小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第231回 兄の受入れOKの神対応施設】

 若年性認知症の兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさんによる連載エッセイ。兄の特別養護老人ホームへの入所がNGとなり傷心のマナミコさん。ケアマネジャーに相談するも、排泄にトラブルを抱える兄を受け入れる施設は見つかりそうもなく途方に暮れています。先日、突然の体調不良で救急搬送されたマナミコさんの疲労はピークに達しているのです。

 * * *

兄にSSしてもらいました

 労働者に休暇が必須なように、介護者にも休暇が必須でございます。最近の言葉では、それを「レスパイトケア」とオシャレな言葉で表現するようでございます。

 特別養護老人ホームへの入所が叶わなかったことで、心に痛手を負ったわたくしは、さっそくレスパイトケアのためのSSをケアマネさまに申し込んだツガエでございます。あ…、SSは、ショートステイのツガエ語でございます。

→レスパイトケアについて詳しく読む

 特養は「排泄コントロールができない人はダメ」という塩対応でしたが、SSは「受け入れOK」の神対応。わたくしにとってはまさに救いの神。神スタッフさまにはご迷惑をおかけしますが、わたくしの精神と肉体維持のため、これからはSSを多用していこうと思っております。

 22年の秋に人生初のSSを1泊2日で経験して、約1年後の前回は特養ショートステイにお試し3泊4日。そして3回目となる今回は、初回利用したSS専門施設で4泊5日利用させていただきました。

 兄のいない家の平和なことといったらありません。いつ何時家の中を歩いても、どこにもお尿さまやお便さまが存在しないのですから、こんなに安心なことはございません。ふいにお便さまの匂いがして「どこに落ちてるんだろう?」と探したり、思いがけずお尿さまの水たまりに出くわしてムカッとしたりが一切ない暮らしは天国でございます。

 いやはや、介護とは、そんなあたりまえの平和がない暮らし。今回のSSでつくづく「これが普通の暮らしなんだよなぁ」と思い、兄との暮らしの特殊さを実感いたしました。

 今回は特に誰と遊びに行くでもなく、原稿を書いたり、掃除をしたり、買い物をしに隣町まで足を延ばしたりいたしました。久々に行った家具・インテリア用品店で時間を気にせず長居できたことも幸せでございました。でもそこで購入したのが、結局、兄のための防水シーツだったのはもの悲しいのですが……。

 そして本日、お昼前に4日ぶりのご帰宅でございました。

 介護者としてはお休みをいただいたので、少しは兄に優しくできるはずでした。そして、しばらくは我ながら本当に辛抱強く穏やかに接することができていたのです。でも、夜10時半になって、ついに兄がトイレの便座の蓋をしたままお尿さまをしてしまいました。ちゃんと上げておいたのに、わざわざ閉めてからしたのです。床に流れたお尿さまを吸ったビショビショの靴下で廊下を歩いている兄を見たわたくしのやり場のない怒りをお察しください。堪忍袋の緒がテンションMAXまで引っ張られました。それでもこらえて「靴下がビショビショだからお風呂場で足洗っちゃおう」と明るく申し上げたのです。でもなかなか納得してくれない兄。しまいに面倒くさそうな顔をして「ったく、バカバカしい」とつぶやいたのを聞いて、わたくしブッチ切れてしまいました。

 施設ではどうだったかと申しますと、報告書によれば、かなり頻繁にトイレ誘導をしていただいたようです。でも尿失禁1回、便失禁も1回あったとのこと。そして夜間よく眠っていたのは4泊のうち1泊だけで、基本的に夜はあまりよく眠れていないことが明らかになりました。家では、夜間の兄に大きな問題はないと思っておりましたが、やはり睡眠導入剤は必要なのかもしれないと思った次第でございます。

 料金はなんと4泊5日で約1万円! もちろん1日3食、入浴1回付きでございます。「え? え? 安すぎません?」と請求書を拝見した瞬間に目を疑いました。というのも、人生初のSSは1泊2日で約6600円だったのです。

 同じ施設なのにこんなに違うのは、たぶん介護保険負担限度額認定書「第2段階」を取得したおかげ。世帯分離の賜物でございましょう。しかも紙パンツ代もバスタオルのレンタル料もなく、前日のお洋服以外はお洗濯までしてきれいにたたまれて鞄に入っていました。

 こんなにお安いなら毎週でも4泊5日してほしい。そんな自分勝手なことを考えてしまいました。せめて1か月に1度、あわよくば隔週で4泊5日の介護休暇が取れれば、どんなにレスパイトケアになるだろうかと心躍った今宵でございます。

◀前の話を読む 次の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●ショートステイを賢く利用するコツ<1>~プロが教える在宅介護のヒント~

●ショートステイを賢く利用するコツ<2>~プロが教える在宅介護のヒント~

●ケアマネ歴20年のベテランが教える介護が始まる前に知っておきたいこと|要介護認定手続き、サービス、費用…基本のき

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • あこ

    SS4泊5日1万円、良かったですね~(^^♪ レスパイトは本当に大切です 介護者に心の余裕がなければ自宅介護は成り立たないと思っています。入所が無理なら可能な限りSSを利用されることをお勧めします。限度額上限まで利用して月に数日の自宅介護で良いのではないでしょうか? お尿様もお便さまも「まあ仕方がないか~」と思えるのも『あと数日したら一人の生活が送れる』という心のゆとりがあればこそ。 私は夫の「かわいい」と思える部分と暮らしていたいとまだ思っているので、1か月をデイとショートと自宅と振り分けて逆に変化に富んだ生活を楽しんでいます。 完全入所にしてしまうと夫不在の生活に慣れてしまう寂しさがあるのと、自宅に居るとデイに行くだけであり居がたいと思えるし、ショートで連泊するともっとありがたいと思えて、そのありがたさを感じるのは毎日ではないからなのだと思うのです。 マナミコさんのお心が少しでも軽くなるように進んでいくと良いですね。

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護中のニオイ悩み 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。