「食事制限がつらくて冷蔵庫を漁った母」「安心のためのおむつが」…よかれと思ってした介護が裏目に!後悔しないために知っておくべきこと
「最後は住み慣れた自宅で心地よく過ごさせてあげたい」。そう思って懸命に在宅介護を行っている人は多い。しかし、親や夫のために「よかれ」と思ってやっていたことが裏目に出ているとしたらどうだろう。しかも、それがあなたを苦しめていたとしたら…。悲劇を生まないためにも知っておきたい失敗例の数々、「在宅介護の現実」とNG行動、在宅介護を助ける「介護保険サービス」を紹介します。
教えてくれた人
・ジャーナリスト 石川結貴さん
・介護・暮らしジャーナリスト 太田差惠子さん
・南日本ヘルスリサーチラボ代表 森田洋之さん
やってみてからわかる在宅介護の現実
80才の舅(しゅうと)を在宅介護している埼玉県在住の伊藤美代さん(仮名・56才)は、2か月前のことを後悔している。
「舅は杖をつけばなんとか歩ける状態でしたが、トイレに間に合わずに粗相をすることが増えました。なので夫にも説得してもらい、渋々ではありましたがおむつをつけることに納得してもらいました。すると舅は間に合うときであっても自力でトイレに行かなくなり、“おむつが恥ずかしいから”と言って外出もしなくなりました。ほぼ一日中ベッドで過ごすので足腰がどんどん衰え、とうとう杖があっても歩けなくなってしまった。本人が嫌がったおむつではなく、部屋の隅にポータブルトイレを置くなどして気を配ってあげていれば、いまももっと元気だったかもしれないですよね…」
残り少ない最後の時間を自宅で過ごしたい―そんな親や伴侶の願いを叶える在宅介護。だが、「いざ始めてみると想定外のことが次々に起きる」と、自身の遠距離介護の体験を綴った『家で死ぬということ ひとり暮らしの親を看取るまで』の著者でジャーナリストの石川結貴さんは話す。
「“こんなはずじゃなかった”と思っているかたは潜在的にものすごく多いと思います。実は日本の介護制度や支援は隙間だらけ。“在宅介護=幸せ”と安易に見るのは危険です」
特に多くの人が陥るのは、よかれと思ってしていることが介護される側にとってはマイナスになっているケースだ。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが言う。
「その代表格が、本人ができることまで手伝いすぎてしまうことです。例えば食事介助。ゆっくり時間をかければ自力で食べられるのに、食べさせてあげるようになると介助なしでは食べられなくなってしまう。そうした過剰介護など、在宅介護において“やらない”ように気をつけるべき点はたくさんあるのです」
楽しみややりがいを奪うのはNG
愛知県在住の江田恵さん(仮名・56才)は、在宅介護をしていたほぼ寝たきりの母親が糖尿病であることがわかると食事の改善に力を入れた。
「もともと血圧も高かったので、合併症が怖いと思って栄養バランスやカロリーを考えた料理を作ったのですが、母にはもの足りなかったのかもしれません。空っぽになった茶碗を投げつけたり、見舞い客が持ってきたお菓子を私から強引に奪い取ったりと、食べることにすさまじい執念を見せるようになったんです。それでも私は“健康には代えられない”“病気が悪化したら苦しむのは母だから”と、心を鬼にして対応していました」
そんなある日の朝、江田さんは母が台所で倒れているのを発見する。
「夜中に這って冷蔵庫まで行き、中を漁ったのでしょう。冷蔵庫にあったおはぎを喉に詰まらせた状態で倒れていて、すでに息はありませんでした。こんなことなら食事制限なんかしなければよかった、母の健康に気を配りながらも食欲も満たしてあげるやり方があったのではないかと私も夫も悔やみ続ける毎日です」(江田さん)
転倒や火事を心配して買い物や料理をすべて引き受けてしまうという人も少なくないが、太田さんはこう指摘する。
「リスク回避のために行動を制限すると介護度が上がる悪循環に陥ります。例えば、転倒のリスクが心配なら適切な補助器具を用意して、ゆっくり買い物を楽しませてあげればいい。相手の要望を聞き、ケアマネジャーやかかりつけ医と相談しながら見守ることが大切です」
2年前に脳梗塞で半身不随になった82才の父親を在宅介護中の福岡県在住の金井典子さん(仮名・48才)は、「配慮したつもりがかえって父の生きがいを奪ってしまった」とため息をつく。
「定年まで教員として働き、校長まで務め上げた父のもとには、脳梗塞で倒れた当初、教え子たちが次々にお見舞いに来てくれました。でも、威厳に満ちあふれていた以前の父の姿とのギャップに教え子たちが驚いたり、戸惑う場面に何度も出くわしました。私は父がふびんになって、お見舞いを断るようにしたんです。ところが来客が途絶えると父に認知症が出始めて、急激に悪化していきました。いまでは自分から体を動かそうともせず、ぼんやり宙を見つめているだけ。そんな姿を見るたびに、父から人を遠ざけてしまったことは間違いだったのかもしれないと自分を責めずにはいられません」(金井さん)
周囲が心配しても本人にとって重要なことを尊重
周囲からは何気ない行動に見えても、当事者にとっては大きな意味を持っていたケースもある。石川さんの父は時間を見つけては山奥にある畑に行っていた。石川さんは熱中症を心配して父親に畑に行くのをやめるよう再三注意していたが、父親は聞く耳を持たず畑に通い続けた。
「野菜作りが退職後の楽しみなのだと思っていましたが、実はそれだけじゃなかったんです。海に向かって妻、つまり私の亡き母の名前を大声で叫ぶために畑に行っていたんです。後々父からその話を聞いて、母に先立たれた寂しさや、母への思いを初めて知りました。自力で行けなくなると父は自ら畑通いをやめましたが、父から無理やり畑を奪わなくて本当によかった」(石川さん)
「ペットにも同様のことが言える」と石川さんは続ける。
「“自分で面倒を見られなくなる”という理由で、高齢者にペットを飼うのをがまんさせる風潮が強まっています。もちろんペットに対する責任は絶対にありますが、ひとり暮らしで猫が話し相手だとか、犬との散歩が生きがいという人から楽しみを一方的に奪う前に、充分な話し合いをした方がいいと思います」
“共倒れ”を防ぐために「多少のことには目をつぶる」
親や配偶者への配慮のつもりで楽しみや義務を奪うことは、本人はもちろん介護する側にとってもあだになることが少なくない。
「要望をすべて叶えようとがんばりすぎて介護うつになったり、体を壊して共倒れになる傾向があります。介護のために仕事を辞めるのも、考え直してほしい」(太田さん)
一度介護を理由に離職してしまうと、介護が終わってから再就職しようとしても収入が大幅に減ったり、思うような仕事に就けないことが多い。
南日本ヘルスリサーチラボ代表の森田洋之さんは、“共倒れ”を防ぐためには完璧を目指すのではなく「多少のことには目をつぶる」ことがコツだと話す。
「買い物に行って、家にまだあるのに菓子パンを大量に買ってきても怒らない。“多めにあるし、もらっていい?”とか“ご近所さんに分けてあげようか”という対応でいいんです。ものを出しっぱなしにしていたって構わないじゃないですか。ダメ出しされることは、本人からすれば尊厳を否定されることなんです」
介護する側がやめさせようとすれば、される側は反発する。すると、「あなたのことを思ってやっているのに、なぜ?」とますます制限を厳しくする…そんな負の連鎖に陥ったらお互いがつらいだけ。肩の力を入れすぎないことも意識したい。
在宅介護を助ける「介護保険サービス」
■居宅介護支援
ケアマネジャーに相談した内容のもと、ケアプランが作成され、それに沿って適切な介護サービスの提供者や事業者が調整される。
■訪問介護(ホームヘルプ)
ヘルパーが自宅を訪問して食事、入浴、排泄などの身体介護や掃除、洗濯、調理などの生活支援を行う。
■訪問入浴
看護師を含めたスタッフが自宅を訪問し、事業者が持参した浴槽で入浴介助をする。
■訪問看護
看護師などが自宅を訪問し、病気や障害に応じた医療行為や療養生活のアドバイスをする。
■訪問リハビリ
医師が必要と認めた場合、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職が訪問してリハビリを行う。
■定期巡回・随時対応型訪問介護看護
24時間365日、定期的な巡回など必要なケアを必要なタイミングで受けられる。介護と看護が一体となったサービスも。
■通所介護(デイサービス)
利用者が日帰りで介護の専門施設に通い、食事や入浴などの日常生活の支援、機能訓練などのサービスを受ける。
■通所リハビリ(デイケア)
医師が常駐した介護施設や病院、診療所などに通い、日帰りでリハビリを受ける。
■短期入所生活介護(ショートステイ)
週に1泊など短期の宿泊。入浴や食事の介助を受けられる。本人はもちろん、自宅で介護する家族の休息にも必要。
■小規模多機能型 居宅介護
施設への通いを中心に宿泊や訪問を組み合わせたサービス。地域住民と交流しながら、生活支援、機能訓練が受けられる。
■訪問歯科
歯科医が自宅を訪れ、口腔ケアや虫歯の治療、入れ歯の調整などを行う。
■訪問薬剤師
薬剤師が患者に合わせた用量・用法の薬を持って自宅を訪問し、お薬カレンダーに服用すべき薬をセットしてくれる。
■福祉用具貸与・販売
介護ベッドや歩行補助杖などの介護用品のレンタル・購入費用の助成が受けられる。
■居宅介護住宅改修費
介護保険制度により1人20万円を上限に、介護のリフォーム費用が助成される。ケアマネジャーと相談の上でのみ利用可能。
※女性セブン2023年10月26日号
https://josei7.com/
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