『CareTEX 2019』に潜入!記者が見つけた介護便利アイテム
2月6日~8日の日程で開催された『CareTEX 2019(ケアテックス)』(会場:東京ビッグサイト)。
今年で5回目を迎える介護関連の大型展示会だ。介護用品や施設ソリューションなどを展開する企業、約550社が集まった。7日には小池百合子都知事も登壇。自らの介護経験や東京都の介護事業についての講演を行い現場を盛り上げた。
筆者は両親を自宅で介護した経験がある。また現在は週に1回、ホスピスケア施設でのボランティア活動を行っている。まだまだうすっぺらい経験ではあるが、自分なりに介護現場を踏まえた目線を持ってCareTEXの会場歩いた。
以下に紹介するのは筆者自身、「こういう商品があったら便利だな」と思えるものたちだ。介護が必要になった場合の参考にしていただければ幸いだ。
記者が見つけた!便利商品
●飲み込みやすいお餅『ソフトもち』(名阪食品株式会社)
価格:720円(税別)
日本人はお餅が好きだ。筆者の両親も、「お餅のない正月なんて考えられない」と常々言っていた。しかし、年齢を重ねると飲み込みに不安が出てくる。
2018年夏に週刊ポストで行った『有料老人ホームで起こる事故件数アンケート』でも、死亡につながる事案で最も多かったのが誤嚥から誤嚥性肺炎にかかり亡くなるというものだった。
※『有料老人ホーム事故原因ランキング 2位・誤薬、3位・打撲』(参照:『NEWSポストセブン』https://www.news-postseven.com/archives/20180615_695992.html)
加齢などにより喉の奥にある弁の開閉がうまくいかず、飲食物の一部やばい菌が肺に入ることで起こるのが誤嚥性肺炎だ。
また年を取れば飲み込む力そのものも衰えて、餅や焼き芋など粘り気の強い食物が食堂に詰まりやすくもなる。
複数の施設で介護士をしていた経験のある介護評論家の佐藤恒伯氏は「ご老人はお餅が大外好きです。だからお正月には冗談じゃなく吸引のための掃除機を準備し、決死の覚悟で雑煮を出していましたよ(笑い)」と語る。
それでも老人が餅を喉に詰まらせて亡くなるという事案が毎年のように発生する。
上のような現実を踏まえ、名阪食品株式会社(奈良県桜井市)が開発したのが、その名もズバリ『ソフトもち』だ。
同社営業係長の峯野智氏は次のように語る。
「お正月にはおもち入りのお雑煮が食べたいという高齢者の方に、安全でおいしいお餅をという思いから作りました。粘り気が少なく、飲み込みやすいのが特徴です。代替物ではなくもち米をベースに仕上げていますので、味は普通のおもちと変わりありません。製法については特許も取得しています」
筆者も試食させてもらった。
おっしゃる通り粘り気は少ないが、つきたてのようなほどより柔らかさがある。咀嚼すればすんなり噛み切れる。もち米の香りも楽しめたし、のどごしもしっかり餅だった。
飲み込みに不安のある人がいる家庭の正月に、「ソフトもち」はおすすめだ。
●排尿予測デバイス『DFree』(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社)
価格:4万9880円(税別)
排泄は人間の尊厳に直結する行為だ。
生まれてからしばらくの間を除けば、人間は誰も見ていない場所でひとりで排泄を行う。ただ、加齢とともに尿意や便意を感じ取る力が弱まる。
突然強い尿意を感じてトイレまで間に合わないなどの失敗が高齢者には実は多い。
そうした場合の助けとなるのがトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社(東京都千代田区)が開発した『DFree』だ。
同社・経営企画マネージャーの佐田雅弥氏の解説。
「この製品は、超音波センサーで膀胱の変化を捉え、排尿のタイミングを予測するものです。妊婦さんのお腹を検査するエコー診断と同じ超音波を利用しているので、体に悪影響はありません」
スマートフォンやタブレット、パソコンなどのデバイスに専用アプリをダウンロードする。ここに排尿のタイミングが近づいていることや、実際に排尿にまでいたったかもしれないといった『予測』が分かりやすいアイコンで表示されるという仕組みだ。
筆者の母親は亡くなる前の数ヶ月間、寝たきりの状態だった。認知症が進んでおり、尿意便意を伝えることができなくなっていたので24時間おむつを使っていた。
姉やヘルパーさん(時々筆者)が1日に何度か、時間を決めておむつを確認し、汚れていたら取り替える。つまり一定時間、必ず「汚れたおむつをつけている状態」に置かれることになる。
もしこの商品があれば、母の晩年から不快を感じる時間をもう少し減らすことができたのかもしれない。取材をしている間、そんなことを考えた。
●電子太鼓『電太』」を使った健康和太鼓教室(株式会社太鼓センター)
価格:応相談
世界的にブームとなっている和太鼓。楽しくて運動にもなるとあって高齢者の間でも愛好者が増えている。
株式会社太鼓センター(京都府京都市)は老若男女が楽しめる和太鼓を使ったエクササイズ『TAIKO-LAB(タイコラボ)』を展開する会社だ。
本物の太鼓を使った教室も人気だが、和太鼓は叩けば大きな音が出る。
同社ヘルスアップ事業部係長で健康和太鼓1級指導者の大橋奈苗氏は次のように言う。
「老人ホームなどではあまり大きな音を立てられないこともあります。そんな場合に活躍するのが弊社で開発した電子和太鼓の『電太』です。電子音なのでボリュームの調整ができるし、音色も変えることができます」
また子供や筋力の落ちた高齢者でも小さな力で無理なく音が出せるのもいい。専用のバチで叩くと、太鼓の表面の弾力が程よく腕に伝わってきて心地よい。
「肩が痛くて大きく上げる運動などが不得意な高齢者の方でも、太鼓を使ったエクササイズだと楽しいから知らず知らずのうちにできるようになったりします」(大橋氏)
高齢者施設を取材すると、スタッフの皆さんが入居者の運動時間の確保に四苦八苦している様子をよく見る。どんなに「運動しましょう」と誘っても「気分が乗らない」と参加しない人も多い。
体を動かすだけの運動ではなく、「楽器を演奏する」という目的と運動をミックスした和太鼓エクササイズであれば参加率アップを狙えるかもしれない。
●転ぶ心配が少ない安心の三輪自転車『こげーるlively三輪車』(株式会社サギサカ)
価格:9万9800円(税別)
「危ないっ、と思ったときにすぐに足をつくことができれば自転車の転倒事故はかなりの部分防げます」
そう説明するのはシニア専用の自転車を製造する株式会社サギサカ(愛知県豊田市)の森隆明氏だ。
日々の買い物や通院など、年をとっても外出の機会はなかなか減らない。しかし、加齢とともに気持ちもおっくうになりがちだ。
近所のスーパーまで行きたいのだけど、歩くにはちょっと遠い。少し前までは自転車で通っていたのだけど最近は転ぶのが怖くて乗りたくない。
「転倒で最も多いのは漕ぎ出しとストップのタイミングです。乗降のさいに、フレームに足がひっかかり転んでしまうのです。シニア専用自転車のこげーるシリーズは、フレームの高さを限界まで下げ、地上からわずか17cmに設定しています。フレームをまたぐさいに足を高く上げる必要がありません。だから転びにくいのです」(同前)
こげーるシリーズには二輪と三輪のタイプがある。
三輪タイプはフレームの傾きを固定することができるので、「そもそも自転車に乗れない」という人でもチャレンジすることができる。
外出は最高のエクササイズだ。こげーるがあれば安全で快適な自転車ライフを満喫できる。
●お掃除と見守り・通話機能が合体『MAMORU』(リプリ株式会社)
価格:6万9800円(税別)
「MAMORUのお掃除機能はiRobotさんのルンバ 600シリーズと同程度です」とリプリ株式会社(奈良県香芝市)の若山鉄也氏。
しかし、MAMORUは掃除をするだけではない。スマートフォンやタブレットに専用のアプリを読み込めば、ボディの先端に搭載されたカメラを通して、離れた場所にいながら掃除中の部屋の様子を見ることができる。
「お掃除中のロボットって部屋をきれいにするため独自の動きをします。カメラがついていても見たい風景が見られるわけではありません。MAMORUは専用アプリを読み込んだスマホやタブレットを介して本体を操縦することもできるし、カメラを上下させることもできます。だから見たい場所まで行って、見たいものを見ることができるのです」(同前)
さらにマイクもついているので、遠隔での会話も可能だ。これらの機能を搭載したお掃除ロボットは業界初という。
自宅で介護をしていると、被介護者がひとりになってしまう時間が必ずある。365日・24時間、同じ屋根の下で誰かが見守り続けるのは不可能だ。少なくとも筆者宅の場合はそうだった。
MAMORUの見守り機能を使いこなすことができれば、被介護者をひとりにしている時間、出先でドキドキすることが減るだろう。
もちろん介護だけでなく、ペットや子供の見守りにも使える。お部屋の汚れだけでなく、介護者の痒いところにも手が届く商品と言えそうだ。
●宇宙飛行士のエクササイズがベース『ぷるそら』(有人宇宙システム株式会社)2019年夏、リリース予定
価格:2万円(税別)
ケアテックスの会場を歩いていると、突然宇宙飛行士に出くわした。いや、正確に言うと「宇宙飛行士みたいな格好をした人」だ。
有人宇宙システム株式会社(茨城県つくば市 筑波宇宙センター)の神山慶人氏に説明をお願いした。
「弊社は国際宇宙ステーション計画における人材や技術の提供、開発を行っている会社です。具体的には、宇宙実験棟の『きぼう』や宇宙ステーション補給機『こうのとり』の運用や宇宙飛行士、管制塔スタッフの訓練、宇宙実験などにたずさわっています」
そんな会社がどうしてケアテックスに?
「介護が必要な方、寝たきりの方、高齢者など、筋力が低下している方に使っていただきたいコンパクトなリハビリ機器『ぷるそら』を開発したのです。宇宙ステーションはごく微弱な重力環境です。これは一日中ベッドに横たわっている状態との類似点がけっこうあります。そうしたところから着想したのが本製品なのです」(同前)
本体は手のひらでつかめるほどの大きさだ。これを手すりなどにマジックテープで固定してグリップを引くようにして使う。
「エキスパンダーなどに似たエクササイズが行えるのですが、『ぷるそら』は動き始めから動き終わりまでほぼ一貫して同じ張力というのが特徴です。急に重くなったり軽くなったりがないので、ケガのリスクが少ない。また、張力を1~3kgまで簡単に変えることができるので、体力に合わせた筋力トレーニングが可能です」(同前)
介護生活はもちろん大変だが、今は助けてくれるグッズがたくさんある。
介護する側・される側、どちらの側でも負担軽減は急務だ。 紹介してきた製品情報がその一助になれば幸いだ。
撮影・取材・文/末並俊司
『週刊ポスト』を中心に活動するライター。2015年に母、16年に父が要介護状態となり、姉夫婦と協力して両親を自宅にて介護。また平行して16年後半に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を修了。その後17年に母、18年に父を自宅にて看取る。現在は東京都台東区にあるホスピスケア施設にて週に1回のボランティア活動を行っている。