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「介護の大変さは十人十色だからこそ友人を頼ってはいけない」母を看取った記者も実感 プロを頼った方がいい理由 

 2025年には人口のボリュームゾーンである団塊世代の約800万人が75歳以上の後期高齢者になる日本。高齢者の介護を高齢者が行う老老介護も増えており、問題は深刻化している。介護は身体的・精神的な負担が大きいため、家族だけで抱え込まず行政サービスや第三者などに救いを求めることも必要だ。介護のプロ、友人や知人とはどのような距離感で付き合うべきか、専門家の意見を聞いた。

教えてくれた人

太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、野原広子さん/女性セブンライター、小山朝子さん/介護ジャーナリスト・オールアバウトガイド、川内潤さん/NPO法人「となりのかいご」代表理事、荘司輝昭さん/立川在宅ケアクリニック院長

介護の頼り先は「友人・知人」にしてはいけない

 地域包括支援センターからAIグッズ、医療チームまでこれだけの「SOS受け入れ先」がある一方、頼り方を間違えることであなたをとりまく状況を悪化させるケースもある。

「介護において、誰かに相談したい、頼りたいという内容には、『情報がほしい』というものと『愚痴を聞いてほしい』というものの大きく2種類に分けられる。後者をケアマネジャーに伝えても解決策があるわけではない。そこは似た立場の人と話すのがいちばん。たとえば市民グループの集まりや認知症カフェなどに行けば、似た立場の人がいるので共感を得られやすいと思います」(介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん)

 SNSなどで同じような境遇にある仲間を見つけるのも“ガス抜き”としては有用。リアルな友人や知人を相手にするのは、少し考えた方がいい場合もあるようだ。

「同じように介護をしている人であっても“状況による”ところは多分にある。仲がよいだけに、あまりに重すぎる相談をしてしまったり、遠慮のない愚痴を言ってしまうこともあるでしょう。相手を見て話すことや、長時間になりすぎないことなどはしっかり考えて話しましょう。たとえば犬の散歩の時間は、唯一介護から解放されるから、そこでだけ話すと決めている人の話はよく耳にします。自分なりにルールを決めるといい」(太田さん)

 介護の苦労を愚痴ったつもりが「あなたなんて楽な方じゃない」などと反発されては、逆にストレスがたまってしまうばかりだ。

オバ記者が介護で身に染みた「介護は十人十色」

「介護を経験して身に染みたのが、“その人にとっての介護”は十人十色だということ。ある人にとっては付きっきりで、食事の介助からシモの世話まですることが介護になるけれど、別の人にとっては施設に面会に行って洗濯物を取り替えることが介護であり、また別の人にとっては同居して親の面倒を見るきょうだいの愚痴を聞くことが介護、なんてケースもある。

 状況が違えば大変さの度合いや苦労の種類も異なるし、おおざっぱに”介護”とくくること自体が、難しいんじゃないかと思う」(オバ記者こと野原広子さん)

 特に、友人や親戚に軽い気持ちで親の見守りなどをお願いをするのは避けた方がいいと話すのは介護ジャーナリストでオールアバウトガイドの小山朝子さんだ。

「業者と違って契約がないから、あいまいになりがちです。過剰に信用しすぎて裏切られたと思ってしまうこともあるが、こちらから強く言うこともできない。頼む場合、関係性がこじれる可能性もあると心得て」(小山さん)

 公的機関であれ、民間であれ、依頼するならプロが確実、ということのようだ。

介護のプロに期待し過ぎず、できることをやっていこう!

 また、プロであっても過大なサービスを求めれば相手はもちろん、自分が疲弊する原因にもなる。

「“制度やサービスを知ってもうまく頼れない”と相談に来る人も少なくありませんが、そういうかたがたはプロにも、身内と同じくらい親身になってほしい、要求に応えてほしいと期待してしまうところに原因がある。

 そもそも介護というものは本人のできることの力をなるべく引き出すのが仕事。たとえば『リモコンを取ってくれ』と言われても家族であれば取ってあげるかもしれないけれど、プロはあえて取らずに自分で取れるようサポートするのです。至れり尽くせりを提供するのは介護ではありません」(NPO法人「となりのかいご」代表理事・川内潤さん)

 任せる相手はもちろん、介護される家族の「生きる力」を心から信じることができたとき、はじめて「頼り先」に心をゆだねることができるのかもしれない。

「うまくいっている家族は互いに尊重しつつも、それぞれ当事者意識をしっかり持っている。そういう家族は医療スタッフとも信頼関係を築けていることが多い。往診時間に行くと、すでにドアを開錠しておいてくれることもある。そうやって心の底から頼りにされ、信頼されるというのは医療側としてもうれしいことです」(立川在宅ケアクリニック院長の荘司輝昭さん)

「頼る」ための一歩を、いま踏み出そう。

介護仲間が見つかる「安心できる頼り先」

※困り事の内容/「頼り先」の名称/サービス内容・窓口

【困り事】自分と同じ境遇の人と気持ちを分かち合いたい

【頼り先】認知症カフェ

 市区町村の施設などを利用して当事者や職員など、万人にオープンになっている場所。軽食や飲み物を片手に悩み相談や世間話を共有できる。

取材・文/土屋秀太郎 取材/小山内麗香、戸田梨恵、伏見友里、平田淳、三好洋輝 写真/PIXTA

※女性セブン2023年9月21日号
https://josei7.com/

●介護の困りごとを相談できる場所一覧|「地域包括支援センター」「社会福祉協議会」「ヤクルトやALSOK」などその役割を紹介

●認知症への過度な配慮をしない― 東京都町田市に学ぶ「認知症の人と共生」の姿勢

●子供はどこまで親の介護をしなければならないのか?実例から弁護士と介護のプロが回答

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