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健康

「90代女性、高血圧の薬を3種類やめて元気に」脱薬の成功実例と8つの注意ポイントを医師が解説

 ポリファーマシー(多剤併用)が社会問題になって久しい。年々のむ薬が増えていく人は少なくなく、75才以上では4割超の人が5種類以上の薬の処方を受けており、7種類以上という人も25%いる。薬は多くの人の命を救ってくれる一方で、“毒”として体を蝕むことも――。脱薬に成功した実例をもとに、薬の上手な減らし方を専門医が解説す。

教えてくれた人

大橋博樹さん/多摩ファミリークリニック院長
松田史彦さん/松田医院和漢堂院長
森田洋之さん/医師。南日本ヘルスリサーチラボ代表
坂東正章さん/坂東ハートクリニック院長

ダブっていた薬を減らした80代女性

 同じ効能の薬が複数処方されていないか確認することも脱薬への大きな一歩となる。多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹さんが解説する。

「例えば内科で胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬が出ているのに、整形外科でも痛み止めと一緒に粘膜保護剤として胃薬が出ていることなどはよくあります」

 松田さんは特にプロトンポンプ阻害薬の長期服用の弊害に警鐘を鳴らす。実際に日本初の「薬やめる科」を設ける松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが診た80代女性のケースはこうだ。

「女性は終日ぐったりしており、記憶もあいまいで認知症だと思われていました。しかし私は薬に原因があると思い、コレステロールや血圧など8種類の薬を少しずつ半分以下に減らし、最後にプロトンポンプ阻害薬をやめました。

 すると来院するたびに顔色がよく、頭もはっきりするようになり、最後には家事ができるまでに回復したのです。数ある薬の中でもプロトンポンプ阻害薬に大きな原因があったとみています。この薬は認知症のような状態を引き起こしやすいのです」

“不治の病”ともいわれる認知症が、薬の副作用で起きているとは驚かされる。

気管支喘息の薬を減らした98才女性

 プロトンポンプ阻害薬に加えて大橋さんが脱薬をすすめるのは気管支喘息の薬だ。

「気管支喘息の薬は複数の成分が入った合剤(ごうざい)が多い。副作用のおそれもあるため、症状が安定しているなら脱薬を検討すべきです」

 南日本ヘルスリサーチラボ代表で医師の森田洋之さんが実際にあった98才の女性の事例を明かす。

「普段は元気なのですが、月に1度ほど喘息のような症状が出るため、喘息の薬を予防的に1日2錠のんでいた。ただその症状というのは呼吸音がヒューヒューと鳴るくらい。本人はまったく平気な様子で生活も変わらず3日で治まる。

 周囲は心配しますが、まったく苦しくないのに動悸や脈が速くなるなどの副作用がある薬をのむ意義はないと考え、減薬しました。その結果、100才を超えていまなお喘息の症状に悩まされることなく元気に暮らしています」

高血圧の薬が3種類も処方されていた90代女性

 高血圧の人が処方される降圧剤も多くの人が複数服用しているが、こちらも脱薬の対象になる。

「他院からの紹介で “老衰でご飯も食べられず、家族は自宅での看取りを希望している”という、90代の女性を担当しました。非常に血圧が低く、調べると降圧剤が3つも処方されていた。

 週に1つずつ様子を見ながら減らしていったところ薬の量に反比例するようにして意識がはっきりし、みるみる元気になっていった。いまでもその女性はもりもりご飯を食べて元気に過ごしています。血圧を下げすぎて体の活動が鈍くなってしまっていた例です」(森田さん)

 そもそも血圧の測り方に問題があると指摘するのは、坂東ハートクリニック院長の坂東正章さんだ。

「測定方法が間違っているせいで、必要ない量の薬を処方されている患者がけっこう多い。病院で測定すると環境の変化や緊張から血圧値が高く出るうえ、多くの病院で使われている挿入式血圧計は、通常の上腕式血圧計と比べると高い値が出る。また、血圧は寒い季節に上がりやすいため、夏は降圧剤の量を調整しないと下がりすぎてしまいます」

向精神薬ほか9種類をやめられた67才女性

 持病の治療薬だと明らかにわかっているものならばのむ理由がある。しかし、そうでない薬を服用し続ける人も少なくないと大橋さんは話す。

「患者さんに薬を見あらせてもらい“何の薬ですか”と聞いて説明できないものは、やめても問題ないことが多い。手指など末梢のしびれに対して処方されるビタミンB12系統の『メコバラミン』を本人が何の薬かわからないまま漫然とのんでいたケースもありましたが、やめても何の問題もありませんでした」

“やめどき”を見計らうことで脱薬が叶うケースもある。

「花粉症の薬がその好例です。シーズンが終わった後も症状が出るのを嫌ってのみ続ける人がいますが、副作用が気がかりです。実際、漫然とした鼻炎薬の服用をきっぱりやめたことで眠気がおさまるなど、以前から気にしていた症状がなくなった人もいます」(大橋さん)

 減らしにくいとされる精神科の薬もやり方によっては脱薬することが可能だ。森田さんが話す。

「精神病院に入院していた患者さんで向精神薬を5種類、血圧やけいれんの薬なども含めて全部で9種類の薬をのんでいた67才の女性がいました。

 薬の副作用でけいれんを起こし続け起き上がれないうえ、ほとんどしゃべれず、意識も朦朧としていた。見かねたご家族から相談を受け、薬を1つずつ、1週間おきに減らしました。

 向精神薬は急にやめると悪性症候群が出やすいので、経過観察しながら行わないと危険ですが、結果的に9種類の薬を全部やめることができました。いまではまったく普通に食事をして、歩いている。先日は一緒にうなぎを食べに行きましたよ」

減薬・脱薬の注意ポイント「自己判断は禁物」

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