ハイヒール・モモコも苦しんだ帯状疱疹「髪の毛が触れても痛い!」恐るべき5072問題
帯状疱疹の予防接種を促す広告を見たことがある人も多いのではないだろうか。それもそのはず、ここ数年、帯状疱疹の患者数が増え続けているからだ。キーワードは「5072」。特に“50才以上”で発症率が上がり、80才までに3人に1人が発症する。痛みが出てから“72時間以内”に投薬治療をしないと後遺症が残りやすい。病気の怖さと対処法は、なった後に知るのでは遅いのだ。
帯状疱疹の発症の要因には、ストレスや免疫力の低下がある。そのせいか、新型コロナウイルス感染症の流行とともに患者数が増えたという。
「公式な統計は出ていませんが、診療現場の実感として患者の増加は明らかです」と、帯状疱疹の専門医・漆畑修さんは言う。では一体、どういう病気なのか。
ハイヒール・モモコも発症。重症化し…
芸人のハイヒール・モモコも、この病気に苦しんだひとりだ。異変を感じたのは5年前の2018年10月末、54才のときのこと。左頰の下の部分にピリッとした痛みが走ったのが始まりだった。
「見た目は何ともないんですけど、山椒を食べたときのようなピリピリとした感覚があったんです。おたふく風邪かと思って内科に行きました」(モモコ・以下同)
血液検査やエコー検査をしたが、おたふく風邪ではないと診断された。「風邪かも」と言われ、風邪薬を処方された。
「翌日になってもピリピリした感じがしていて、もしかしたら口の中に何かが起きているのかもしれないと、今度は歯科にかかりました。診察してもらうと、“歯茎にちょっと腫れている部分があるけど、そんなに痛いものかなぁ”と、先生も不思議そうで…。今度は痛み止めの薬を出していただきましたが、痛みはおさまるどころかどんどんひどくなっていく。そうしているうちに、耳の近くにプツッと水疱が出てきたんです」
知り合いに見せると、帯状疱疹ではないかと言われ、翌日に皮膚科を受診すると、ようやく帯状疱疹と診断される。
「病名は知っていましたが、まさか自分がかかるとは思っていませんでしたし、どういう病気なのかあまりよくわかっていませんでした」
水疱はすぐに増え、顔の左側のあごから耳のあたり、さらに唇、口の中、耳の中にまで広がっていった。
「医師がカメラで私の耳の中を見て“うっ!”と声をあげたんです。それほどひどかったみたい。耳の中の写真を見せてもらい、そのおぞましい状態に身震いしました(写真参照)。普通の鼓膜は白いらしいのですが、私のは黒くボロボロになっていたのです。危うく耳が聞こえなくなるところだったそうです」
痛みで水も飲めず、1週間で体重10kg減
水疱が増えて広がった期間を、地獄の日々だったと振り返る。
「顔半分がトラックにひかれたかのような激痛でした。出産や骨折をしたときの痛みとは、比べものになりません。何度痛みで気を失いそうになったことか…。家族にも、“私が寝室から出てこなかったら、痛みで気を失っているかもしれへんから見にきてな”と言っておいたほどです」
医師には入院をすすめられたが、治療は薬と点滴で、あとは寝ているしかないというので断ったという。
「それなら通院しながら仕事をしたいと思ったんです。抗ウイルス薬をのんで、病院で点滴をしてから仕事に向かう日々でした。私はとにかく仕事に穴をあけるのが嫌な性分。産後も休まず、すぐに仕事復帰したくらいですから。今回は、ものすごい痛みがあったからこそ、仕事を続けたいと思いました。寝ていると気持ちが落ち込むし、痛みのことばかり考えてしまうけれど、仕事をしていると気が紛れて一瞬でも痛みを忘れられますからね」
これはあくまで、彼女の場合。帯状疱疹の発症は過労やストレスが大きな要因となる。症状が深刻な場合は無理をせずにゆっくり過ごし、充分な睡眠をとることが大切だ。
「仕事のときは、ヘアメイクさんに水疱が目立たないよう、そーっとファンデーションを塗ってもらったり、髪の毛の分け目を変えてもらったりと協力してもらいましたね。つらかったのは口の中の痛み。食事どころか水さえも飲めなかったので、1週間で1kgもやせました。痛みのない右半分の口にストローをさして、何とか水分を摂ったほど。長男なんて、私の激やせぶりを見て、“おかんのウエスト、初めて見た”と私のお腹まわりの記念写真を撮っていたくらいです(笑い)」
発疹は治ったが痛みは消えなかった
仕事をしながらの通院治療の結果、3か月ほどで顔の発疹は消えた。ただ、左側のあごから口にかけての部分の痛みは消えなかった。発疹が治っても痛みが消えない「帯状疱疹後神経痛」を発症してしまったのだ。
「点滴やブロック注射、強い痛み止めや胃薬など、薬は多いときで1日20錠ぐらいのみました。それでも痛みは消えませんでしたね」
薬は2021年7月までのみ続けたが、それでも完治しなかったという。
「体への負担にもなると判断し、薬はキッパリとやめることにしました。痛みと共存する覚悟を決めた、と言うと大げさですが、いつも肩が痛い人がいれば、腰が痛い人もいる。そういう人と同じで、私は顔の一部に神経痛をもっている人なんだ、と思うことにしました」
発症から5年近く経ついまでも、口の左側あたりに髪の毛がふわっとかかるだけで痛いときがあるという。それでも、ある日突然治るかもしれないと、前向きに考えている。
「この経験を通じて調べ、わかったことを、ある番組が紙芝居にしてくれたんです。それをもらって持ち歩いていた時期がありました。私が帯状疱疹だったと言うと、会う人会う人、話を聞きたがる。それくらい皆にとって身近だし、関心の高い病気なんですよね。私も病気について多くの人に知ってもらいたかったので、存分に語らせてもらっています(笑い)」
帯状疱疹は発症してから72時間、つまり3日以内に抗ウイルス薬をのめば重症化しづらい。しかし彼女は、帯状疱疹だとわからず病院を転々として、診断まで4日かかってしまった。その後悔の念もあるという。
「2020年には、50才以上を対象とした帯状疱疹の予防ワクチンが発売されたんですよ。私は“ワクチンは絶対に受けや!”って、友達に広めてまわっています。私も二度と発症しないよう接種しましたね」
帯状疱疹は、定期的に水ぼうそうウイルスに感染して免疫をつけておかないと、再発することもある病気だ。予防接種はぜひ受けてほしい。
■芸人 ハイヒール・モモコ(59才)
1964年、大阪市生まれ。NSC大阪校1期生で、1982年に同期のリンゴと漫才コンビ「ハイヒール」を結成。午後の情報番組『モモコのOH! ソレ! み~よ!』(関西テレビ放送)でMCを務めるなど、関西を中心に活躍中。
取材・文/土田由佳 写真提供/ハイヒール・モモコ
※女性セブン2023年7月20日号
https://josei7.com/
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