「介護をするのは親孝行」は本当か?調査結果で判明した親の本音「子に迷惑はかけたくない」
65才以上の高齢者の要介護(要支援)認定者数は682万人※となり増加の一途をたどる(厚生労働省・令和2年度介護保険事業状況報告より)。親の介護は思ったより早く現実となるかもしれない。親の介護のために仕事を辞める「介護離職」も増えている今、「介護するのが親孝行」は本当か?調査結果をふまえ、専門家に意見を聞いた。
「介護するのが親孝行」は本当か?
精神的にも、経済的にも負担の少ない介護をするなら、早くから施設を探しておくべきだが、これがなかなかうまくいかない。仮に入居できそうな施設を見つけたとしても、本人が嫌がる場合も多い。
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんが言う。
「やはり“住み慣れたわが家がいちばんいい”という人は多い。またそれ以上に、本人が高齢者施設に対してよくないイメージを抱いていることもあります。いまの高齢者の中には“高齢者施設=姥捨て山”というイメージを持っている人も少なくありません。施設に入居することを、“子に捨てられた”と思ってしまうのです」
実際に、アクサ生命が60~70代を対象にした「自分が要介護状態になったら、どこで介護を受けたいか」と問うアンケートでは、もっとも回答が多かったのが「自宅」(36.4%)だった。
「子から介護施設への入居を提案されたらどう思うか」という問いには83.2%が「寂しい」と答えている。
だが親とて、現実はわかっている。「迷惑をかけてしまうので仕方がない」と答える高齢者も82.6%と同じく8割を超えており、同じアンケートの「自分が要介護状態になったら誰に介護してほしいか」という問いでは、最多が「介護サービスの職員」(49.6%)で、「自分の子」と答えた人は、わずか24.6%だった。
「子に迷惑はかけたくないが、寂しいのは嫌。できれば自宅で死にたい」というのが、親世代の本音のようだ。
「介護するのが親孝行」は本当か?
Q.自分の介護は誰にしてほしいですか?(60~70代)
・介護サービス職員…49.6%
・配偶者…41.2%
・自分の子…24.6%
Q.親の介護は誰がすべきだと思いますか?(40~50代)
・自分自身(子)…57.2%
・介護サービス職員…36%
・自分の兄弟姉妹…30.4%
(019年のアクサ生命のアンケート調査)親世代(60~70代)が「自分の介護はプロに任せてほしい」と回答しているのに対し、子
世代(40~50代)は「親の介護は自分がやるべき」と考えている。
親子で高齢者施設の見学を
太田さんは、親子で高齢者施設の見学に行ってみることをすすめる。
「実際に目にすることで、少なくとも高齢者施設に対する印象はガラッと変わるはずです。もちろん、施設によって違いはありますが、いまの施設は明るく、過ごしやすい。
親を連れていくのが難しそうなら自分ひとりで行って、後で親に話して聞かせるだけでも心が動きます。老老介護も増えているいまは“私は将来、高齢者施設に入りたいから、見学につきあって”と言ってうまくいったケースもあります」(太田さん・以下同)
近年報道でも目立つようになってきた施設での虐待事件や劣悪な環境の介護施設などはほんの一部だと、太田さんは言う。見学時に衛生状態やほかの入居者の様子をチェックするほか、入居後に定期的に面会に行き、不自然なけががないか、職員の様子がおかしくないかを確認すればいい。
太田さんによれば、入居後に小さな不満が出るのは当たり前だという。
「トラブルがなくても、住み慣れたわが家から離れた親が“家に帰りたい”と言うのは普通のこと。そもそも、施設は24時間体制ではありますが、24時間常にそばにいてくれるわけではありません。入居者同士の小さないさかいや、ひとりで転倒して少しけがをしてしまうことは充分に想定できます」
親孝行の「呪い」
親も子も納得しているのに、当事者ではない人が施設への入居を許さない場合もある。いざ入居を検討し始めると突然、親戚などの“外野”が反対しだすことは少なくない。
「“育ててくれた親の介護をしないなんて、親不孝だ”などというのは、はっきり言って思考停止です。考えてもみてください。それまでは年に数回しか顔を合わせなかった親を突然、24時間ベッタリ介護をするようになっても、いい関係を築けるわけがありません。
どんなに頑張っても認知症は進み、お金も尽きて“もう、早く死んでくれないかなぁ”などと思うようになる。それこそが本当の親不孝です。何もしてくれないのに口だけ出してくる“外野”の言葉は聞き流してください」(NPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さん)
家父長制を引きずる日本は、いまだに「家族」に幻想を抱いている人が少なくない。かつては「小さい子供を保育園に預けるのはかわいそう」と言う人もいたが、いまはほとんど聞かれない。子供の世話をプロに任せるのが当たり前なのだから、親の世話をプロに任せて、責められるいわれはないはずだ。
叔父や叔母などの時代には、頑張れば何とかできたかもしれないが、いまの働く世代には、負担が大きすぎると、太田さんも言う。
「昔は兄弟姉妹が多く、親の介護も手分けすることができました。しかし、いま親の介護の問題に直面している40代、50代は一人っ子が多く、抱え込まざるを得ません。また1990年代に『友達親子』という言葉が生まれたように、一人っ子は親との関係が密になりがち。親から“家にいたい”と言われると“自分が何とかしてあげなくては”と思う人が多く、また周囲から“仕事と親と、どっちが大切なんだ”などと言われると、抗えないのです」(太田さん・以下同)
これもまた「親孝行の呪い」なのだろう。
教えてくれた人
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト、川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事
文/角山祥道 取材/小山内麗香、進藤大郎、土屋秀太郎、平田淳、伏見友里
※女性セブン2023年3月2・9日号
https://josei7.com/
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