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ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』7話を考察。自分の幸せは誰のおかげかを考え、その相手に感謝を伝えることの美しさ、難しさに打たれる

 宝くじの当選金3千万円でカフェを開くことにした3人(清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠)は、その宝くじを買ったサービスエリアの販売員を訪ね、ことの経緯と感謝を伝えます。「自分の幸せは誰のおかげかと、どんどんさかのぼって考え、その相手にきちんと感謝の念を示そうとする」ことがこのドラマの美点になっていると、ライター・近藤正高さんが『日曜の夜ぐらいは…』(テレビ朝日系 日曜よる10時〜)7話を振り返り、今後の展開を考察します。

歌詞を引っ張ってくるのがうまい

『日曜の夜ぐらいは…』第7話は、いいムードで終わった前回の余韻を引きずりながら始まった。サチ(清野菜名)、翔子(岸井ゆきの)、若葉(生見愛瑠)、みね(岡山天音)はカフェ開店に向け、前回、その店舗用の物件としていい感じの古民家を見つけた。仮契約を済ませてからというもの、4人はそれぞれ時間を見つけては、監視と称してその家を見に行き、撮った写真とともに無事をみんなに報告するようになる。

 そんななか、4月のある日、サチがふと思い出して、翔子と若葉とともにある人に会いに行く。ひとり留守番のみねは、サチの母・邦子(和久井映見)と若葉の祖母・富士子(宮本信子)に招かれ、黒ひげ危機一髪などのおもちゃ類を持って彼女たちの住む団地に赴いた。

 サチたちが向かったのは、カフェ開店を思いつくそもそもの発端である宝くじを3人で買った談合坂のサービスエリアだった。そこの販売員の女性(椿鬼奴)に御礼をするのをすっかり忘れていたことにサチが気づき、翔子と若葉も誘ったのである。ちょうどその女性は、体を壊して入院するため、まさにその日、売り場をやめるタイミングであった。

 サチたちが御礼にと、菓子折りを差し出すと、女性は最後の日にこんなことがあるなんてと感激してくれるも、業務上、受け取れないと断られてしまう。考えてみれば、宝くじはギャンブルの一種なのだから、不正防止のため販売員が客から金品を受け取るのが禁じられているのは当然だ。しかし、その代わりにと、彼女は逆に自分におごらせてほしいと、サチたちにごちそうしてくれた。

 こうして3人は女性と一緒に食事をしながら、宝くじを買ったときに、彼女がおまじないにかけてくれた「ニャー」のかけ声とともに招き猫の手を真似たポーズを一緒にやってみたりと、楽しいひとときをすごす。

 このとき、サチが、自分たちのカフェは、日曜は深夜まで営業し、眠れないお客さんがひとりで来てもお茶を飲める店にしたいと語ると、女性はこんな洋楽があると「金曜日、私は愛に生きている~ 日曜は来るのが遅すぎる~ イェ~」と歌ってくれた。

 本当にそんな歌詞の曲があるのか? と思って調べてみたところ、イングランドのバンド、ザ・キュアーの「Friday I’m In Love」(1992年)という曲にほぼ同じフレーズが出てくることを突き止めた。本作の脚本を手がける岡田惠和は、脚本家になる前にFMラジオのDJをしていたこともあってか、こんなふうにセリフのなかにさりげなく歌詞を引っ張ってくるのがうまい。演じる椿鬼奴も洋楽ファンと知られるだけに、突然歌い出しても違和感がなかった(これが同じ吉本の女性芸人でも、友近が演じていたら演歌にでもなっていたのだろうか)。

『ひよっこ』のみね子を連想

 セリフの妙といえば、みね君と富士子のやりとりにもそれを感じた。このとき、富士子が、自分はこう見えても、かつては上品な性格だったのに、その後あまりにひどいことばかり続いたので、ワイルドな性格になってしまったと語ると、みね君はすかさず「覚醒したんですね。爆誕ですね」と返す。

 この反応に富士子は何のことやらと戸惑いつつも、さらに続けて、ワイルドだったのもだんだん疲れてきて、しかも、ここしばらくは腹の立つこともなくなり、どうしたらいいのかちょっとわからなくなっていると打ち明ける。これを受けてみね君は「なるほど、キャラが行方不明なんですね」「でも、僕はいいと思いますけどね。第三のキャラで」「もともとの上品さと、ワイルドに覚醒してしまった破壊キャラと、ちょっと疲れた脱力系が三つ巴となって、なかなかエモいというか……」と、彼なりに分析してみせた。

 もっとも、出てくる単語が富士子や邦子にはどれもちんぷんかんぷんで、混乱する。ただ、邦子は、富士子とみね君の会話を傍で聞いていて、二人のコンビネーションのよさに感心し、「やればいいのに、漫才。(コンビ名は)“ミネ・フジコ”で」と唐突に言い出す。そんな邦子の天然ぶりがあいかわらずかわいい。

 余談ながら、岡田惠和はこれ以前の作品でも、本作と同じ、あるいは似た名前を登場人物につけている。「富士子」はNHKの朝ドラ『おひさま』(2011年)のヒロインの祖母(渡辺美佐子が演じた)の名前でもあるし、「みね」のほうは、同役を演じる岡山天音も出ていた朝ドラ『ひよっこ』(2017年)で有村架純が演じたヒロイン・みね子の名前を連想させる。

 そういえば、『ひよっこ』のみね子の故郷は、富士子と若葉が住んでいたのと同じ茨城の片田舎だった。その茨城では、若葉たちが引き払った家に、若葉の母(矢田亜希子)が何の用があってか久々に現れる。合鍵でも持っているのか難なく玄関に上がり込むと、家がもぬけの殻になっているのを見て(でも電気はつくのはなぜ?)若葉たちが引っ越したと直感する。

 翌朝、かつて富士子が建てた家の前を通りかかった彼女は、思わず、幸田(さちだ)さんという現在の住人の立てた表札を蹴飛ばして立ち去るも、すぐに引き返して位置がズレたのを元に戻した。すると、表札を直したところだけ見た幸田夫人(生田智子)が玄関から出てきて御礼を言う。そこでふいに若葉母が、富士子と若葉がどこへ行ったか知っているかと訊ねれば、夫人は「知ってますよ」と……だめだ、教えちゃだめだ!

 不穏な動きといえば、サチの父親(尾美としのり)も、今回の冒頭、団地にフラッと現れ、サチが家に仲間を呼んでにぎやかにやっているのを外で眺めていた。前回、邦子が「エレキコミックのラジオ番組を聴き始めたのは、エレキの今立(進)さんが別れた夫に似てるから」なんて言うものだから、噂をすれば何とやらで呼び寄せてしまったのだろうか。こちらも、娘にまたカネをたかりに来なければいいのだが。

 登場人物たちと肉親がらみの問題ではまた、翔子が縁を切られた実家から、少し前に兄(時任勇気)がやって来て、父親の遺産の相続を放棄してほしいと言われていた。今回、放棄を受け入れた彼女は、再び兄と会うと、代わりに母と会わせてほしいと切り出す。しかし、兄には強く拒否されてしまった。

 そもそも翔子が実家から縁を切られた原因は、例の、太ももに彫った元カレの名前のタトゥーにあった。これについて本人は、若気の至りで彫ってしまったと笑い話のようにサチたちに語っていたが、じつはこのタトゥーを見た翔子の母親はショックを受け、心を病んでしまったという。母からしてみれば、男の名前を彫るなど堅気の人間のやることではないという認識から、娘が道を踏み外してしまったと思い、子育てに失敗したと自責の念に駆られたのではないか。いまだに母の病気は治らず、こんな目に遭わせた以上、会わせるにはいかないというのが兄の言い分であった。翔子が母親に会わせてもらえないことには同情しつつも、母を守らねばならないという兄の義務感も理解できる。

きちんと感謝の念を示そうとするドラマ

 ここしばらく順調に事が進んできた彼女たちだが、やはりよいことばかりではなかった。サチもまた、カフェの準備から一時離脱しなくてはならなくなる。バイト先のファミレスから急に店員がごっそり抜けたため、店長の田所(橋本じゅん)から懇願され、フルシフトで働く必要に迫られたのだ。彼女には、高校時代に母の足が不自由になって以来、ずっとここで働かせてもらってきた恩義があるだけに、店のピンチを前に協力しないわけにはいかなかった。

 店長個人に対しても、人間としては大嫌いだが、その仕事は尊敬していた。そのことをサチが明かしたのは、厨房で店長と食器を洗っているとき、店長から「いい仕事しますね、あいかわらず岸田さん(サチの姓)は」と言われ、今回の件を謝られたときだった。

「世の中大変だったときに、本当にどうしようって思ったとき、一緒に泣いたのも忘れてません。テイクアウトや病院へのデリバリーの業務をできるようにしてくれたときのこと、田所さんが頑張ってそうしてくれたのも、わかってます。感謝してます。仕事以外は、ほんと、マジでありえないぐらい最低ですけど」

 ここでサチが口にした「世の中大変だったとき」とは、コロナ禍のピーク時を指すのだろう。直接、コロナと出てこないのは、特定の時代を舞台にしていると感じさせないためか。ともあれ、淡々と語られる店長への感謝の言葉に、店長ならずとも胸にグッとくるものがある。

 このドラマが素晴らしいのは、サチたちが自分の幸せは誰のおかげかと、どんどんさかのぼって考え、その相手にきちんと感謝の念を示そうとすることだ。今回の宝くじ売り場の販売員に対してもそうだし、いままでにも、サチと翔子と若葉を引き合わせてくれた恩人として、エレキコミックの二人やみね君にもおごるなどして御礼の気持ちを表してきた。現実には、そういう態度を示す人はまれで、むしろ自分の不幸を他人のせいにしてしまうことのほうが、筆者自身を省みても多いような気がして恥ずかしくなる。

 サチはちょっと足踏み状態に入ってしまったものの、開店準備は翔子・若葉・みね、そして店のプロデューサーになってくれた賢太(川村壱馬)によって着々と進められる。今回のラストでは、賢太がカフェ開店時のイメージ図を示して、ますます夢が広がる。イメージ図は、劇中で賢太が言っていたとおり、このドラマで実際にアートワークを担当するヨシフクホノカが描いたもの。どこか80~90年代のイラストを思わせるタッチが、古民家を利用したカフェのコンセプトにぴったりと思わせる。

 第8話の予告では、リフォームも済んでカフェオープンも間近かと思わせるカットもあった。その放送を前に、きょう夕方6時からは、NHK-FMで岡田惠和がパーソナリティーを務める番組『岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談義~』に、サチ役の清野菜名がゲスト出演する。隔週の日曜夕方に放送されている同番組には、ここ数ヵ月のあいだにも、生見愛瑠、岸井ゆきの、和久井映見と、『日曜の夜ぐらいは…』の出演者が登場してきただけに、今回もドラマの話題がのぼるに違いない。撮影の裏話なども飛び出すのか、こちらも楽しみである。

→このドラマのレビューをすべて読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』3話を考察。運に恵まれなかった3人にとって、人生を変えるに十分な額「1千万円」を狙うのは“久々の人物” 

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』2話を考察。サチ(清野菜名)が楽しみを禁じるのは、母(和久井映見)への負い目?そして母も…

●ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』は車椅子の母からの贈り物から始まる。「たまには私から離れて、思いきり笑ったりしてらっしゃい」

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