お金、ワンオペ、ストレス…事例に学ぶ「後悔しない介護」のための3つの準備
セレモニーホールを運営しながら、看取りサポートの活動をする三村麻子さんによると、親を看取った後、「父にもっといい介護ができたのでは…」「母とけんかしたまま最期を迎えた」などと後悔する人も多いという。介護で後悔しないために、目の前の介護の問題にどう対処すべきか、三村さんの実体験をもとに教えてもらった。
介護のトラブル事例から学ぶ「後悔しないために準備できること」
セレモニーホールを運営し、看取りサポートの活動をしている三村麻子さん。『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』の著書もある三村さんは、介護から看取りまでご家族に寄り添う中で、多くの相談を受けてきた。
親を介護しているとその最中は気がつきにくいが、もっとああすればよかった、こうすればよかったと、親が亡くなってから後悔する人も多いという。
三村さんが実際に受けた相談から、もっとも多い介護の問題やトラブル事例を3つピックアップし、アドバイスいただいた。
【1】お金の問題:介護費用を試算して“見える化”
「介護中の方や、葬儀に関するご相談を受ける中で、一番多いのが“お金”に関すること。
義親を在宅で介護をしている方が、より良い介護をするために住宅の改装をしようとしたところ、すでに家を出ているごきょうだいから『実家をいじるな』と言われたというケースがありました。
介護を手伝わない親族たちが、あれこれと口を出してくるということは結構あるんです。
大前提として、親の介護費用は親の資金でできる範囲にすること。親の資産状況を親族で共有し、その上でどのくらいかかるのかを考えてみるといいでしょう。
たとえば、今後の介護期間を20年などと想定し、実際にかかる介護費用を計算して共有することをおすすめします。目で見える形にすることで、親族の方たちも説得しやすくなると思います」
また、円満な介護を続けるためには、介護に関わる家族での情報の共有も大切だという。
「私自身も、親の介護について家族や親族でグループLINEを作り、いろいろと報告し合うようにしていますよ」
【2】ワンオペ問題:介護プランを作って親族で共有する
次によくご相談されるのが、介護をひとりで抱えてしまっているケースです。
ひとり暮らしの実母を通いで介護をしていた女性が、ごきょうだいは男性ばかりで介護を手伝ってくれないと悩んでいらっしゃいました。介護される母親のほうも、つい娘を頼りにしてしまうもの。結果的にワンオペ介護となってしまうのです。
昔から日本では「嫁や娘が介護を担うもの」という考え方があり、いまだに女性が介護の主戦力となるケースが多く見られます。
在宅や通いの介護の場合、親の介護が始まりそうになったら、まずはどんなケアが必要になるのかを洗い出し、担当を決めて分担することが大切です。
ビジネスと同じように介護にも『事業計画』のようなプランが必要だと考えています。介護費用などの金銭面の確認はもちろん、どんなケアがあって、誰が何をするかを明確にしておきたいところ。専業主婦だとしても家族のための家事など介護以外にやらなければいけないこともたくさんありますから、介護はひとりで背負うには負担が大き過ぎると思います」
【3】介護ストレス問題:ショートステイやレスパイト入院の検討を
「在宅介護でストレスを抱えている方もたくさんいらっしゃいます。
介護のストレスで疲れがたまって体調を崩したり、最悪の場合は介護うつを引き起こしたりしてしまう恐れもあります。そうならないために、『介護から離れることを考えてみてくださいね』とお伝えしています。
たとえば、介護認定を受けているなら、ショートステイやデイサービスを利用して一時預かってもらうこともできます。
医療的ケアを必要としている方を介護している場合は、介護者のストレス軽減のために、レスパイト入院を検討する手も。
レスパイト入院とは、介護家族支援短期入院と呼ばれるもので、在宅介護が困難になった時に患者を入院させるシステムです。親御さんには『検査入院だから…』などと伝えれば、理解してもらいやすいでしょう。レスパイト入院を行っている病院を探して相談してみてくださいね」
介護中のメンタルを支える「ごほうび」
介護者の精神的なケアには対価となる「ごほうび」が必要だという。
「介護は子どもがするのが当たり前だと思っている親御さんもまだいらっしゃいます。住み慣れた家で子どもに在宅介護を担ってもらうのは、お金がかからないと考えているかもしれませんが、介護には時間やエネルギーがかかります。介護をした分の対価を考えてみましょう。
たとえば、週1回4時間の通い介護をしているのなら、時給1500円として1回ににつき6000円、それに交通費もかかります。週イチで遠距離介護しているなら、月4回で2万4000円プラス交通費となります。この金額を親の預貯金から介護費用としてもらってもいいと私は考えています。
親御さんとの関係性にもよりますが、介護をした分のお小遣いをもらってもいいかもしれません。そのお金を自分のごほうびとして使って欲しいですね。
『介護は奉仕ではなく、仕事として引き受ける』と考えて、それに見合った対価(ごほうび)をもらうことで介護にも前向きになれると思います」
三村さんも実母のところへ見守りに行った際には、おいしいランチを母にご馳走してもらうという。
「円満な介護をするためには、親子とも早めの準備が必要です。親が70代に入ったら介活(介護活動)や終活について話し合っておきましょう。いざ介護が必要になっても、トラブルが減らせると思います」
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教えてくれた人
三村麻子さん
看取りサポートや葬儀企画などを行う「あなたを忘れない」代表取締役。故人と家族が最後に過ごす時間を大切にするセレモニーホール「想送庵カノン」を運営。これまでに葬儀や看取りを通して1000件以上の相談にのった経験がある。自身の両親や義両親の介護などで培ったノウハウを生かして、相談者の心に寄り添い、各々の家族に沿ったアドバイスをしている。著書に『離れて暮らす親と上手に付き合うための本』(永岡書店)がある。https://www.tokyo-kanon.com/
取材・文/本上夕貴