9人に1人が罹患する乳がん、体と心の変化はどうなる?専門家が解説|今話題 !がん患者の悩みをサポートする「マギーズ東京」をレポート
9人に1人は乳がんになると言われている時代、予防法はいろいろな所で目にするが、発症したら体はどんな変化が起こるのか、心の中はどう変わるのかということはあまり知られていない。そこで、今までたくさんの患者を見てきた乳がん看護認定看護師の高橋由美子さん、公認心理士の藤間勝子さんに、詳しい話を伺った。がん患者を支える場所として注目されている「マギーズ東京」と合わせてご紹介する。
教えてくれた人
■高橋由美子さん / 乳がん看護認定看護師
国立がん研究センター中央病院副看護師長。
■藤間勝子さん / 公認心理師
臨床心理士。国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センター センター長。
がん患者として見られるつらさ 脱毛 むくみ など見た目の変化で気落ちも
乳がんになった場合、治療が始まる以外でどのようなことが起こるのだろうか―
「乳がんは、治療の過程で乳房の切除をはじめ、脱毛、肌や爪の変化、体形が変わるほどの浮腫(ふしゅ・むくみ)などを経験します。つまり、ボディーイメージが大きく変わる。それが一目でわかってしまう点が、女性にとって大きな問題であり、この点がほかのがんと乳がんとの違いです。
術後むくみが出ると、いままで着ていた服が着づらくなることがあります。鏡を見るたび、自分は乳がんなんだという現実を突きつけられ、気落ちするかたは大勢います」
とは、乳がん看護認定看護師の高橋由美子さんだ。
「弱者扱いされることがつらい」
罹患年齢のピークは働き盛りや子育て中の40〜60代で、社会に出ていく機会が多い世代だ。体の変化は、自分自身の気持ちを下げるだけでなく、周りの人にも気づかれてしまうのではという不安感も与えるという。そのせいで、他人とのかかわりを避けたり、外出を控えたりと、いままで通りの生活が送りにくくなる。
「大きなボディーイメージの変化として、乳房がなくなることがありますが、これは服や下着で隠せますから、実はそれほど悩む人は多くありません。患者さんをいちばん苦しめるのは、抗がん剤やホルモン治療による脱毛。隠しようがないうえ、一目で“がん患者だ”とわかりますから。この変化のせいで急に弱者扱いされることがつらいと感じる人が多いようです」(公認心理士・藤間勝子さん)
医学が進歩したおかげで、乳がん治療では、入院期間も短くなり、治療しながら日常生活を送れるケースが増えた。
つまり、治療中、病院内に隔離されているわけではなくなったのだ。そのため、見た目の変化が社会にさらされる。なるべく隠したいと思うのはよくわかる。しかし隠すことに縛られるとよりつらくなると藤間さんは言う。
不自由な闘病生活は考え方で変えられる
抗がん剤治療などで髪が抜けた患者からはまず、ウィッグの相談をされることが多いと、藤間さんは言う。
「こういった相談をされたら私はまず、素敵な帽子を買うようにすすめるんです。もちろん、脱毛を隠すにはウィッグでもいいのですが、帽子から探す方が気が楽です。医療用やケア用などと称した特別な製品を使う必要はないので、ご自分に似合う帽子を選んでください。
ウィッグも、途中で買い替えればいいやくらいの気持ちで手軽な価格のものから試すといいでしょう。気軽に選べばいいことに気づくと、パッと顔に明るさが戻ります。がんが行動を縛るのではなく、自分の考えが束縛していたと気づけると、闘病生活がだいぶ楽になります」
髪の毛が抜けると帽子の中に散らばって大変だといわれれば、ストッキングタイプの排水口ネットをかぶればいいといった、実用的なアドバイスもするという。
以前と同じとはいかないまでも、工夫次第で、できることは増える。そのことに気づけるかどうかが重要なのだ。
→腫瘍内科医が伝えたい、がんになっても「幸せな人生」を歩むために大切なこと
病院にも行政にもできない新たなサポートの形「マギーズ東京」
イギリスには以前から、医療スタッフが、がん患者などの苦悩や困難を友のように共有し、乗り越えるための方法を一緒に考える施設があった。それを日本へ―そう考えて立ち上がった女性たちがいた。
「乳がんを宣告され、頭が真っ白になった」。実際に乳がんを患った方の言葉だ。
がんはいまだ死に至る病との印象が強い。発症がわかれば、たいていの人は冷静でいられない。しかし治療はノンストップで進んでいく。決めなければならないことがたくさんあるのに、頭が整理できない…。そんなときに、無料で相談に乗ってくれるNPO法人がある。それが、「マギーズ東京」だ。
「ここでゆっくり過ごしてもらったり、治療のことはもちろん、がんに関するあらゆる悩みを聞いて、サポート先を探すお手伝いをしています」
とは、センター長の秋山正子さん(73才)だ。
スタッフは全員、がんに詳しい看護師や心理士だ。こういった相談窓口は、病院や行政にもあるかもしれないが、病院での相談は時間が限られるし治療に関することに偏りがちだ。
一方、行政にはがんの専門家が少ないため、より希望に近い答えが見つけづらい。混乱する頭でまず何をすべきか迷ったとき、さまざまな悩みを気軽に吐き出せる場所が必要だと思い、2015年にこの団体を立ち上げたと秋山さんは言う。
病気の不安の中にあって、ひとりではないと思える。そんな場所があると覚えておきたい。
グループプログラムを無料で開催
治療中のメイク講座やウィッグの選び方など、さまざまなグループプログラムも無料で開催(オンライン講座もあり)。
住所:東京都江東区豊洲6-4-18
公式HP:https://maggiestokyo.org/
営業時間:月〜金曜の平日10〜16時と第1・第3金曜の18~20時(土日祝日はイベント時のみ)。
→がん治療中の爪の悩み・ネイルケア|グリーンネイル、黒ずみ…ケアを専門家が解説
取材・文/青木まき子 イラスト/藤井昌子
※女性セブン2023年10月12・19日号
https://josei7.com/
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