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ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』9話を考察「大切な人を苦しめる人は敵、守るのが自分の使命」みね君(岡山天音)を好きにならずにはいられない

 サチ(清野菜名)・翔子(岸井ゆきの)・若葉(生見愛瑠)・みね(岡山天音)の準備するカフェ「サンデイズ」もいよいよ開店間近。サチの母・邦子(和久井映見)は、娘に金を要求する元夫(尾美としのり)との関係に決着をつけます。いよいよ開店の日となりそうな今夜放送の最終回を前に、ライター・近藤正高さんが『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)9話を振り返ります。

階段の意味が変わった

『日曜の夜ぐらいは…』第9話では、現実よりひと足先に7月に入り、サチ(清野菜名)・翔子(岸井ゆきの)・若葉(生見愛瑠)・みね(岡山天音)のカフェ「サンデイズ」もいよいよ開店間近だ。女子3人は団地の4階の一室で共同生活を送る。3階にはみね君も引っ越してきた。1階の本来はサチが母親の邦子(和久井映見)と住んでいる部屋には、ここしばらく若葉の祖母・富士子(宮本信子)がサチの代わりに邦子と同居し、あれこれ世話を焼いてくれている。

 サチたち4人組は毎朝、出勤前に階段を上り下りしながら、それぞれの部屋を行き来する。開店まであと16日と迫ったその日、サチはバイトの早番で、みんなより先に家を出たが、出勤前に1階の邦子と富士子に声をかけていく。それと入れ違いでみね君が、翔子と若葉に誘われて朝食をともにし、時間が来ると若葉と一緒に出勤する。彼らも途中で1階に立ち寄ると、“ミネ・フジコ”のコンビで漫才の練習を一瞬だけ。といっても、まだ挨拶しかできていないようだが、いずれどこかで披露するつもりなのか。

 その日は、サンデイズのカウンター設置と配管工事が予定され、翔子が立ち会うことになっていた。ただ、家を出るのは昼前でよかったので、二度寝を決めるつもりでいたものの、彼女もやはり邦子と富士子のもとに顔を出すと、出かけるまで一緒に過ごすことにする。

 そうやってみんな同じ団地の各部屋でそれぞれ生活を送りながらも、頻繁に顔を合わせては会話を交わしているのが、じつに楽しそうだ。「スープの冷めない距離」とはまさにこういうことなのだろう。

 サチにとって団地の階段には、邦子が転落して歩けなくなってしまった忌まわしい記憶がつきまとった。だが、こうして彼女が毎日軽やかに階を行き来しているのを見ると、同じ階段もいまや仲間と母親、それに明日へとつなぐものへと変わったかのようである。当の邦子もちょっと前までは、サチに対し、後ろめたさから毎日無意識のうちに「ごめんね」と口にしていたのが、いつのまにかそう言わなくなっていた。

邦子と富士子の絶妙なコンビプレイ

 そんなふうに過去を清算していくなかで、邦子のなかで決着をつけねばならない相手がいた。ほかでもない元夫、サチにとっては父親であるあの男(尾美としのり)だ。

 その日も邦子が富士子に手伝ってもらいながらカフェで出すカレーの試作をしていると、家の前にフラッと彼が現れる。それを見つけた近所の人が「中野さん」と声をかけるのが聞こえてきた。そこで邦子は思い出したように、サチにLINEで、最近お父さんが来なかったかと訊ねる。やんわり追及すると、元夫がサチから3万円を取っていた事実を知った。

 このあと、邦子は富士子に車椅子を押してもらいながら、あらかじめ呼び出した元夫と久々に対面する。このとき、邦子が手を固く握りしめワナワナ震わせるのを、富士子は見逃さなかった。そこで富士子は、元夫に対し、しゃがんで邦子と同じ目線に立てば話しやすいと思いますと勧める。これには彼もなるほどと感心しながら、素直に腰をかがめると、顔を邦子に近づけた。すかさず、その頬を邦子がピシャリとはたく。思いがけない事態に倒れ込んで呆然とする彼に、邦子は自分ならともかく子供から金を取るのはやめなさいと一喝し、月に千円ずつ返すよう申し渡すのだった。

 邦子と、彼女のヘルパーを装った富士子の絶妙なコンビプレイであった。ただ、富士子には今回、ちょっと気がかりな行動が見られた。彼女が自分宛ての小包を夜になってこっそり開けると、何と、痴漢撃退などに使われるスタンガンと思しきものが現れたのだ。どうも穏やかではなく、富士子が最後の最後にとんでもないことを起こしやしないかと、ちょっと心配になる。

 ともあれ、開店を控えたサンデイズではカウンターが完成し、翔子がほかのみんなに先んじて喜びに浸っていた。だが、業者から受け取った領収書をじっと見つめると(おそらく日付を見ていたのだろう)、ふいに表情を曇らせる。そこへ、背後からサチと若葉が忍び寄るように現れ、カウンターの完成を確認したかと思うと、翔子に向かってクラッカーを鳴らしながら「お誕生日、おめでとう!」と祝福してくれた。そう、この日、7月7日は翔子の誕生日だったのだ。

みね君独占禁止法

 テーブルには彼女のニックネーム「ケンタ」にちなんでケンタッキーフライドチキンが並べられ(スポンサーでもないのにこのワンシーンのためだけにケンタッキーが協力してくれたと思うと、なかなか粋である)、ビールで乾杯する。邦子と富士子からも動画でメッセージが贈られた。若葉が明かしたところによれば、サチはこの日のサプライズのため、事前に翔子にバレないようほかのみんなを徹底して統制し、翔子のいないところで内緒話や目配せすることさえも禁じたという。それというのも、翔子はそういう空気に敏感なので、もし感じ取れば悪いほうに考えてへこんでしまうと配慮してのことだった。どこまでも相手を思いやれるサチに改めて感服させられる。

 それから縁側に3人並んでたたずんでいると、若葉がふと、そういえば自分たちはまだ一度も喧嘩をしたことがないと口にする。しかし、このときの彼女たちには、今後も喧嘩するなどとても思えなかった。そもそもなぜ喧嘩したり距離が生まれたりするのか? おそらくは、誰かが恋愛してそっちを優先してしまうとか、あるいは、人生がうまくいったりそうでもなかったりと、社会的立場の違いが生じてしまうとか、原因は色々と思い浮かぶも、いまの3人にはどれも遠い国のできごとのようであった。

 それでもサチが、自分以外の誰かがみね君と恋に落ちたらちょっとやりづらいかなと言うので、お互いにみね君を独り占めしないよう約束を交わす。名づけて「みね君独占禁止法(略称・みね禁法)」。そんなことを話していると、当のみね君が遅れて現れ、翔子に花束を渡した。思わず彼に抱きついた翔子だが、ハッと気づいて振り返ると、サチと若葉はセーフのポーズを見せる。

 しかし、その日のみね君はこのあとも、3人が惚れずにはいられない態度を示す。彼は順調に準備の進む店内を見たあとで、おもむろに通帳を取り出し、いまの支出状況を見せた。そして聞いてほしいことがあると改まって話し始めると、まず、サチが例の父、若葉が母親からまたお金をせびられるかもしれないと心配していることに対し、お金は自分が管理しているので絶対に引き出させたりはしないと固く誓ったのである。

 彼にとって3人と邦子と富士子は大切な人であった。その大切な人たちを自分は守りたい。だから、彼女たちを傷つけたり悲しい思いをさせる人は、自分にとっては敵である。本人たちからすればそれぞれ相手とのあいだに事情や歴史があって、冷たくできないかもしれない。でも、どんな理由があろうとも、自分にとって大切な人を苦しめる人は敵であり、そこから守るのが自分の使命だ……というようなことを、みね君は訥々と語り、彼女たちを感激させた。

 何がみね君をそこまで駆り立てたのか。やはり、サチたちが自分を信頼して役割と居場所を与えてくれたことに尽きるのだろう。しかし、彼女たちだって、見返りを期待してそうしたわけではない。ただ、彼も仲間に加えて一緒に夢を実現したかっただけである。それがここまで言ってくれるなんて、3人からすれば、思いがけないことであったに違いない。

嫌われていた人が意外にも味方に

 開店まであと2週間に迫った日曜日。プロデューサーの賢太(川村壱馬)も来て、みんなでサンデイズで出すアイスの試食をし、議論を重ねる。自分の好きなアイスを4人がそれぞれ選んでみると、みんなばらばら。そこで賢太が、客が互いに好きなものを少しずつ重ねてどんな味になるか試すという趣向はどうかと提案した。これにはサチも面白がるが、でも、そういう乗りは一人で来たらちょっと寂しくなっちゃうかもと、指摘するのも忘れない。彼女としてはカフェを開くと決めたときからの「一人でも気楽にすごせる」というコンセプトはやはり譲れないのだ。

 このあと、サンデイズに椅子とテーブルが運び込まれる。搬入してくれたバイトの若者たちのそれっぽい出で立ちに、みね君が「バンドやってるの?」と訊くと、「わかります?」との返事。それもそのはず、演じているのは主題歌を歌うMrs.GREEN APPLEのメンバーであった。

 この日の打ち合わせの終わりには、賢太から、デザートにまだ検討の余地ありということで、「ちょっとクセのある、何だろうこれ、気になる」みたいなメニューを、おのおの宿題として考えることになる。

 そんな折、若葉が因縁の相手……かつて働いていたちくわぶ工場の若社長・野々村(飛永翼)の動画配信チャンネルを見つけてしまった。動画のなかでは、社長がさも自分は若葉から慕われていたかのように語って、いや騙っており、若葉にはまったく心外であった。だいたい「WABUUUちゃんねる」というタイトルからして若葉のニックネーム「わぶちゃん」とかぶっていて、彼女が思わず“チベットスナギツネの目”(不信感に満ちた目つき!)になってしまうのもわかる。

 ただ、そこで社長の紹介するちくわぶを使ったデザートは、例の宿題を解決する鍵を握っていそうではあった。前回、思いがけずサチを守ったファミレスの店長(橋本じゅん)にしてもそうだが、どうもこのドラマには、主人公たちに嫌われていた人が意外にも味方になってくれるパターンがあるらしい。そう考えると、サチの父も、若葉の母も、最終回にはもしや……と期待しないでもない。

 というわけで、『日曜の夜ぐらいは…』もいよいよ今夜が最終回である。果たしてサチたちはどんなふうに開店の日を迎えるのか。ここはぜひ、コンビニで一番高いアイスを買って用意したうえで見届けたい。

→このドラマのレビューをすべて読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』3話を考察。運に恵まれなかった3人にとって、人生を変えるに十分な額「1千万円」を狙うのは“久々の人物” 

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』2話を考察。サチ(清野菜名)が楽しみを禁じるのは、母(和久井映見)への負い目?そして母も…

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は車椅子の母からの贈り物から始まる。「たまには私から離れて、思いきり笑ったりしてらっしゃい」

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