が私たちの体に与える影響は小さくない。
「戦後の日本人はアメリカによって“栄養不足”とされ、たんぱく質や脂質をしっかり摂るような指導がなされました。食事のスタイルはどんどん欧米型になり、現代人で卵を食べていない人はまずいません。卵はコレステロールの王様で、体内に脂肪を蓄積し肉同様の毒素を発生させ、心筋梗塞や動脈硬化、神経痛やリウマチなどあらゆる病の原因になる。肉ほどではありませんが、魚にもたんぱく質や脂肪は多く含まれ、腎臓や膀胱(ぼうこう)、前立腺や子宮の病気のリスクとなります」
いま、筋肉や骨をつくるたんぱく質は健康長寿に欠かせない栄養素として、積極的な摂取が推奨されている。肉や魚、卵や乳製品はその代表格だが、これらの過剰な摂取が病をつくり、薬に頼らざるをえない体にしているという。
「たんぱく質過多になると、体はそれらを分解しようとして果物や生野菜、清涼飲料水やアルコール、砂糖を欲しがるようになる。でもね、生野菜は体を冷やすし、果物や砂糖に含まれる糖分は、血液を汚し、細胞を破壊して万病のもとになるの。一度の食事で和食の基本は一汁三菜となんていわれているけれど、昔の日本人は一汁一菜だった。冬は玄米か三分づきで夏は麦飯などの穀物を主食にし、火を通した野菜と汁物だけで栄養は充分摂れます」
86才のいまも、自分の歯で玄米もしっかり咀嚼(そしゃく)している若杉ばあちゃん。歯の本数にも食事の割合のヒントがある。
「人間の歯は全部で32本。そのうち、穀物や小麦、雑穀を噛む臼歯(きゅうし)は20本、葉類を噛む門歯は8本、肉を噛む犬歯は4本あります。つまり、主食:おかず:肉や魚(動物性たんぱく質)は5:2:1の割合でとるのがちょうどいいの。一汁三菜は、食べすぎってことがよくわかるでしょう」