兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第231回 兄の受入れOKの神対応施設】
若年性認知症の兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさんによる連載エッセイ。兄の特別養護老人ホームへの入所がNGとなり傷心のマナミコさん。ケアマネジャーに相談するも、排泄にトラブルを抱える兄を受け入れる施設は見つかりそうもなく途方に暮れています。先日、突然の体調不良で救急搬送されたマナミコさんの疲労はピークに達しているのです。
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兄にSSしてもらいました
労働者に休暇が必須なように、介護者にも休暇が必須でございます。最近の言葉では、それを「レスパイトケア」とオシャレな言葉で表現するようでございます。
特別養護老人ホームへの入所が叶わなかったことで、心に痛手を負ったわたくしは、さっそくレスパイトケアのためのSSをケアマネさまに申し込んだツガエでございます。あ…、SSは、ショートステイのツガエ語でございます。
特養は「排泄コントロールができない人はダメ」という塩対応でしたが、SSは「受け入れOK」の神対応。わたくしにとってはまさに救いの神。神スタッフさまにはご迷惑をおかけしますが、わたくしの精神と肉体維持のため、これからはSSを多用していこうと思っております。
22年の秋に人生初のSSを1泊2日で経験して、約1年後の前回は特養ショートステイにお試し3泊4日。そして3回目となる今回は、初回利用したSS専門施設で4泊5日利用させていただきました。
兄のいない家の平和なことといったらありません。いつ何時家の中を歩いても、どこにもお尿さまやお便さまが存在しないのですから、こんなに安心なことはございません。ふいにお便さまの匂いがして「どこに落ちてるんだろう?」と探したり、思いがけずお尿さまの水たまりに出くわしてムカッとしたりが一切ない暮らしは天国でございます。
いやはや、介護とは、そんなあたりまえの平和がない暮らし。今回のSSでつくづく「これが普通の暮らしなんだよなぁ」と思い、兄との暮らしの特殊さを実感いたしました。
今回は特に誰と遊びに行くでもなく、原稿を書いたり、掃除をしたり、買い物をしに隣町まで足を延ばしたりいたしました。久々に行った家具・インテリア用品店で時間を気にせず長居できたことも幸せでございました。でもそこで購入したのが、結局、兄のための防水シーツだったのはもの悲しいのですが……。
そして本日、お昼前に4日ぶりのご帰宅でございました。
介護者としてはお休みをいただいたので、少しは兄に優しくできるはずでした。そして、しばらくは我ながら本当に辛抱強く穏やかに接することができていたのです。でも、夜10時半になって、ついに兄がトイレの便座の蓋をしたままお尿さまをしてしまいました。ちゃんと上げておいたのに、わざわざ閉めてからしたのです。床に流れたお尿さまを吸ったビショビショの靴下で廊下を歩いている兄を見たわたくしのやり場のない怒りをお察しください。堪忍袋の緒がテンションMAXまで引っ張られました。それでもこらえて「靴下がビショビショだからお風呂場で足洗っちゃおう」と明るく申し上げたのです。でもなかなか納得してくれない兄。しまいに面倒くさそうな顔をして「ったく、バカバカしい」とつぶやいたのを聞いて、わたくしブッチ切れてしまいました。
施設ではどうだったかと申しますと、報告書によれば、かなり頻繁にトイレ誘導をしていただいたようです。でも尿失禁1回、便失禁も1回あったとのこと。そして夜間よく眠っていたのは4泊のうち1泊だけで、基本的に夜はあまりよく眠れていないことが明らかになりました。家では、夜間の兄に大きな問題はないと思っておりましたが、やはり睡眠導入剤は必要なのかもしれないと思った次第でございます。
料金はなんと4泊5日で約1万円! もちろん1日3食、入浴1回付きでございます。「え? え? 安すぎません?」と請求書を拝見した瞬間に目を疑いました。というのも、人生初のSSは1泊2日で約6600円だったのです。
同じ施設なのにこんなに違うのは、たぶん介護保険負担限度額認定書「第2段階」を取得したおかげ。世帯分離の賜物でございましょう。しかも紙パンツ代もバスタオルのレンタル料もなく、前日のお洋服以外はお洗濯までしてきれいにたたまれて鞄に入っていました。
こんなにお安いなら毎週でも4泊5日してほしい。そんな自分勝手なことを考えてしまいました。せめて1か月に1度、あわよくば隔週で4泊5日の介護休暇が取れれば、どんなにレスパイトケアになるだろうかと心躍った今宵でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性60才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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