餅が喉に詰まった時の正しい対処法|水を飲ませるのはNG
家族揃って迎えたお正月。お雑煮などでお餅を食べる機会も増える時だ。
この時期、毎年、お餅を喉に詰まらせてしまったというニュースが流れる。誰にでも起こりうることだが、高齢者はより注意が必要だ。
当サイトで、過去に掲載した「お餅が喉に詰まった時の正しい対処法」をご紹介する。楽しいお正月、思わぬ事故を起こさぬために、参考にしてほしい。
目次
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餅を喉に詰まらせたすぐ救急車を呼ぶこと
「食べたり、飲み込んだりする機能が低下している高齢者の場合、誤嚥(ごえん)と共に、窒息も起こりやすく、とくに毎年、お正月から春にかけてはお餅を食べることによる窒息事故が起きています。
お餅以外にも、喉に張り付きやすい食品や水分量が非常に少ない食べ物は注意が必要です。また、どのような食べ物も、一口の量がその人の『噛み』や『飲み込む力』に合っていない場合も窒息を起こします」
こう語るのは、日本歯科大学大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授、口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武さんだ。
窒息が起こると、息が荒くなるという。自己流の対処法をするのではなく、即座に救急車を呼ぶこと。
「食べ物を詰まらせてしまった場合は、即座に救急車を呼びましょう。119番に電話をし、窒息の危険を伝えると、救急隊員が駆けつける前にするべきことを教えてくれます。水を飲ませるのは誤った対処法です。絶対にやめましょう。そのままの姿勢で背中を叩くのも余り意味がありません」(菊池さん、以下「」内同)
高齢者はなぜ誤嚥するのか、誤嚥が招くリスクとは?
在宅で療養している高齢者の約7割に当たる人が「食べているもの」と「口の機能」が合っておらず、誤嚥や窒息の危険があるという。
「高齢者の嚥下(えんげ)障害と食事の工夫」をテーマとした特別セミナー(主催:日本医療企画 協賛:ネスレ)で、菊谷さんは高齢者を対象にした嚥下機能と食事調査の結果を示しながら、誤嚥(ごえん)と窒息を防ぐ大切さを呼びかけた。
「誤嚥とは、本来、食道に送られるはずの食べ物が誤って気管に入ってしまうことです。嚥下機能が低下していると、“ごっくん”と飲み込むタイミングと、気管が塞がるタイミングがずれたり、飲み込み切らないうちに気管が開いたりして、誤嚥してしまいます。すると、反射的に食べ物を出そうとして“むせ”が起こります。
ただし、高齢者には“むせ”の反射が弱くなり、出ない人もいます。この症状は『不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)』と呼ばれます」と菊谷さん。
高齢者が誤嚥を起こした場合の対処はどうすればいい?
「むせていたら、無理にこらえたりしようとせず、むしろ“むせ切る”ことが大切です。特に水分は誤嚥しやすいので、水を飲ませるのはもってのほか。誤嚥した人に前かがみになってもらい、介助する人が後ろにまわり、背中の中央より少し上あたりを強く叩くと、誤嚥した物を吐き出せることがあります」
不顕性誤嚥(“むせ”の症状が出ない場合)は誤嚥したかどうか分かりにくいが、次のような症状があれば誤嚥が起きている可能性があるがあるので、医療機関を受診した方がいいという。
・食事にかかる時間が非常に長くなった
・食べた後に声がかすれている
・食べた後は喉がごろごろする
・よく痰がからむ
・咳払いができない
・微熱を繰り返す
◆誤嚥や窒息を起こしやすい食べ物、飲み物と対処法
自分の食べる機能に見合った食事をしていない
「食べる」「飲み込む」機能が低下することを嚥下障害というが、高齢者の場合、加齢による口や喉の筋肉が低下することのほか、歯の欠損や義歯の不具合、病気や薬の影響など原因はさまざまだ。
また、いくつかの原因が重なっていることも多く、誰にでも起こりうる可能性があるという。
「機能が低下しても、その人のレベルに合った食事や飲み物なら安全に食べることができます。しかし、多くの人は長い間、食事することに特別意識を持ってこなかったため、本人はもとよりご家族も『食べられない』ことがなかなか理解できず、現在の口の機能と合わない食事をとっている場合が多いのです」
菊谷さんが、クリニックの患者を対象に、調査を行ったところ、次のような結果だった。
●自宅で療養中の人
機能に合っていない食事をしていた人 68%
このうち、機能より高レベルの食事をとっている人 56%
機能より低レベルの食事をとっている人 44%
●施設に入所している人
機能に合っていない食事をしていた人 35%
このうち、機能より高レベルの食事をとっている人 51%
機能より低レベルの食事をとっている人 49%
「高レベルの食事をしている人は、その状態が続けば誤嚥や誤嚥性肺炎、窒息のリスクが大きく、低レベルの食事をしている人は、その状態が続けば食べ、飲み込む機能の低下を招く可能性があります。
とくに、高レベルの食事をしていて、誤嚥性肺炎や窒息のリスクが高い人は、ときに命にかかわる危険もあるので、食事や飲み物を見直す必要があります」
とろみ調整食品の活用は手軽な誤嚥、窒息の対処法になる
市販のとろみ調整食品を活用することは、安全に食べたり、飲んだりする手助けになると菊谷さんはいう。
「市販のとろみ調整食品はそれぞれ温度や対象物によってとろみの付き具合が違うので、使い勝手に慣れるまではすこし面倒に感じるかもしれませんが、手軽な対処法になります。
利便性の高いとろみ調整食品や、嚥下しやすく調整された介護食品が多数販売されているのですが、そのことを知らず、好きなものを食べることを諦める人も多いようです。
しかし、安全に食べ続けることが、食べる機能を悪化させないためにも大切なのです。
参考となるよう、当院が運営窓口をしているウェブサイト『食べるを支える』に、とろみ調整食品利用のポイントや市販とろみ調整食品の『力価(りきか、とろみの強さ)』を示す表を公開しています。
また、そもそも食べる力に応じ、どのような具合の食べ物が安全なのか、食べ物の形態などもご紹介しています」
※「嚥下調整食・介護食の食形態検索サイト 食べるを支える」を見る
家族が集まり、みんなで食事する機会が増える年末年始。特に、高齢者が「お餅」を食べる時は、誤嚥や窒息について正しい知識をもち、予防を心がけたい。
撮影/下重修 取材・文/下平貴子