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帰省時がチャンス!「エンディングノートは親と一緒に作成すべき」と認知症の母を介護する息子が語る理由

 岩手・盛岡で暮らす認知症の母の遠距離介護を続ける作家でブロガーの工藤広伸さん。年末年始の帰省で親に会う機会があるなら、親が元気なうちに「エンディングノート」を一緒に作成するのがおすすめだという。母の介護も11年目となるが、早い段階から「エンディングノート」を活用してきた背景には、ある理由があった――。

親と会う年末年始に活用してほしい”エンディングノート”

 新型コロナウイルスの影響で何年も会えなかった親と、久しぶりに会う予定の方も多いと思います。家族水入らずでゆっくり過ごすのもいいのですが、せっかくの貴重な機会なので、介護について親と話し合う時間を作るといいかもしれません。

 とはいえ、いきなり親と介護について何を話したらいいか分からないと思います。そんなとき、活用して欲しいのがエンディングノートです。ノートに沿って親子で話し合えれば、医療や介護の方針が見えてくるはずです。

40才から突然始まった認知症介護

 介護は、いきなりやってきます。病院や家族からの1本の電話で急に介護が始まり、病院や介護の手続きに追われるようになります。

 わたしは40才のときに、岩手に居る妹から祖母が救急搬送されたと電話をもらって、そのまま遠距離介護がスタートし、自分の人生が大きく変わり始めました。

 当時、祖母の介護は母が担っていたのですが、わたしの想像以上に祖母は認知症が進行していて、銀行口座がどこにあるのか、延命治療を望むのか望まないかなど、医療や介護に必要な情報は何ひとつ引き出せませんでした。また母も全く把握できていなかったのです。

 唯一の手がかりはわたしの小学校の頃の記憶で、祖母から「葬式代くらいはちゃんと残してあるから」と何度も言われていたので、介護費用は祖母の口座から捻出できるかもしれないと思いました。しかしどの銀行に口座があるのか、何も分からないまま介護がスタートしてしまったのです。

 困ったわたしは祖母が入院していた病院の医療相談室に相談すると、成年後見制度を利用するしかないと言われました。東京の会社で働いていたわたしには時間がなかったので、すぐに家庭裁判所へ向かい、申立ての手続きを始めたのです。

 祖母の病院代や介護費用はわたしが立て替えることになったのですが、本当にお金が残っているのか、立て替えはどのくらい必要で、いつ戻ってくるのか分からない状態でした。

 その後自らが成年後見人となり、実家近くの銀行をすべて回って祖母の銀行口座を発見。家庭裁判所の許可を得て病院代を回収して、以降の介護費用は祖母のお金を使うようになったのです。

もしもエンディングノートを準備していたら

 もしも祖母とエンディングノートを作成して、銀行の口座番号が分かっていたら、近所の銀行を何軒も訪問せずに済みましたし、病院代が戻ってくるかどうかの不安を長期で抱える必要もありませんでした。

 エンディングノートにはこうしたお金の情報に加えて、病気の告知の方法や延命治療の有無、介護の方針、葬儀に誰を呼ぶか、お墓や戒名にどれくらいお金をかけるかなどを記載する欄があります。

 また基本情報として、銀行の口座番号や保険の加入状況、借金はあるか、亡くなった際に知らせる友人・知人の連絡先一覧などを記入するページがあります。

 あらかじめ親の意思が分かっていたほうが、突然介護が始まってもパニックにならずに済みますし、わたしのように家庭裁判所へ足を運ばずに済むかもしれません。

母がエンディングノートに綴った「棺に入れてほしいもの」

 エンディングノートは親にただ書いてもらうのではなく、親子で一緒に話しながら書いたほうがいいです。理由はノートには書いていない、親の気持ちが分かるからです。

 例えば親に大きな病気が見つかったとき、自分には告知しないで欲しいとノートに書いてあったとします。実際にそうなったときには、本人の意思に沿って行動するといいのですが、何か前提条件が隠れているかもしれません。

 75才までは病気と闘いたいから告知して欲しいけど、80才を超えたら告知の必要はないという意味かもしれません。エンディングノートはチェックマーク1つで回答できる手軽さがありますが、親子で一緒に話しながら書くと、親の細かい思いまで理解できます。

 わが家では祖母の失敗を繰り返さないために、母とは元気なうちから医療や介護の方針について話し合い、エンディングノートを作成しました。

 エンディングノートにあった質問で、棺に何を入れたらいいかを母に尋ねたところ、若い頃ファンだった舟木一夫のCDや写真集を入れて欲しいとのことだったので、きっちり棺に入れるつもりでいます。

年末年始は介護について親と話し合う時間を

 遺言書と違って、エンディングノートには法的な拘束力はありません。しかし親の医療や介護の方針を、子が代理で判断するのは荷が重いので、本人の意思を知っておいたほうが、医療や介護はラクに進められます。

 年末年始から、元気な親と医療や介護の話をするなんて縁起でもないと思うかもしれませんが、介護はいつ始まるか分かりません。次回親に会うのは、半年以上先のお盆になってしまう可能性もあります。

 あのとき親と話し合っておけば、意思を確認しておけばと後悔することのないよう、年末年始は介護について親と話し合う時間を作ってみてください。

 今日もしれっと、しれっと。

→この連載の他記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

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